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    Ma2rikako

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    Ma2rikako

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    荼ホwebオンリー『騙すつもりが絆されて2』展示作品。

    溺れる者は海で溺れている人がいる、という誰かの言葉に弾かれるようにホークスの視線がその秋の大海原に向けられた。敵連合の一員としては隠密行動になるのが常だ。敵の仲間に入れてくれと申し出てきたホークスが、今一緒にいる身バレの危険のある俺を差し置いてそっちに飛んでいくことはなかった。少しして、もう間に合わないという事実がその場の空気で分かる。それは俺がいなかったとしてもおそらくは手遅れだった。ホークスのスピードをもってすればあるいは助かったのかもしれないが、もう終わったことだ。


    溺れる。
    溺れるとはどんな気分なのだろうかと思う。
    海の中ではこの炎はどうなるのだろう。身は焦がされないのだろうか。川でも沼でもプールでも風呂でも。そもそも炎を纏うことができるのだろうか。時々そんな疑問が降って湧くときがある。
    けれどもそれを実行に移すなんてことにはさほど興味がわかなかった。


    「俺、泳げないんですよ」
    そんな事をホークスが言っていたのを聞いたことがある。敵連合が解放軍を吸収して間もなくの頃だ。知らない誰かとの会話が耳に入って来た。それは弱点なんじゃないのか?そんなに軽々と口にしてもいいもんなのか?一瞬、そう思ったが、あの羽で海の中を自在に泳げるイメージがわかない。確かに、別に言っても言わなくても構わなかったのだろう。
    あの時の、海を眺めながら唇を噛み締めた口惜しさの滲んだ哀れな目元を思い出した。
    「別に、だからといって水が嫌いなわけじゃない。普通に海に行けば楽しむこともできるし、むしろ気持ちがいい」
    ホークスはどうということはないという顔をしてあっさりと水を肯定した。


    夢を見始めたのはそれからだ。
    溺れる夢を見る。
    正確には海に沈む夢だ。成す術もなく暗い深海へと沈んでいく。コポコポと流れる海水の音。静かだった。溺れているのとは少し違うのかもしれない。俺は藻掻くことはしなかった。ただ、水面に向かって手を伸ばしてみる。手の先には光、沈む背面には闇。俺が向かうのは闇だ。なのになぜ手を伸ばしている。そこには何がある。
    あの時の海岸を思い出す。
    あいつは、俺が溺れていたとしても優先すべきことがあるのなら見捨てるのだろう。その時、どんな顔をしているのか、それには興味があった。そんな事を思いながら俺は沈んでいた。



    夕立が来た。
    春の夕立にしては嵐ともいえる雨の中、傘なんてものは持ち合わせているはずもなかった。昨日も夢見が悪かったせいで、寝た気がしないままあちこち行かされて正直苛ついていた。
    とっとと寝ちまおうとずぶ濡れのまま山荘の部屋にたどり着くと、扉の前にホークスがいた。夢見の悪さの原因だ。そいつは水浸しの俺を見てぎょっとした後、わざわざ待っていたにもかかわらず、俺の部屋に入って勝手にタオルを持ち出した。
    偽物の笑みを浮かべながら「おつかれさん」なんて言いながら、そのタオルを俺の頭にかぶせようとした。その腕を掴んで部屋へと引きずり込む。
    「だっ……んッ?……ッ、おいっ、んむッ……ッ」
    すぐに閉めた扉に押し付けその唇を貪ると、驚いて俺の背中を掴んで引きはがそうとしていた手が、すぐに諦めて背を撫でる。何かあったのだと勘ぐって落ち着かせようとでもしているのだろうか、黙ってそれを受け入れる。この察しの良さと切り替えの早さは面倒くさくなくていい。
    自分のものよりかは小さな舌を引きずり出して、裏側を擽りながら尼噛みしてやると、う、と呻いて顎が引けた。下の歯列を順になぞり、顔を両手で固定しながら頬に溜まった唾液をかき混ぜた。合わさる唇がぬめりを帯び、口端から溢れたそれが顎まで伝う。ホークスの両手が俺の肩を押し返してくる。受け入れたんじゃなかったのかよ。そんな抵抗に応じてやる気はない。
    「ん~ッ!……ッん、んむぅっ」
    肩をバシバシ叩いてきやがる。
    しつこい、とよく言われる。
    キスが好きなのか、とも。
    「はっ、ふぅ……息、できん、荼毘、だっ、んんッ」
    それが目的だ。
    まるで溺れているみたいで。
    溺れろ。溺れろと。
    こいつを水に沈めて溺れさせたい衝動に襲われることがあった。



    溺れさせようとする夢を見る。
    あの海岸で、波打ち際で、この赤い羽の男を殴り倒して海水に放り出す。波の引いた砂浜で起き上がろうとする男の上にまたがって首を掴んで水分を含んだ重たい砂に押し付ける。再び波が打ち寄せ、不意を打たれて飛沫を浴びた顔が苦痛に歪む。咽込み、海水を吐き出しながら逃げ出そうとする体を全身で押し倒してその口を塞いだ。夢の中なのに塩辛いと感じたのは、海水がそうであるとすでに知っているからだ。それなのに、味わう口内は甘さを引く。それも知っていたからかもしれない。大海原の片隅で水浸しになりながら二人して溺れていた。



    雨上がりの独特の湿気と匂いがした。
    すっきりとした気分で迎えた朝はやけに澄んだ青空だった。
    いつもは服を着たままなだれ込むのが、さすがに水浸しじゃあ気持ち悪くて全部脱いだ。もちろん、俺のずぶ濡れのコートから移って濡れたナンバーツーの服も全部ベッドの下だ。ついでに邪魔なデバイスの付いた羽も小さくさせた。
    こいつが行為の後、俺の隣で易々と意識を手放すようになってどれぐらい経つんだろうか。相変わらず、いやだ、だめだ、やめろ、は無くならないが、その代わりに、イイ、とか、そこ、とか、あと意識を混濁させながらも俺の名前を呼ぶ回数も増えてきた。やるのはいつも俺の都合だ。全部俺のやりたいようにやる。昨日も散々抱きつぶしてやった。もう終わりだろうと安心したところでそれを裏切り何度も何度も犯し続けた。肩も背中もたぶんこいつの爪痕がいくらか残ってるんだろう。ヒリヒリと痛てぇし。その代わり、こいつの体の至る所に俺の付けた痕も刻み込まれている。いつもそうしないといけない気がして。噛みつき、引っ掻き、そして焼け痕を残す。
    「……ん」
    眩しそうに目元をむずむずと動かしたその金の髪に手を伸ばそうとして気付く。俺はこいつの羽根を一枚、握っていた。最中にいくらか毟り取ってやったからきっとその時の奴だろう。うっすらと開いた瞼。其処から現れたこれまた金の瞳に自分の姿を映し込む。
    「おはよ」
    機嫌よく囁いてやれば、すぐにばつの悪そうな顔をした。そのとがった唇にキスをする。今度はゆっくりと、舐めまわすように。そうすると、こいつの目元がうっとりと染まるのを知ってるから。
    こんなのは、めったにない。けれども時々与える、そうだな――藁だ。


    溺れさせて、溺れさせては、俺は何度も藁を差し出している。
    そして、溺れて、溺れては、水面に浮かぶ赤い羽根へと俺はいつも手を伸ばしていた。

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    Ma2rikako

    DOODLE最近、入村という言葉をよく聞くので燈啓ちゃんを入村させてみた。
    特に大きな事件もなくたんたんと話が進む感じです。
    時代的には昭和くらい。
    ある村での出来事その村に年若い青年が2人、ふらりとやってきてもう一年が経つ。
    都市の近代化が進む中、未だに閉鎖的なその村では突然やってきたよそ者を警戒するそぶりも見られたが、今ではもうすっかり村の一員としてその二人は受け入れられていた。


    「燈矢~見て見て!!」
    ただっぴろい畑の真ん中で、サツマイモの束が連なった蔓を掲げて元気に手を振っているのがそのよそ者だったうちの一人だ。啓悟はいつも笑顔の絶やさない人好きのする青年だった。落ち着いた色の金髪は日に照らされるとふんわりと輝き、そこにいるだけで周囲の人間に安心感と笑顔をもたらした。
    「お~すげぇなぁ」
    そして、その泥だけの満面の笑顔で手を振られていたのがもう一人のよそ者、燈矢だった。燈矢は未だ一本目を掘り出せずに畑に座り込んで少し離れたところにいる啓悟に手を上げて応える。彼は啓悟とは真逆で自分から村人と交流を持つことに積極的ではなかった。だが、真っ白い髪に、村の若い女性たちは一度は見惚れるだろう整った顔立ち、常に気だるげな雰囲気を纏ってはいたが、不思議と冷たいという印象はなかった。
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