レオ&タイガWebオンリー展示サンプル4月4日はレオの誕生日。
桜ほころぶももいろの季節、柔らかなももいろの髪は桜の季節に生まれた証かと、ちいさくふわふわした彼にぴったりだと皆思う。
4月3日―――タイガは悩んでいた。
残り24時間を切ったタイムリミットの中にも関わらずプランは白紙同然。
悩みのタネは来たる明日、レオの誕生日プレゼントを用意していないということを揺るがす大事件だった。
そもそもレオが好みそうなプレゼントというものは皆目見当もつかない。
レオといえばピンク、ピンクといえばめんこい。めんこいもの?キラキラしたもの?その手のものに関しては自分のセンスに信頼が持てず早々にお手上げだと白旗をあげる。
ならば無難にお菓子にしてみようか?
たまには小洒落た甘いお菓子のギフトボックスを、と考えてみたものの、きらきらふわふわ、かわいらしく甘い香りが詰まったカワイイに満ち溢れた空間は完全にアウェイだ。単身乗り込む勇気など思春期真っ只中のタイガには到底無謀である。かといってコンビニのお菓子を買ってプレゼント、というのは些か誕生日風味が薄れる気がする。
いっそシンを連れてその手の店に行くか、と一瞬考えたが、そんなことをすれば「レオくんのプレゼントを買いに来たんだね!」とここぞとばかりに妙な感の良さを発揮したシンによる純粋無垢な笑顔を思うとむず痒いを通り越して発狂しかねない。なんたる羞恥プレイ、いわば公開処刑だ。
「……はぁ……」
悩めるため息をつきながらタイガはコンビニのお菓子コーナーを物色していた。
今となっては歩いて5分の徒歩圏内に24時間営業の店があることにも慣れてきた。19時のコンビニで安くて小腹を満たすお菓子はないかとこまごました駄菓子を物色する。
カード入りウエハースキャラクターもののグミ、小粒チョコレート……右から左へと目線を移す視界に入ったそれに、タイガの目線がぴたりと留まる。
六角形の細長い筒、カラフルで華やかな箱が並ぶそれに、タイガはふと思い出した。
あれは半年程前の事だったか、休日にレオと用事が被り一緒にコンビニに来た時のことだ。
あの時も今のように二人で駄菓子コーナーを見ていたとき、あっ!と声をあげたレオになんだとフーセンガムを二個手に取ったタイガがレオを見る。
「タイガくん、これ知ってますか?」
そう言って見せてきたのは六角形の細長い筒の駄菓子……駄菓子といってもお菓子はおまけ程度、メインはパッケージに印刷されたキラキラのペンダントだ。
煌めく月やキラキラの星、大きなピンクのストーンがはめられたハートにお姫様と王子様、五百円玉くらいの大きさのペンダントはいかにも女子が好きそそうなデザインばかりで、幼稚園くらいだったか、当時小学生だった姉が母にねだって買ってもらってたな……と思い出す。
「それ、姉貴が昔買ってた」
「やっぱり。わたしもです」
興味はなくとも存在は知っていると言うとレオは嬉しそうに笑い、その細長い筒を見る目を細める。
「お家のお手伝いを頑張った時や、テストで100点を取った時におとうさまがご褒美で買ってくれたんです。おねえさま達と交換していっぱい集めてたんです。キラキラで、かわいくて、どんな素敵なペンダントが出るんだろうってわくわくしながら箱を開けるのがだいすきだったんです」
愛らしく上向いたまつ毛が影を落とし、懐かしむように語るレオ。
なるほど、シール目当てで買ったウエハースチョコの封を開ける時と似たようなわくわくを姉とレオはこの筒で感じていたんだと納得したタイガはふぅん、とあいずちをうつ。
「買わねぇの?」
「もう中学生になったのでわたしは卒業しました。タイガくんは何を買うんですか?」
「……これ」
「わぁっ、これも懐かしいです!良かったらあとでわたしのチョコレートと少し交換しませんか?」
「いいぜ」
フーセンガムを棚に戻し手に取ったさくらんぼのパッケージの小さな寒天グミ。懐かしさを醸し出すそのパッケージにレオは大きなももいろの瞳を爛々とさせ、手に持っていたイチゴ味の三角チョコを見せながら交換しようと尋ねる。
駄菓子の交換って案外楽しいんだよな……と思いながら、タイガは寒天グミを持ってレジへ向かった。
「……」
そういえばその会話をしたのはここのコンビニだったな……と思いながらタイガは陳列された六角形の筒を見ていた。
"中学生になったから卒業しました"……そう口にしたレオの伏せた瞳が物悲しそうだったな、と思い出したのだ。
成長したら子供の頃に好きだったものを手放さないといけないのか?タイガの心に純粋な疑問が浮かび上がる。
好きなものを好きでいてなにがいけないのだろう。
自分の"好き"を偽って嘘をつき続けてきたレオはエーデルローズに来て数年、今やっと自分の好きなものを素直に好きだと表現出来るようになった。男も女も、歳も学年も"好き"の前では全て関係ない。
箱の封を開け、キラキラ煌めく大粒のストーンがついたペンダントを手のひらに出すあの胸のトキメキを諦める必要なんてもうないのだ。
タイガはズボンのポケットに手を突っ込み直に突っ込んだ小銭を指先で数える。
百円玉が6枚と十円玉が少々、若干重みのあるポケットから手を出し、陳列された六角形の筒に手を伸ばす。
陳列された筒をひとつづつ手に取り重さを確認する。「軽いものの方がオシャレなデザインのペンダントが入ってるんだって!」という姉の言葉を信じて1番前と後ろから2つ目の箱を手に取る。
……小腹は明日の朝まで我慢しようと決め、タイガは2つの筒を持ってレジへ向かうのだった。
【中略】
プリズムストーンにディアクラウン、お財布に優しいなかわいいお洋服屋さんにアクセサリー屋さん。若者が集う街を立ち歩くレオとタイガ。暑すぎない日差しと柔らかい風はまさに小春日和の名前通り、ウインドウショッピングをするのに打ってつけだ。
今日はレオの好きそうなお店を巡る日だ。普段レオが行っているお店を周りながら時折レオにどこに行きたい?と聞き、計画的な算段はあるわけなくのんびりぶらぶら、2人は歩く。
「欲しかったアクセサリーが買えましたっ」
「よかったな……」
先のアクセサリーショップでお目当ての品を見つけたらしく、るんるんなレオの横でレオの買い物荷物を持ってあげるタイガは若干やつれ気味である。
甘いコロンと芳香剤の香りに満たされかわいいの四文字が良く似合う店内を見渡せばどこもかしくも女子、女子、女子……自分がこの空間に似つかわしくない事は店に入る前から分かっていた。
女子しかいないいちごミルク色の空間に酔ったのか、レオの後ろを着いて行きながらもタイガのHPは確実に減っていった。
(さっきも見られてコソコソ笑われてた気がする……やっぱ慣れねぇ……!!)
そう思いつつも隣で揺れるももいろの髪がるんるんと揺れている。それを見るとほんの少しだけHPが回復したような気がした。
(……まぁ、誕生日だしな)
早々に考えることをやめたタイガは自分とレオを映すウィンドウガラスを横目に見る。今2人は道中のクレープショップの列に並んでいた。
今月オープンしたばかりのクレープショップは新しいお店ということもあり連日長蛇の列が出来ていた。
つい先月、ミナトが作った朝ごはんを食べながらレオが興味津々に"当店おすすめのクレープ!"と紹介されたイチゴとわたあめのスペシャルクレープを大きな瞳を輝かせて見ていた。
「食べてみたいですっ」とわたあめと同じ桜色の瞳を輝かせ、夢見心地で呟くレオを横目に、タイガは昨日テレビで放送された空飛ぶ島の映画で主人公が食べていた目玉焼きを乗せたトーストに齧り付いたのだった。
そういえばそんなとこあったな……と思い出しながら、ゆっくりながらも順々と進む列にならい2人も少しずつ前に出る。
ウィンドウガラスに並んで映る2人、レオは指先で前髪を整えながらふにゃりと笑う。
「タイガくんタイガくん」
「なんだ?」
「なんだかデートみたいですね」
「ンがァっ?!!」
レオの爆弾発言により拳くらいの岩を飲み込んだときの様な珍妙な呻き声をあげたタイガの目はぐるぐると白黒まわる。
仔うさぎのようにはにかむレオに比べ、ウィンドウガラスに映る自分の顔がなんと素っ頓狂なことか、あわあわと口端を引き攣らせ噎せた喉から出る声は酷く上擦っていた。
「そんっ、おま、そういうのはすっすすすっ……きなヤツとやるモンだろっっ!!」
「わたしはタイガくんのことだいすきですよ?」
「んなっ?!」
こてん、とかわいらしく小首を傾げながらさも当然の様にそういうレオはタイガにとって効果抜群、弱点必中4倍ダメージにより今にも飛び出してどこかへ行ってしまいそうな程だ。
(そういう意味じゃねぇんだよっ!!)
噛み合っているようで初凸猛進、ダイレクトに突っ込まれたタイガは最早満身創痍である。
桜の季節なのに初夏の昼間の様にカッカと暑い。イチゴのように真っ赤に染まった顔を右手で覆い、その手でガシガシと頭を搔く。照れ隠しのつもりか、だがなにも隠せていない、そんなタイガの一挙一動がツンデレな仔猫のようにかわいらしくて、レオはクスクスと笑う。
(いまかわいいっていったらタイガくん、どうするんでしょう?)
きっと恥ずかしさで走って逃げてしてしまうだろうな、なんて冗談めかしに思いながら、その言葉はもっと大事なときに言おうとそっと仕舞うレオ。
顔を真っ赤にしてあわあわと悶えるタイガと愛らしいものを見るような目を細めて鈴の音の様にクスクスと笑うレオ。そんな甘酸っぱい光景を、後ろに並んだ女子大生達はそれはもう微笑ましく見守っていたのであった。
【4/19 22:00〜 レオ&タイガWebオンリー「小指から伝えるテレパシー」にて展示します!覗いてみて貰えると嬉しいです♡】