「うおお歩、歩雪だぁーーー」
厳しい寒さの日、数年ぶりの雪が降った。僕の憧れの上司―――――京極さんは目をキラキラさせながら窓にへばりつく。僕より年上ですよね…あなた小学生ですか
「そうですね、見ればわかりますよ。」
「……うわーー、冷た。おもんねえ。」
「なんでそんなにしけた顔するんですか京極さんが子供すぎるだけなんですよ」
「はぁあ上司に向かって……決めた罰ゲームとして明日1日俺に付き合え」
「なんでそうなるんですか」
「じょーしの命令だ」
「………別に良いですけど」
相変わらず仕事以外のことは無茶苦茶ですね…でもオフの日に大好きな京極さんと一日中一緒にいられる。そんなの引き受けるに決まっているじゃないですか顔には絶対に出しませんが
そんなこんなで、滅多にない休日は京極さんと過ごすことになった。
「さっむ……」
てっきり自分の家か京極さんの家で過ごすと思っていたのに…聞いてない、こんな真冬に外に行こうだなんて…うちの上司はどれだけ馬鹿なんだ。昨晩大雪が降り、たった一夜で辺り一面冬景色になっていた。
「おまたせー歩」
京極さんがやって来た。普段よりも少し高めの位置で結ばれた銀髪、スラリとした長身に黒のロングコートが映えており、普通に歩くだけで周りの人を惹きつけていた。黙っていればイケメンなのに…
「で、今からどこに行くんですか」
「決まっているだろ、公園だ。」
「はぁああああこのクソ寒いのに嫌です」
頭おかしいんじゃないかこの人。寒さで気が狂ったのか。あなた普段はカリスマ刑事ですよね周囲の人達から完璧人間だと思われている京極さんには、少しばかり抜けているところがある…… まあ、僕にとってはそこも魅力なんですけど。風邪引いたらどうするんですか
「ほら行くぞおおおお」
「ちょっと引っ張らな…」
京極さんは僕の制止も聞かず手を引き、公園まで強制的に連れて行った。見渡すと、雪だるまやかまくらを作ったり、ソリに乗って遊んだりして楽しむ子供達が大勢いる。こんなところで大の大人が遊ぶなんて…それに京極さん普通に歩いているだけでもめちゃくちゃ目立つんですから僕の身にもなってください
「歩、雪だるま作ろうぜ」
「えっ、僕手袋とか何もしてないんですけど」
「大丈夫だ歩の手袋も用意してきたちゃんと防水だぜ」
昨日から雪だるまを作る気満々だったのか、新品の手袋を渡してくれた。見た目は派手でチャラチャラしているくせに、こういうところはしっかりしている。本当に何なんだろう、この人は。
「どっちが上手くできるか勝負だ、ハイスペックモンスター」
「…いいですよ。」
僕と京極さんはそれから一言も発さず、黙々と作業に取り掛かった。雪だるまを作るなんて初めてだ。デニスは作ったことがあるだろうか。今度教えてもらおう。……にしても中々綺麗な球体にならない。京極さんはどんな感じだろう……
30分後、それぞれ力作が完成し、見せ合う時が来た。まずは京極さんの雪だるまから。
「どーだ歩、可愛いだろ」
黄金比を意識したかのようにバランスが良く、美しい球体が重ねられていた。顔は女子ウケしそうな大きな丸い目、にっこり笑った口。そして雪だるまのために持ってきたのか、赤いマフラーと小さな手袋、帽子が可愛らしく飾られていた。
「すごい……」
「だろ〜〜次は歩だ」
京極さんほど上手くはないが、初めてにしては上出来だと思う―――――だが、京極さんは目を見開いて驚いていた。笑いを堪えているのか、肩を震わせている。
「あ、歩…これ…彫刻になっているじゃねーか…」
「顔とかどうするか分からなかったんで、彫ってみたんですよ。」
「まるで地蔵だろ…ぷっ」
「何笑っているんですか京極さん」
「いやいや、お前器用だなーって思って。」
「バカにしてます」
「してねえよ流石ハイスペックモンスターだな。」
「その名前嫌なんですけど」
「あっ、あそこのちびっこ達にどっちが上手いか判定してもらおうぜ〜」
「ちょっと聞いてます」
僕の言うことを聞かずに京極さんは走って行ってしまった。やっぱり僕に興味無いんですね。イライラしていると、京極さんが子供を5人引き連れてきた。早すぎませんコミュ力高。
「どっちの雪だるまが上手いと思う」
そんなの京極さんに決まっているだろう。予想通り、5人共京極さんに票を入れた。
「こっち、怖い……」
まあ、そうだろう。分かっていたからその感想は良いが、ずっと笑いを堪えている京極さんが気に入らない。子供達が戻った後、テニスボールくらいの雪玉を京極さんの顔に食らわせた。
「んなっっ急に何すんだよ」
「別に……」
「…ほう、やるか歩。」
「…臨むところです。」
そして、大人二人による本気の雪合戦が始まった。
「歩強えな」
「京極さんこそっ」
両者一歩も引かない。白熱したバトルが繰り広げられた。流石武闘派の京極さん、動きが良いですね
「これはどうだ歩」
「うわっ」
容赦なく眼鏡に思い切り当てられた。前がよく見えない。
「くっっ」
負けじと京極さんの足元に何度も雪玉を投げる。
「へへっ、どこ投げてんだよ終わりだっ…うぉっ」
前進してきた京極さんがひっくり返った。さっき雪玉と一緒に投げた手袋を踏んづけたようだ……計画通り。
「そんなに僕の雪だるまが面白いなら、もっと近くで見せてあげますよ」
体勢を立て直そうとする京極さんに接近し、自分が作った雪だるまを抱えあげる。
「ちょっと待て降参……げっ」
京極さんの制止を聞かずに、ほぼゼロ距離から雪だるまを思い切り投げつけた―――――しかし残念なことに、反射神経が並の人間よりも桁違いに良い京極さんは間一髪かわしてしまった。あーあ、渾身の一撃だったのに…。まあ良いか、僕はさっきの言葉を聞き逃しませんでしたよ。
「はぁ、はぁ…オメー、俺じゃなかったら死んでたぞ…」
「さっき降参って言いましたよね。僕の勝ちです。」
「んなっ………分かったよ、飯奢るわ…」
雪遊びを終え、温かいものを求めて僕と京極さんはラーメン屋に来た。
「はぁ〜〜〜、つっかれたー」
「僕の方が疲れましたよ。真冬に雪遊びに付き合わされるし………一生懸命作った雪だるまはディスられるし。」
「お前まだ怒ってんのかもう許してくれよ。」
「じゃあ、罰ゲームしてもいいですか今日散々京極さんに付き合いましたし。」
「………分かったよ。」
「では十秒間目をつぶってください、早く」
「おっ、おう…ヤバイのはやめろよな。」
京極さんが目を閉じたことを確認したあと、すぐに京極さんのラーメンに七味を大量にぶち込んだ。流石に匂いがキツいのか、京極さんは眉を顰めていた。
「はい、10秒経ちましたよ。」
「…ふーざけんじゃねえええ歩」
真っ赤になったラーメンを前に、京極さんはバカでかい声を上げる。店の中にいた客は突然の大きな声に驚き、一斉に僕と京極さんを見た。先程まで騒がしかった店内がシンと静まり返る。
「…兄ちゃん、どうした」
「あっ、いや…すみません」
店主の声で我に返り、周りからの視線に気づいた京極さんはラーメンと同じくらい顔を赤くした。京極さんが赤面するなんて珍しい。京極さんには悪いが、貴重な表情を見れた僕は内心今日一番喜んでいた。
「まさか食べないんですか半分くらい残っていますけど」
「……くぅ―――――、頂きます……ゴッホ、ゴッッホ」
「大丈夫ですか」
「か、辛すぎ……水くれ」
一口食べただけなのに、額から汗がダラダラと流れていたため相当辛いのだろう…いくらなんでもやりすぎてしまったか。まあ、今日くらい良いだろう。数十分間格闘し、京極さんはやっとラーメンを食べ終えた。テーブルにあったティッシュはほぼ無くなり、ウォーターポットは空になった。
「ご……ごちそーさま…」
「ごちそうさまでした。」
次の日、いつも通り職場で仕事をしていると、少し遅れて京極さんがやってきた。
「おはようございます、京極さん」
「おっはよー歩……へっっっくし」
「風邪引いてますね…あんな寒い中雪遊びしたからですよ」
「はあお前が激辛ラーメン食わせたせいだろ鼻水止まんねーよ」
「京極さん、もう会議始まりますよ。急いでください」
「聞いてんのかって待てよ歩ーーーー来年覚えとけ」
…来年、ですか。僕はあなたの側にいつまでいるでしょうね。