銀鏡 僕が見える世界はいつも真白だった。水銀や鉛にも似た銀色の痕跡──古代魔術の痕跡が見えるようになるまでは。
「眼鏡を外しても痕跡が見えるとは不思議なものだな」
「まったくですよ。しかも不思議なことに外した方が鮮明に見えるんです──あっ、ありましたよ。ふふ、ほらあそこです」
今日もフィグ先生と古代魔術の痕跡集めに励む。廃墟の隅を指差しても、先生は明後日の方向を向くばかりだ。古代魔術の痕跡が見えることはない。見せることも叶わない。それでも僕の力を信じ、こうして共にいてくれことがどれほど心強いことか。
「……どうやら何ともなさそうだな」
「ええ、問題ありませんよ」
きっと先生は守護者の役目を果たした僕に安堵の笑みを向けているのだろう。でも先生が渇望する僕の双眸は、硝子一枚隔てないと貴方の顔が見られない。それがとてももどかしい。銀色の痕跡を見るように、貴方の透き通った青の目も、目尻に寄る皺も全てこの目で見ることができたなら……
「今日も良くやったな。そろそろ城へ帰るとしよう」
ああ……やっぱり今は先生の顔が見えなくて良かったかもしれない。今まで当たり前だった真白の世界が憎らしくなってしまうから。だって先生が浮かべた笑みも、瞳も全部、この双眸に向けられたものだ……僕ではない。
「……はい、フィグ先生」
平静を装いそっと眼鏡を掛け直す。そう、硝子一枚を隔てるように心に壁を隔てて秘めておけばいい。そうすれば真白に銀色が差し込んだ僕の世界で、鮮明な青がふたたび煌めくのだから。