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    さいとーさんち。

    さいとーさんちの大晦日①『ぼくのえびさんある???』

    小さなお手手をぎゅっとして、もう何度目かな。

    キッチンにいるママは危ないから来ちゃダメだとそう言ったから、照ちゃんと二人で少し離れたところから。

    米油の匂い、少しだけ胡麻油の匂いもする。
    鰹出汁と昆布出汁のおつゆ。

    『あるから大丈夫だぞ、次から来る時はお姉ちゃんが疲れちゃうからパパにお願いしなさい』

    『うん!!!』

    解ってるのか解ってないのかわからないけど。
    照ちゃんと一緒におこたに戻る。途中だった冬休みの宿題を開いて、ももはかけ算をとく。照ちゃんはぬいぐるみとおもちゃでガウガウビービーって遊んでる。

    パパは少し離れたところに座椅子で座ってる。
    今日だけはね、夜更かししてもいい日なの。

    今はね、二十一時。

    『竜胆と瑛士は?』

    『瑛士は部屋にいるからご飯になったら呼んでって言ってたけど…竜胆からは未だ連絡ないな、友達とカウントダウン行くって話は聞いてたんだけどな、其れは其れで別の子達とみたいだし』

    『!ママ、お電話なってたよ』

    『そうか?竜胆からかもしれないからパパに渡して確認して貰ってくれるか?』

    『うん、パパこれ、ママが見てって言ってたよ』

    『どれ………最寄り駅まで来たらしい、少し迎えに行ってくる』

    『そうか、解った。照紀が手持ち無沙汰みたいだから連れてってやってくれるか?気晴らしになると思うし、ぐずったらコンビニでお正月中に食べる用のお菓子買ってあげてくれ』

    『ぼく、ぶたさんちがうよ???』

    『そうだな』

    ママはきょとんとしてそう話す照ちゃんにくすくす笑ってそう話してる。

    『照紀。ねえたんを迎えにお散歩に行こう』

    『いいよ!』

    『ももはどうする?』

    『ママといる』

    そうすれば、ね?今だけは……ももだけのママでしょ。

    『気をつけて行ってきてな』

    マフラーとコートと手袋と帽子でお団子みたいになった照ちゃんとパパをママと二人でお見送りする。お外の空気は冷たい。

    ひらひらとお手手を振れば、照ちゃんはニコニコ笑って振り返してくれる。ももの強かな思いも知らないで。



    駅の方に行くパパを見てボーッとしてたら

    『もも、お家入ろう、風邪引いちゃうから』

    そう返された。ママに。だからママの近くに駆け寄って。偶にはいいよね、甘えたいのと、おねだりしようとしたの。

    『ママ……』

    『?』

    ももだけのママだから。なのに、だけど。屈託無く笑った照ちゃんが忘れられなくて

    『何でもない』

    お願いしたらいけないような気がして。少しだけしょぼんとしながらおこたに駆け出した。

    ママの顔は見てないからわからない。けど、何だか。私の方を見てる気がする。だから少しだけ振り返ろうとした其の時、地面からふわっと。

    『………もも?』

    『?!?』

    『…どうかしたのか?』

    『な、なんでもない』

    『もも?』

    『?』

    『除夜の鐘って知ってるか?』

    『大晦日になるやつでしょ?』

    『そうそう、煩悩を消して、真っ新な状態で新年を迎えましょうって事なんだ』

    『?』

    『だから何かお願いがあるなら、消される前の今のうちなら聞いてあげられるんだけど』

    『………』

    『今は照紀もお出掛け中だからもものママだしな』

    ママは何でもお見通しなのかな。
    でもお蕎麦も茹でないとと、視線を送った私にも気付いちゃうんだもん。

    『…』

    『瑛士???』

    『なーに?』

    『一寸』










    ママに抱っこされておこたでお勉強。此処数年、ずっと。照ちゃんの場所だったから。凄く嬉しい。
    ももは、照ちゃんも大切だし好きだから…言えなかったけど淋しかったのも本当だから。

    照ちゃんが帰って来るまでの束の間だけでいいから
    ママを独り占めさせてほしい。

    折角、お兄ちゃんがかわりにゆでてくれてるんだもん。

    『えへへ』

    『?』

    『?』

    『ももは可愛いなぁ…そりゃあうちの子達は皆可愛いけど』

    『そう言ってくれて嬉しい…ずっとね照ちゃん羨ましいなぁって思ってたんだ』

    『?』

    『ももはおねえちゃんだからね、我慢するの』

    『……』

    『でも、うん。今日は我慢しなくてもいいよね?』

    消えちゃう前にめいっぱい。
    甘えたいし、ギュってしてほしい。

    パパと照ちゃんに遠慮も我慢もしないんだ。

    今日だけは、うん。



    『ただいまー』

    そんな声が聞こえてきて、だから、其れは。終わりの始まり。

    とてとてと走って来る照ちゃんは一目散にママのとこ。ママに抱っこして貰う私を見て不思議そうにしてるの。

    返してあげないと。
    そう思って立ち上がろうとしたら、ママにぎゅっと抱きしめられた。

    『照紀、今日のママはねえたんのママだから、抱っこはまた明日でもいいか?』

    『……ぼくはおとこのこだから、ねえたんがそうしたいならね、がまんする』

    『………』

    『だって、どうしたい???』

    消えちゃう思いなら

    『……』

    消えちゃう前に
    ももも我儘言ってもいいよね

    『大晦日のママはもものママだよ』

    『うん、いいよ!』

    『なら明日はパパのママにしような!』

    そう聞こえてきたパパの声。
    照ちゃんはパパは男の子だから我儘きいてあげないよ!って言ってる。

    ももは知ってるよ、空気を軽くしようとして言ってくれた事くらい。照ちゃんも照ちゃんでね、幼稚園に通い始めてから大人になったのかなって思ったの。

    『明日の母さんはアタシのだぞ!お雑煮とか沢山よそって貰うんだ!』

    『其れは自分でやりなさい、子どもじゃないだろう』

    パパの其れに同調してうんうんと首を振って笑うママと、大きな声で嫌だ嫌だって言ってるお姉ちゃんがおかしくて。

    ももはね。







    初詣のお願い、決めたの。


    パパとママと照ちゃんとお兄ちゃんとお姉ちゃんと
    ずっと仲良くいられますように

    ももも皆みたいにもう少し素直になれますように


    って。




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