※メポコビ「髪」ほかほかと温まった体。まだ湿った髪もそのままにベッドに腰掛けると、一気に眠気が押し寄せる。
でもまだ眠れない。相棒が戻ってきていないから。
お互い忙しい身だけれど、どんなに眠くても「おはよう」と「おやすみ」くらいはちゃんと言いたいのだ。
長髪のヘルメッポはコビーと比べ入浴時間が長い。わしゃわしゃとシャンプーだけで洗って済ませようとしていたコビーに「せめてコンディショナーくらいつけろ」と叱られて久しいが、ヘルメッポは更にトリートメントやヘアオイルで手入れを欠かさない。必然的に時間はかかり、同時に入ってもコビーの方が先に上がることがほとんどだ。
雑用として入隊した頃はそんなに気を付けていたようにも見えなかったのに、伸ばし始めた頃から、色々と髪の手入れに凝り始めたような気がする。
曰く「別に元々気は遣ってたっつーの!ただ髪が長いと荒れがすぐ目立つから、今まで以上にケアが必要になっただけ」らしい。
生まれてこの方うなじより下まで伸ばしたことのないコビーからすればわからない苦労だが、それを言うとヘルメッポから「お前は無頓着すぎる」と怒られるので、大人しく言う通りにコンディショナーだけはちゃんと使っている。だがそのおかげで確かに髪の指通りは良くなったので、ヘルメッポの時間のかかるケアも容認しているのだ。
本当は、早く戻ってきてほしいけど。
本当は、髪の手入れより二人だけの時間をもっと取ってほしいけど。
しかし、ヘルメッポのあの綺麗な髪がたまらなく好きなのも事実であるので、それを維持する為に気を遣っているのに文句を言う気にはなれない。
思わず自分の手を見て、あの髪に触れた感触を思い出す。
持ち上げればさらさらと指の間をすり抜ける金糸。滑らかな指通りは気持ちよくて、ずっと触っていたくなるしきっと飽きることはない。
色白の彼によく似合う金色が、晴れた日の甲板できらきらとなびく様を見て、何度任務中に手を伸ばしたくなるのを我慢したか。
ヘルメッポはいつもコビーに好きなように触れさせてくれるし、それが許されるのが自分だけだとわかっている。その優越感もまたたまらない。
そしてその長い髪が、金色のカーテンのように自分の顔の左右に垂れる。
視界にヘルメッポの顔と金色しか映らない距離。ふわりと鼻孔に愛用のヘアオイルの香りを感じながら、時折頬に掠める髪の感触。
それから。
そこまで思い出して、風呂上がりのせいとは違う熱がぶわりと広がる。
どくんどくんと心臓の鼓動に合わせて血が勢いよく体を巡っていく。はあ、と思いの外湿度の高いため息が漏れた。
思い返していたら、眠気なんて飛んで行ってしまったし、あの髪に触れたくなってしまった。
帰ってきたら触らせてもらおう。でもまだ湿っているコビーの髪を見たら、きっと彼は小言を言いながら乾かしてくれるだろう。その時の優しく触れてくる手の感触も心地良くて好きだが、そうすると髪をいじらせてくれる時間が減ってしまう。
ああ、どうしよう、悩ましい。
そんなことをぐるぐる考えていると、廊下に気配を感じ取る。
もう見聞色を使わなくてもわかる、見知った気配。小さく聞こえる足音が少しずつ大きくなる。あと少し、15秒程できっとドアが開かれる。
がちゃ、とぴったり15秒後に部屋のドアが開く。
入ってきたヘルメッポはいつも通り、きっちり手入れが完了した金髪をさらさらと揺らしていた。
ああ、やっぱり綺麗。
ベッドの上のコビーとぱちりと目が合うと、まだ髪が濡れていることを注意される前ににっこりと微笑んで両手を伸ばす。
まるでだっこをせがむ子供のようなポーズで、しかしその目には少しの熱が燻っているのが見て取れた。
「おかえりなさいヘルメッポさん。ねえ、髪触らせて?」
明日はお休みなんですから、いっぱい触ってもいいでしょう?