人工知能が紡ぐミューモンの初夜時計の針がとうにてっぺんを過ぎ、客もまばらになった頃。
明日は仕事だから、と夜風を後にしたリカオとジャロップを見送ったボークは店内に二人だけになったことを確認すると、緊張していることがバレないようにゆっくりとノートパソコンをとじた。
「さて……と。そろそろボークも帰ろうかな。ウララギ、お会計いい」
「かしこまりました。クースカさん」
手際よく決済を済ませてレシートを手に握らせてくるその自分とさほど変わりない大きさの手が温かくて、すぐに離れたのにいつまでも自分の手のひらに残っているような感覚になる。
「ねぇ、ウララギ。ショートノーティスで悪いんだけど。これからさ、店が終わったら……うちに来ない」
普段のボークなら絶対にありえないような甘さを含んだ声を出した。でも、これくらいしないとこのやさしくて残酷な彼は気づかないだろうから仕方がないのだ。
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