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    さいとーさんちの大晦日②『ねえたんどこー?おそとくらい、ちゃむい』

    抱っこされている息子はそう話している。
    珍しく思った。いくら妻の一言があったとは言え、こうしてついて来るなんてと。持ってきたくまさんを抱きかかえているのは、タオルケットの様なものだろうか。

    『電車の方だな…』

    『でんしゃ、すき!みられる???』

    下り電車があれば見られるかもしれないが、
    時間的な話でどうだろうかとも思う。

    『はてさて、どうだろうな』

    『きゅーきゅーしゃとしょーぼーしゃとすき!くまさんとね、あとねはりせんぼんとたこさんもすき!わんわんとにゃんこも!』

    『好きなものが沢山あるのだな?』

    『ままがねえほんよんでくれるし、おさんぽでみせてくれるのね!おうちからはみえないのつまんない』

    妻の教育を垣間見えて。愛しさが増す反面、少しだけ申し訳なくも思う。俺はちゃんと家を鑑みているのだろうかと。

    妻は仕事人間だったから、家に入ってほしいと言った時反対されると思っていた。無論、子育てがひと段落つけば復職してくれることに異存はない。したくないと言うならば其れもまた其れで良い。

    ただ一人で子らに縛られているのではないかと。

    『……冬輔は幸せなのだろうか』

    『???まま?』

    冬輔=ママだと理解している事に吃驚した。
    よくよく聞いてみれば何の事はない、近所の人やお店の人達にそう呼ばれているのを見ていて覚えたらしかった。

    何の事はあるのだけれど。
    俺の妻を名前呼びする奴を許すはずも無く。釘でも刺しておくかと何処の何奴か遠回しに訊いたけれど的を射ない情報しか得られなかったのだ。

    おとこのひと!としか。

    『親父と照紀じゃん』

    『ねえたん!』

    『二人で迎えに来た、ママは蕎麦を茹でていたし夜道は危ないからな』

    『はいはい。…年越し蕎麦食べねーと年越せねーからさ!帰ってきた!また後でなー!って』

    『ねえたん、だっこ』

    惚気やがってと言いながら呆れた様にはいはいと。
    照紀は照紀で。パパより、ねえたん。そして言わずもがな、ママなのだろう。照紀のカーストの中では。そう落ち込みかけて長女のくすくす笑いに気付いた。

    『んな事ねーよ、親父にも一応甘えてるぞ、照紀は照紀なりに』

    『そうだろうか』

    『されてる時はちゃんと抱っこされてるだろ???嫌なら嫌!!!って言うから、照紀は』

    『???』

    ほっぺを突かれて幸せそうに笑う息子を見て。俺も突かせて欲しいと指を出してみれば、いや!とくまさんガードをされる事に。

    『ほらな、素直なんだよ照紀は』

    けらけらと笑う娘に肯定の意味で笑いかける。
    屈折するでもなく真っ直ぐに育っているのだと理解が深まったからだ。

    『照紀、帰りにコンビニに寄っていくか?』

    『おかし!』

    『おかし?』

    『正月中に食べる分ならば良いと』

    『だからついてきたのか?』

    揶揄うように擽り、擽られ。きゃっきゃと燥ぐ上の娘と末の息子。其れは頬を切る様に冷たい空気とは違ってとても温かくて優しくて。でもその揶揄いに巻き込まれては堪らないから。横を歩く二人には見えない様に少しだけ微笑んだ。

    『ちぁ!ちがう』

    ひぃひぃ笑いの合間に聞こえた否定の言葉。
    それに耳を傾けてみれば。

    『そうなのか?』

    『ねえたん、へんだったの』

    弟のそんな言葉を聞いた娘の指が止まる。

    『ももが?』

    『ねえたんね?おやすみのしくだいしてたけどね、ずっとままのことみてたよ』

    『……』

    『だから連れていっていたのか』

    『えびさんあるかなぁってだけだもん』

    『その割にはねえたん、ねえたんと…』

    『してないもん!おかし!』

    『?連れてってた?えびさん?』

    『あ、いや』

    事のあらましを教えようと口を開こうとしたその時。顔面に飛んできたのはくまさんの右腕だった。
    何度かこう、痛くはないふわふわのパンチをしては。

    『ひみつでしょ!』

    その持ち主は諌めるように大きな声で。

    『………』

    本当なら。ずっと見ていたと言うつもりはなかったのだろう。だがしかし。擽られては敵わない。痛むお腹と苦しい呼吸を天秤にかけた結果なのだ。これは謂わば男と男の約束というヤツだ、多分。

    『ひみつ?』

    『そうなの、ぼくとねえたんとぱぱのひみつ!』

    『あたしもねえたんなのにー…』

    『ぼくのことならいいけど、これはねえたんのことだから。ねえたんがね、いいよっていったらおしえてあげるね』

    楽しそうに鼻歌を歌う息子はもう先ほどのやり取りなぞ思い返せぬほどの満面の笑みを浮かべて、くまさんをゆらゆらと揺らしご機嫌なもよう。




    『おかしね、これとこれ!ねえたんはこれがすきなのね!にいたんはこれほしいっていったらね、かってくれたからすきかも』

    息子から得られたお菓子の好み。長男は一寸だけ違う様な気もするけれど。

    長女には持たせないカゴが少しずつ重みを増していく。持たせていたならば、それはもう持ちきれないほど重くなっていた事だろう。実際、棚の向こうから様子を伺う娘の腕には山程の。

    『まま、どれかなぁ』

    ぽつりと聞こえるか聞こえないか。そんな小さな声で。ママはどれが好きなんだろう。そう首を傾げた息子が愛しくて。いつもの様な少しだけ負けず嫌いな自分は何処か遠く。

    『ママはこれが好きだったはずだ』

    『しってたもん』

    なんて。
    可愛らしい負けず嫌いに、笑いそうになるけれど。折角。『男と男の約束』を出来るまでには距離も縮んだというのに、このふゆやすみに拗ねられては困るから。ふかふかの帽子を被ったその頭をわしゃわしゃと撫で回した。

    『っ』

    吃驚したのか、少し固まりはしたけれど。
    えへへとくすくす笑い。聞こえてきたのは間違いないから。



    親父にも(一応)甘えてるぞ


    頭の中で何度も。何度も。




    『買ったなー』

    『ままおこるかな…』

    3人でどうにか持ち帰れそうな荷物の山にほんのり引きながら。この後の。ママからもらうだろうお小言を思うと頭が少し痛んだ。

    『3人の秘密だと言い張るしかあるまい』

    『あたしは親父のせいって言う』

    『ぼくも』

    『?!?』

    唐突な裏切りに目の前が真っ暗になりかけたけれど。次いで出てきた言葉に胸を撫で下ろす。

    『って嘘だってのー、みんなの分も買ったんだし多分平気だろ……多分だけど………な、照紀』

    うんうんと頷く弟に手を伸ばす娘。抱っこするのだろう、なら荷物は俺が代わろうと手を伸ばしかけて。
    息子が首を横に振っていることに気がついた。

    『ん』

    伸ばされた手は紛れもなく。俺に向けてで。

    『おてて』

    『……』

    繋いでほしい。そんな自己主張。小さなふわふわの手を優しく包めば。とても満足そうに。





    『えび!かぼちゃ!きす!きのこ!なーす!ぴーまんはにがいからぱぱにあげるー!にんじんはーうさちゃんのすきなのー!』

    照紀が楽しそうに歌う『てんぷらのうた』
    それを聴きながら歩くその道はいつもより少しだけ遠回り。

    家の灯りが見えてくるまで。息子の束の間の甘えんぼ。
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