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    maruyake4

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    maruyake4

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    いきなり別ジャンルで申し訳ない。
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    甥っ子10才くらいを想定して書いたのでおじさん40才くらいの一から十まで捏造怪談。

    僕のおじさんは幽霊を見ない「うん、そうなんだ。動画。
    いま流行ってるでしょ? いろんな人から怪談を集めてそれをまとめて発表するんだ。
    ううん、僕だけじゃなくて友達たちと僕と三人で。」



     おじさんが来た日はいつも、一緒に晩ご飯食べようよって誘うんだけど、だいたいはこれから仕事があるとかで五回に一回くらいしか付き合ってくれない。
     今日がたまたまそのうちの一回だったのはラッキーだった。だって締め切りが近かったから。

     お父さんから、おじさんに無茶なお願いやわがままを言わないことって飽きるくらい注意されてご飯代渡されて、そんなこんなで近所のファミレスに。
     お仕事の都合でできないこともあるけど、僕がなにかをお願いするとおじさんはあんまり断らない。反対にあっちはどうだ? これはどうだ? とおじさんのほうから新しいアイデアを出してくれるからそれに甘えてしまうぐらいだ。
     お父さんはそんな僕と、僕を甘やそうとするおじさんとをまとめて注意したりするけど、僕だって超えちゃいけないラインぐらい知ってるよ。お小遣いちょうだいとかそういうやつじゃないんだし。ちょっとおじさんと話したいことがあったっていいじゃんか。

     今日は怖い話を聞かせてってお願いだ。おじさんが見たり聞いたり体験したやつを。動画に使いたいんだ。
     でもこれ、お願いっていうか依頼だよね。だって報酬を(出してるのはお父さんだけど)支払って聞かせてもらうんだから。
    だとしたら今日はおじさんはお客様……怖い話をしてほしい人としてくれる人ってなんて言ったらいいんだろう? ……そういうやつだから、それにふさわしい扱いをしなくちゃ。
     僕は遠慮するおじさんを無視して、その「報酬」に当たる物をお店のタブレットからいろいろ注文した。

     食休み。
     おじさんはちょっと考えてるみたいに斜め上を見上げながらワイングラスをぐるぐるしている。お酒の高い安いとか味とか知らないけどおじさんがそうやってるとなんか良いものみたいに見えた。

    「こういうのたまに聞かれるからできなくはないよ。でも得意じゃないからあまり期待しないでくれな」
    「よかった。だれも見つからなくて困ってたんだ。お父さんに聞いたら、そういうのはおじさんの方が知ってるって言うからさ」
    「そんな。……ノゾミもいい加減なことを言うなぁ。そうだ、お父さんとお母さんは知ってるのか? 動画のこと」
    「ううん。教えてない。そもそも僕がやってるチャンネルとかじゃなくて友達のやつの手伝いだから、そいつんちの人は知ってると思う。でも、そういうの親が見てるのってなんか恥ずかしいよ」
    「うん……好奇心からいろんなことにチャレンジするのはいいけど、あんまり危ないことは……」
    「わかってるよ。なにかあったらすぐ大人に相談するし、お金に関わることは僕らだけで決めない。でも大丈夫でしょ。おじさんがついてるし。なにかあったら僕のこと助けてくれるんでしょ?」

     そう言うとおじさんは一瞬目を丸くして、いやおじさんだってどうにもできない危険なことがたくさんあるんだからごにょごにょ……と黙ってしまった。
    ……えへへ、どうやら主導権は僕にあるみたいだな。わかってたけどね。

    「まずみんなで手分けして怖い話を集めて、一本三話の動画を三本くらい上げて、反応が良かったらシリーズ化しようよ、って話してるんだけど……だからできれば三話ぐらいほしいなぁ」
    「三話か。うんいいだろう」

     おじさんの準備が済むと僕は録音アプリを立ち上げた。



     おじさんはお酒が入っていつもより少しおしゃべりになっているみたいで、三話だけといいながら僕がねだったらもっともっと話してくれそうだった。
    動物園の同僚の人から聞いた話。
    アシスタント先の漫画家さんと編集の人から聞いた話。
    クラブに通ってる吸血鬼のお客さんから聞いた話。
     その語り口は淡々としているけど細かいところはまるで見てきたみたいにはっきりしていて、でも話の結末はぶつんっとぶった切っみたいに終わる。その違和感が気持ち悪いような怖いような独特の雰囲気があった。
     その割におじさん自身は話の真相にさほど興味がなさそうで、じゃあそれは幽霊だったの?と聞いてみても、さあどうだろ。夜だったしお酒も飲んでたみたいだし見間違えたかそういう吸血鬼だったんじゃないか?とあっさりしている。

     おじさんは幽霊を見たりしないの?と聞くと、おじさんはきっぱりと見ないしそういったものの存在は信じていないと返した。
     脚が見えない奴がいたらそういう吸血鬼だろう、だれもいない室内で声がするのならその建物自体が付喪吸血鬼なんだろう。事の真相までたどり着けなくともだいたいの見当がついてしまう。見当がつくのなら対処法もわかるし恐ろしくもない。
     そんなものかな。でも僕らだっている・いないみたいな話になればどうだろう? ってなるか。

     おじさんの話はここでおしまい。
     時間はもう午後六時を過ぎていたけれど、夏だからまだあかるい。
     終わってしまえばあっというまだ。もう後はお金を払って帰るだけ。でもなんだか物足りないような寂しいような気持ちだ。
     僕はまだおじさんの話を聞きたかったしもっと話していたくて、動画に使える分は録音できていたけど、二作目三作目用にももっと聞かせてよ、と未練たらしくおじさんにねだってみた。

     その言葉におじさんはちょっと迷っているみたいだ。僕は心のなかで小さくガッツポーズした。
    おじさんはすでに冷たくなったフライドポテトに塩をざかざかかけてから二、三本つまむと、
    ああ、あったな。俺の体験したやつ。
    と一番期待した答えが返ってきた。

    「えっ!! 聞かせて聞かせて!!」
    「そうだ……今日話したやつは動画に使う際にちょっと設定を変えるんだぞ」
    「わかってる。身バレ防止でしょ」
    「まあ、それもあるな」



     おじさんが仕事帰りにコンビニに寄るとたまに誰かに二の腕あたりを掴まれる感じがするという。
     しょっちゅうじゃなくて本当にたまにの話で、それも冷ケースから特定の種類のお酒を取ろうとしたときにだけ起きるらしい。
    指先が食い込むような、ぎゅっ!て感じで後ろから掴まれる。
    驚いて振り返っても後ろにはだれも居ない。腕を見ると指が食い込んだ跡が残っている。そういうことがたまーにあるという。
     それが起きるとおじさんはすっかりお酒を買う気が失せて、別の物を買って帰ってしまう。

     ある時気になって、その掴んでくる奴を見てやろうとわざとお酒の缶を手にとって、掴まれるより先に腕を前に引いてみた。
     右手で缶を掴み、左の二の腕が見えるように身体を捻る。
     指先が見えた。男の手だった。
     手はすぐに引っ込んだので、それを追って振り返ったけどやっぱり誰もいなかった。
     すぐに缶を棚に戻すと、何ごともなかったように買い物をすませさっさと店を出た。そのあとコンビニでお酒を買わないようになったという。

    「へー……それはお酒に未練がある霊だったのかな」
    「さあ、どうかな」
    「あるいはコンビニで亡くなった人とか……は、変だね。あ、おじさんに未練がある霊かもよ?」
    「はは、俺に未練か。おじさんにそんな人間がいるとも思わないけどなぁ」
    「そんな、僕おじさんがなんか、こう、そいつのせいで……具合悪くなったり? 病気になったりしたら嫌だよ」
    「うん、ありがとうな。
    ……さあこれでおじさんの話は本当におしまい。いい子はおうちに帰んなさいね」



     薄暗くなった道を家まで歩きはじめる。
     おじさんはお酒が効いてきたのかちょっとふらふらしてる。
     接待をした僕としては心配だから手を引いてあげようとすると、先に行ってなさいって追い払おうとする。
     まーた無理をして! 僕は強引におじさんの左側にまわって手を引いてあげるとちょっと観念したみたいで、暗いからちゃんと前見て歩くんだぞ、と素直に手を引かれた。

     しばらく歩くと住宅地に出る。そこからはいくつか門を曲がれば僕の家だった。

     でも、なんだろう。
     さっきからざわざわと落ち着かない。
     音っていうか気配っていうか。
     上から声が降ってくる。
    「ごめんな、コダマ」
    「なに、どうしたの急に。これぐらい平気だよ」
    「おじさんちょっとしくじった」
     それからちょっと声が小さくなる。
    「お前のお願いかなえてやりたくて、まあ平気だろって。
    だめだった。
    でも大丈夫。コダマには関係ないやつだから。
    でもちょっとだけ我慢してくれな」
    「なに? なんのはなし?」
    「さっきのやつな。
    コンビニだけだったらよかったんだけど。
    最近はよそで別のお酒を買ったり、人と飲んだりしてても。
    たまに」

     驚いておじさんを見上げる。目の端に左の腕が見えた。
     今まさに腕を掴まれてるんだと思った。助けなきゃ。捕まえてやらなきゃ。
     でも何もなかった。さっき言ってたアザすらなくて、少なくとも僕が見えるところからは半袖から覗くいつもの傷だらけの肌しかわからなかった。
    「ほら、危ないから前見て」
     少し強い言い方で注意されて、反射的に姿勢を良くした。

     腕。
     もしかしておじさんは最初から嘘を混ぜてたんじゃないか。本当は腕じゃなくて。別の場所とか。

     下の方でなにかが見えた気がする。
     おじさんの足首のあたり。
     視線がおじさんの足元に吸い寄せられる。

     あ。いま。なにか。
     白いズボンの足首。
     傷がたくさんある。
     指みたいな。

     ぐいとおじさんの手が僕の顔を上に向けさせた。
     汗で湿った指がほっぺたに食い込む。
     影が被さった顔には明かり採りのスリット窓のような目がふたつ並んでいた
     口の前に人差し指を立てて、それから囁くようにおじさんは言った。
    「『それ』がなんだかわからないなら、『それ』が『それ』であるって認めなければ、勘繰らなければ、これから先も平穏無事だ。そうだろ?」
     おじさんのおでこから汗がひとすじ流れた。
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