糸の先には1.ルチル
コンコン、と小気味良いノックの音が一階の廊下へと響いていく。
「ミスラさん、ルチルです」
声を掛けても、扉の向こう側から返事が返ってくる様子はない。
(うーん、何処かへ行ってるのかな……)
静まり返る扉を前に、自然と小首は斜めに傾いた。この間の授業で上手く魔法を使えたこと、中庭の花壇の花が開きはじめたこと、小さな出来事から大きな出来事まで、話したいことは山程あった。しかし、待てど暮らせど待ち人が来る気配はない。きっと、何処かでお昼寝でもしてるのかな。そんなことをぼんやりと思いながら、ルチルはミスラの部屋を後にした。
廊下を歩いていると、正午の談話室は今日も賑やかな声が響いている。
(声色から賢者様にクロエ、シノもいそうだな……。)
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