エイプリルフール「高杉、お前のことがすきだ」
四月一日の、辰の刻。銀時のそっと零したその一言で、桜色の時は静かに止まった。
春の生暖かい風に髪を撫でられ、身を包まれながら、銀時は火照った顔を隠すようにして俯いている。そして高杉の方も、其の口元は若干震えており、顔は銀時に負けない程に赤く染っていた。
__二人は、両片想いだったのだ。
だがそんな彼の想いも知らず、銀時は伏せていた顔を勢いよく上げ、高杉の期待を大きく遮断した。
「こ、こんなん嘘に決まってンだろ!エイプリルフールだよ、エイプリルフール!俺がお前を好きになるかっつーの!!」
「は……、」
目を閉じたまま一息で言い切られたそれは、攘夷戦争中に銀時が放った、一度目の大きな嘘である。
高杉は全身で息を吸うようにして言おうとしていた言葉を飲み込み、「クソッ」とだけ吐いて、朝の山奥へと姿を溶かした。
銀時はその意味を理解できずに、やはり言わなければよかったという告白への後悔だけを思って、戦前の招集がかかるまで、その場に立ち尽くしていた。
◇
__「銀時、貴様また高杉と喧嘩したのか」
「ああ? 喧嘩?」
例の一件から、三日後の夕方。前回の戦から床についたきりになっていた負傷兵達も着々と眼を覚ましつつあるその時に、桂はとうとう銀時にそう問うた。…問うた、と言うよりかは、桂のそれは確信されたものにあまりにも近いのかもしれないが。
銀時は桂に隠しても無駄だということをしゃんと知っていたので、「喧嘩ではねえけど」とだけ、いじけた子供のように呟いた。それに対して桂も、「やはりお前が原因か」とだけ呟く。
…彼曰く、ここ数日、高杉の機嫌が酷く荒れているのだそうなのだ。それはもう、何時もの喧嘩の時のものとは、比にならないぐらいの。
「詳しいことは俺も知らんが、戦に支障が出る前に行ってきたらどうだ。…なに、お前の様子を見るなり何時もの言い合いとは訳が違うのだろう。ゆっくりで構わん」
「…」
「……銀時」
桂の刀の様な瞳が、真っ直ぐに銀時の方に向く。銀時はその威圧感ともいえない、なんとも言えない空気感に押しつぶされたようで、「わーったよ」と、性に合わない声を搾り取られた。
ボリボリと首を首を掻きながら、桂の顔をもう一度見る。彼は松陽のような穏やかな眼をして、口元に仄かに弧を描いていた。
◇
「……銀時、俺の事は嫌いか?」
「…俺は、テメーが何と思ってくれていようが、お前が好きだぜ。銀時」