夏休み【前編】「キャンプ行くぞ」
「はあ?」
ローテーブルの前に座り、端末を開いて作業をしていたシーシャは、唐突に投げかけられた言葉の意味を咄嗟に理解できず反射的に疑問形で返してしまう。しかしソファに座るジュニアは気にする様子もなくその先の言葉を紡いだ。
「子供の頃ジジイに連れて行ってもらった穴場がある、誰にも邪魔されずに夏を楽しむのには丁度いい」
「……?ああそう、まあ気をつけろよ、海だか山だか知らねえけど事故にでも合われたら寝覚めが悪い」
「お前も来るんだよ」
「いや仕事だよ」
なんの報告かと思えばレジャーのお誘いだった。
夕食を済ませ、ジュニアの部屋のリビングで各々寛いでいた矢先、藪から棒に投げられた「キャンプ」という自分にはほぼ縁のない楽しげな言葉。行く、と言うのは簡単だがこちらの都合が完全に無視されていることにシーシャは若干の苛立ちを覚えた。
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