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    Booomjirirui

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    ケビ万

    #ケビ万
    kebbiSeminar
    #29腐

    エンジェルラダー🌱ザァァァアアア……
    黒い雨が降る、黒い影が落ちて
    辺り一面真っ暗な所で黒いロングコートが雨を吸い込んで重たくのしかかり体が冷えてくる
    足元には先程まで暖かった肢体が転がって黒い水溜まりに沈んでそれを見下ろす。

    これでいいんだ…
    これで俺は…ロビン王朝からのしがらみから開放される…

    ザァァア…黒い雨が自分の中に溶けてくるみたいに染みてもう寒いのか分からない。
    心の奥まで黒に染まる。
    ケビンマスクは後戻り出来ないとその道を歩き始めた――







    ――――
    ―――――


    「……」
    正義超人が使用してるジムの隅っこでケビンマスクは1人サンドバックにミット打ちをしていた。
    黙々と誰とも混ざらず会話も交わさず見向きもせずひたすらに目の前の揺れる赤くて重い塊に拳を打ち込む。そんな様子を離れた所からキン肉万太郎はキッドやガゼル達友人に囲まれて談笑していた横目で見る
    (相変わらず辛気臭いヤツ)
    ふーっと深い息をついて心の中で思う
    そんなに練習してバカみたいと、放っておけばいいのに万太郎の足は自然とそちらに向く。友人達は会話の途中で抜け出す万太郎に声をかけるも向かう方向を見て肩を透かしながらいつもの光景に顔を横に振る。

    「ケビン~隅っこでそんな汗臭いことしてたら湿気でカビかキノコでも生えちゃうよ~」
    「……」
    軽口を叩いてくる万太郎に無視をしてミット打ちを続ける。その態度が気に食わない万太郎はそれならばと言葉に棘を乗せる
    「あーあ、ほんとお前ってばキザなんだから。一匹狼とか言ってるけど単純に相手してくれる友達居ないだけでしょ?」
    「…うるせぇ」
    漸く万太郎の言葉に反応したケビンが手を止め万太郎に向き合う
    (漸くこっち見たかバカ)
    「邪魔すんじゃねぇよ」
    「ふん、ケビンが一人で可哀想だから声掛けてあげたんだよ?相手してくれる友達居ないなら僕が一緒に練習してあげてもいいんだよ?ケビンがお願いしてくるならさ」
    ふふんと腕を組んでドヤ顔をする万太郎にケビンは押し黙る。そんな様子に ちょっと何か言ってよ!と言うとケビンは いらねぇよ と呟いて再び万太郎に背中を向けてミット打ちを再開する
    (折角声掛けてやったのに!)
    「なんだよ折角声掛けてあげたのに!」
    「頼んでねぇよアホどっか行けバカ」
    「あぁー!アホとバカ両方言った!!ケビンのおたんこなす!キザ野郎!」

    また始まった、周囲の者達も万太郎でさえそう思った。
    ケビンと万太郎二人が揃えば喧嘩ばかりする、これは最早日常的な事であり特別驚くことでも無かった、しかしそれも次のケビンの言動がなければその日常風景が崩れることも無かったのだ。
    「…」
    「? ちょっと、何さ黙り込んで、いつもみたいに言い返したら?」
    「……もう辞めだ」
    「は?」
    「お前との喧嘩は今日限り辞めるって言ってんだよ」
    「え?…な、何?意味わかんない。ほら!いつもみたいに豚野郎って言い返してきなよ!」
    手を止めて再度万太郎に向き直したケビンは万太郎の言葉にふるふると顔を横に振る。それに対して困惑の表情をうかべる万太郎。
    周囲もいつもと違うケビンの態度にざわつき重たい空気がジム室内の中に落ちてきて息が詰まりそうな感じだ。それもその筈だ長い付き合いな二人であってもこんな事は一度もなかったからだ。

    「もうお前と喧嘩はしねぇ」
    「な、なんで、」
    「悪かったな今まで。これからは他の奴等と同じように"普通"に接しようぜ」
    「っ!!」
    ケビンマスクが言う "普通"に という言葉に万太郎の表情が一気に暗くなり言葉を詰まらせる。そんな万太郎の表情を見たケビンは背中を向けて何事も無かったかのように練習を再開する。
    万太郎はなんて言えばいいかわからず胸の奥がズキズキと痛んで泣き出しそうになるのを必死にこらえて逃げるようにその場から走り去る。
    バタバタとジム室から出ていく万太郎に見向きもせずにケビンマスクはミット打ちをし続ける。
    キッドやガゼルは出ていった万太郎の後ろ姿におい!と声をかけるも当の本人はそのまま走って出ていってしまった。

    (なんで!?わかんない!いつもなら喧嘩になってでも直ぐに仲直りして強敵を倒してきたじゃん!!
    僕達ってそういう仲じゃん!それを他の人たちと同じ"普通に"って何なんだよ!!僕ケビンがわかんないよ!!)
    そう、ケビンと万太郎の関係とは他のもの達とはいい表せない特別な関係なのだ。それは一概に友情だとかライバルだと相棒だとかそんな言葉では言い表せない位の複雑で深い関係でありそんな複雑な関係だからこそ人よりもしょうもない事で喧嘩をしたり意地になったり助け合ったりするのだ、しかし、今回のケビンの言葉から出たのは他の連中と同じように接しようということだった。
    万太郎は自身がもうケビンの中でそういう複雑な関係では無い特別な存在でないと言い放たれた事に傷付いた。
    万太郎自身でもビックリしたのだ
    「…僕ってこんなに…ケビンの事特別だったんだ……」
    河原の土手沿いを歩いていた万太郎は立ち止まってつぶやく
    ズズッ…と鼻を啜って青い空を見上げる
    「………僕達…本当に普通の関係になっちゃうの?」
    太陽が万太郎を照らして目尻に溜まった水分がキラキラと反射されてそれが頬を伝って地面に落ちる、それはまるで万太郎の中の一粒の光が零れ落ちたみたいに地面に落ちて弾けて消えた。

    あれから一週間
    正義超人達の合同練習場にて何度かケビンに会ったが前みたいに絡むことも無ければ口論や喧嘩をすることもない。
    ケビンが宣言した通りに二人は周囲の者達と同じような接し方になっていたのである。それでも最初の方は万太郎が軽口を叩きにケビンに絡もうとしたがそれを全て軽くかわされるのである。
    「嗚呼」「そうか」「悪かったな」叩いても響かず最低限の接触と言葉しか交わさない。正義超人同士の連絡やタッグチームの相棒としての作戦などの話もするが…事務的で中身がない。
    万太郎は最初こそ周りに「ふん、その内元に戻るでしょ」と息巻いていたが1週間、3週間、1ヶ月とその義務的なケビンの対応に見るからに心が疲れている万太郎にミートが 大丈夫ですか? と声をかけるが うん…大丈夫だよ と静かに笑う。

    (僕…なにか悪いことしちゃったのかな?
    あんなのいつもの事じゃん…そんな事気にするなんて…
    もうケビンにとって僕はライバルじゃ無ければ、形だけの…ビジネスパートナーなものでしかないのかな?
    なら…ケビンの中の僕の存在意義って…)
    そこまで考えて万太郎は布団を頭まで被って考えない様にする。
    日々重なる小さなもやもやにネガティブな事ばかり考えてしまう。
    明日は坊っちゃんずの試合だ。こんなぐちゃぐちゃな心境で試合に挑めるのだろうか?
    そんな嫌な予感は的中し次の日の試合は全くいい動きが出来ず難敵では無かったのに苦戦を強いりギリギリ勝ちを掴んだ結果となった。


    「……」
    「……」
    試合後2人の控え室で着替えるケビンと万太郎は終始無言で帰り支度をしていた。万太郎は自身のコンディションのせいで何度もケビンに迷惑をかけてしまいベンチに座って俯いている。
    ケビンはそんな万太郎に声もかけず自身のロッカーに入ってあるいつものロングコートを羽織って荷物を整えていた
    いつもなら なんだあの動きは!?とかコンディションぐらい整えろ とか喧嘩腰で言ってくるのにそれすら無くなってしまった。終始無言の空間に万太郎が耐えきれず口を開いた
    「…い、いやあ~ごめんね~ケビン~ついついゲームのやり過ぎで夜更かししちゃってさ~もう試合中眠くて眠くて迷惑かけちゃったや、めんご☆」
    今できる精一杯の笑顔を向けてケビンに明るく接する万太郎。いつもならここで ふざけんじゃねぇとケビンと口論になる、真面目にしやがれといつもの様に喧嘩してムカついて仲直りしてまた喧嘩して…そうして少しずつお互いの距離感がわかっていってそしたら…

    お前のその分からない表情も、少しは分かる気がしたんだ…
    ギュッと拳を握り締めてヘラヘラと笑う万太郎。
    上手く笑えてるだろうか?いつもみたいに怒るだろうか?
    期待の意を込めて紡いだ言葉の反応にケビンはこう呟く

    「まあ…そんな時もあるな…」
    次からは気をつけろよ と、一見して優しい言葉の様だがその言葉を聞いた万太郎はガタッとその場に立ち上がり歯を食いしばって我慢していた物を吐露する。
    「…な、何だよ……いい加減にしろよ!言いたいことあるなら言えばいいだろ!もう僕とのコンビとかそういうの解消したいって!!」
    「誰もそんな事言ってねぇだろ」
    「じゃあ何さ!!いきなり喧嘩辞めるとか!よそよそしい態度とか!文句あるなら言えよ!お前の事見限ったとか!そしたら僕は…こんなに…」
    そこでキュッと口を閉じる。そんな万太郎を見たケビンは万太郎の方へ体を向けてゆっくりと口を開く
    「困惑させて悪かったな…だが見限ったつもりはねぇよ」
    「嘘だ、もう対等関係じゃないからだ…お前は僕に勝ってるし…わざわざ気に止める必要も無いだろ」
    「…俺はお前のこと良いライバルだと思ってる」
    「……は?」
    「互いに研磨しあって高め合う良いライバルだと思ってる」
    「な、何を…や、やめてよ…」
    「方向性や思考は違うがタッグの相棒としても良い相棒だと思ってるし俺も救われてる。互いに無いところを上手く補ってると思う」
    「やめてって…」
    「だから俺はライバルとしても相棒としてお前に何の不平不満もねぇよ」
    「やめてって!」

    (やめてよ、そんな、…そんな普通な関係…違うじゃん…僕達の関係はそんな……お手本の様な…薄っぺらいものじゃないじゃん…)
    ふるふると震える万太郎にケビンが囁く

    「これからも良いライバル(相棒)でいような」

    その言葉にキィーンと耳鳴りが起こってゆらっとふらつく。ハッハッと息継ぎが浅くなって止まらない、胸を抑えて鎮めようとするが浅い呼吸は止まらずどんどん加速する。
    ついにその場に膝を着いて苦しそうに胸を抑える万太郎にケビンが お、おい! と焦った様に声をかけられるも答えることが出来ない。
    異常な呼吸に 医者を呼んでくる! と猛スピードで部屋から駆け出していくケビン

    (嗚呼…焦ったケビン見たの久しぶりかも…ずっと感情が籠ってないみたいで…無機物で…ロボットみたいで…
    そういえば…試合中も僕がピンチの時すごく焦ってたな……ケビン…君がどうしたいか…わかんないよ…)

    それから数分後駆けつけた医者に万太郎は病院に搬送された。
    呼吸器をつけて搬送される万太郎を見てケビンはただただそこでそれを見ることしか出来ず力いっぱい握った拳からはポタポタと血が流れていった。
    病院にて過呼吸だと診断された万太郎は一晩だけ様子見ということで入院する事になった、連絡を聞いたミートが一晩分の着替えを持って病院に訪れた。
    ケビンは万太郎の個室の隅っこで無言で外を眺めていた、恐らく自身が原因で起こした自体だから律儀にも万太郎の様子を見ていたのだろう。
    医者から安静にしていれば大丈夫ですという言葉を聞いて一番安堵していたのはケビンだった。

    「二世、ちゃんと安静にしてるんですよ」
    「分かってるよ」
    「ケビンマスク、あとはお願いしてもいいですか?」
    「…嗚呼」
    「では、僕はこれで失礼しますね。」
    ペコッとお辞儀をして病室を去るミート。
    頭のいいというのは考えものかもしれない、万太郎とケビンの二人の雰囲気を見て空気を読んだのだろうミートは用事を済ませると直ぐに帰ってしまった。
    万太郎とケビンは相も変わらず無言で控え室と同じ様に空気が重くなっていた 、そんな空気を打ち壊したのは万太郎だった。
    「明日…朝8時には退院だって…」
    「…そうか」
    「退院手続きいつもミートにして貰ってたからさ、ケビン一緒に手伝ってよ」
    「…分かった」
    会話にして数分。なんて事ない会話な筈なのに何だか今生の別れのような雰囲気だ。
    ケビンは暫く居たあと退室して帰っていった。
    翌朝体調が戻った万太郎の元にケビンが来て二人で退院手続きを済ませる、病院の入口を出てケビンが じゃあ…と別れの言葉を言う前に万太郎がそれを遮るように走り出す。
    「お、おい!」
    「はっ、はっ」
    全力で走る万太郎を追いかけるケビン。
    退院してすぐに何してんだ!と言うケビンの声が聞こえるが無視して病院横の公園を走り抜ける。
    広大な公園のような植物園のような自然の中を抜けてとある1つの白の枠組みとガラスの窓でできたドーム状の建物に逃げ込む。そこに入っていく万太郎を見てケビンも後に続いて入る。
    「おい!万太郎!」
    ガシッと掴まれた腕に万太郎は肩で呼吸をして息を整える。
    「けほっ、かほっ」
    「! 馬鹿野郎ー!過呼吸引き起こして入院した奴が全力で走んじゃねぇー!」
    「はぁ、はぁ…へへ、だってケビン、こうでもしないと着いてこないでしょ?」
    「!?…万太郎…」
    「はあ、…疲れちゃった、ちょっときゅーけーい」

    万太郎たちが駆け込んだ場所は様々な種類の亜熱帯の観葉植物が植えられており万太郎は天使の銅像が飾られている小さな噴水のレンガの縁に座ってふーと息をつく。ケビンは無言でその様子を見ていた。

    「なに突っ立ってんの?ほら座りなよ」
    「い、いや俺は…」
    「もう!いいから!」
    強引にケビンの腕を掴んで自身の隣に座らせギュッと腕を絡めて逃がさいからという風にケビンにしがみつく。
    ケビンは戸惑いながらも万太郎の腕を振り払う事も出来ずただ地面に視線を落として万太郎の方を見ないようにしてた。
    「ねぇケビン、今なら教えてくれるでしょ?なんで僕の事避けるの?」
    「……別に避けてた訳じゃねぇよ」
    「そうだね僕からは避けてない。でも僕とケビンの関係性から避けてるよね」
    「…」
    「言ってくれなきゃわかんないよ…僕…嫌だよ…今のケビンも…僕達の関係性も……っ、…ごほっ、げほっ!」
    「っ!?万太郎!!」
    言葉がつまり咳が出る万太郎の背中を擦るケビンの手とその態度が優しくて泣きそうになる万太郎は落ち着かせるように深呼吸を意識する、その間もずっとケビンは万太郎の背中を擦って咳が止まった万太郎にホッと胸を撫で下ろしてケビンはゆっくりと固く紡いでいた口を開く
    「……怖いんだよ…今の俺達の関係が」
    「…どういう事?」
    「お前の事、最初はイケすかねぇ野郎だと思ってた。ダディの親友の息子…だからお前をぶちのめしたらダディに報復できると…でも超人オリンピックでお前に勝利した時残った感情は憎しみでも何でもなかった…d.m.pに居た時には得がたい暖かい心だった…」
    ケビンはギュッと両手拳を握ってそれを見る。万太郎はそのケビンの横顔を見て静かに聞いていた。
    「そこから悪魔の種子でお前がピンチと聞いて居ても経っても居られなかった…あの時もう既に俺はお前に心を奪われてたんだろうな…お前に拒絶された時いつもの俺なら相手にしねぇか嫌われても無視していたが…お前からの拒絶は無視できなかった…どうしてもお前の隣で並びたいと思った…だから未来でお前がカオスと組んで悔しくてたまらなかったぜ…」
    「ケビン…」
    「だが、対抗意識を燃やしても仕方ねぇ…カオスはお前の最高のタッグパートナーだ。それは間違いじゃねぇ。俺がいじけちまってもその事実は変えられねぇ、だったら俺はお前の大事なもの、大切なものを壊さねぇように…お前の全てを守ってやりてぇって思うようになった」
    「だったら…なんであんな距離置くような事…」
    「それは…俺自身がお前の行く先の未来の翳りになるからだ…」
    「えっ?」
    未だに目線を落として拳を握るケビン。
    ゆらりと太陽に雲がかかって建物内は雲の影に包まれて薄暗くなる。
    「俺は何人も何人もこの手で殺めてきた…超人も人間も、ぶちのめして、ぶち壊して、ぶっ殺して……そんな男が将来正義超人の…キン肉星大王の跡継ぎの隣に居るとなると世間はどういう目で見ると思う?」
    「そ、そんなの無視したら良いじゃん!ケビンはもう悪行超人何かじゃない!立派な正義超人じゃんか!」
    「フッ、でも過去の罪は消せねぇし周りが許さねぇよ。俺はお前の事が大切にしたいと…大事にしたいと思えば思う程、"俺"という存在がお前の重荷になる…今じゃなくてもこの先必ずお前と言う光の翳りになっちまう…俺はそれがどうしようも無く恐ろしくてたまらねぇ…」
    「ケビン…お前…」
    だから、ビジネス関係のような振る舞いをしたのと言うのか。
    (僕を守るためになんて…)
    頼んだ覚えないじゃん…そう呟けばケビンは そうだな俺の自己満足だ と静かに呟く。
    この不器用な男が素直に自分の感情を吐露するなんて思いもよらなかった、しかもその内容が万太郎を守るためのものだったなんて…万太郎は天を見上げて深呼吸をする。
    「だから万太郎、もしこの先お前の隣にカオスみてぇな最初から最後まで正義超人の相棒が見つかったら…お前はそいつとタッグを組め」
    「なっ!?ちょっと待って!じゃあケビンお前はどうするつもりなんだよ!」
    「俺は…お前に相応しい奴が現れたら、潔く身を引こうと思う。そして…超人界から立ち去ろうと思ってる」
    「!!」
    すっと隣で座っていたケビンが立ち上がり立ち去ろうとする、 もう要件は終わったと 言うように
    万太郎は おい! と声をかけるもケビンは立ち止まらず歩を進める。そんなケビンの背中を見て本気なんだと、ケビンの覚悟に怒りが湧いてくる。
    (そんな事頼んでないじゃん!何だよ!僕の事大切だとか大事だとかで僕から離れるとか、そんなの傲慢だろ!本当に僕の事が大切なら…大事なら……それなら……)

    ふーと息を吐いて怒りを沈める
    万太郎は意を決した様にケビンの背中を見つめ直して、そして…

    「おい!待てよケビンマスク!!こっちを見ろ!!」
    「…ふー…何だもう俺から話す事はねぇし、俺の意思を変える…こ、とも……」
    ケビンが振り返ると先程まで居た天使の噴水の前に一人の美少年が立っていた
    その美少年の手には身に覚えのあるタラコ唇に豚鼻のマスクを握り締めており真っ直ぐに澄んだ青緑の瞳がケビンマスクを見つめていた。
    「 」
    「やっと僕を見たね、ケビン」
    ニッと薄い唇が弧を描いて、イタズラに成功した子供のように大きな瞳が細くなる。ケビンは思考が真っ白になって目の前に居る美しい少年に言葉が詰まり何も出てこない。
    数秒固まって漸く目の前の美少年がキン肉万太郎であると認識すると怒号が口から出て万太郎に近づく。
    「バカ野郎!!こんな所で素顔晒しやがって!!しかも俺に見せやがって!人に素顔晒しちまったら死ぬ掟だろうがー!」
    「やだなーケビン。僕死ぬつもり全く無いけど?」
    「はぁっ?」
    万太郎の両腕を強く掴んで怒鳴るも当の本人は何処吹く風と言うようにケビンからの怒号に対して軽く受け流す。ケビンは万太郎からの発言に頭の中がクエスチョンマークで埋まり理解出来ない。
    万太郎はそんなケビンの様子にクスクス笑って口を開く
    「確かに素顔を他人に見てたら死ななきゃならないけど家族や恋人以上の一部の人には見せてもいいんだよ?」
    「そ、それは…どういう」
    「これで僕から逃げられなくなったね、ケビン?」
    「!?」
    ケビンの首に腕を回してニコッと笑う万太郎の腰に腕を回すケビンはまさかの脅し文句に呆れたような声が出る。万太郎はずっと何がおかしいのかクスクス笑って更に溜め息が出る。
    「僕が大事で大切なら誰よりも側に居てよ…他愛もない事で喧嘩して仲直りして悪い奴やっつけて
    いけ好かなくてでも、放っておけなくて、そんな唯一無二のライバルで僕の相棒で居てよ」
    「万太郎…だが俺には罪がある…お前に迷惑かけられねぇよ」
    「本当にね!本当にいい迷惑だよ!そのお陰で僕の人生がお先真っ暗になったらケビンのせいなんだからね!」
    「うっ、だ、だから俺から離れた方が良いって言ったじゃねぇか」
    「それは僕が嫌だって言ってるだろ!もうバカケビン!ニブチン!僕は…あー!もう!
    本当はね、本当に!本当に!
    ほんっっっっとうに!!不本意だけどケビンの罪の10分の3は背負ってあげてもいいよ!」
    「! な、何言ってんだ!それじゃあ意味ねぇだろ!」
    「僕が良いって言ってるじゃん!第一僕の事舐めてる?そんな囲ってして喜ぶ訳ないじゃん!カッコつけて何でもかんでも一人で背負ってバカみたい!」
    「なっ、テメェ!こっちがどれだけ配慮したと思ってんだ!」
    「ふん、僕頼んでないし~それに……迷惑ならかけてよバカ…
    僕全部ケビンに守ってもらわなきゃならないほど弱くないよ」
    「、……万太郎…」
    「確かに僕は父上みたく偉大でも無いけど、お前の隣に並べる場所は空けておいてよ
    ケビンは自分の罪が僕の人生の汚点になるかもって心配してるけど…うん、確かに汚点になるかもしれないしならないかもしれない。それは分からないけど、でもやっぱり、僕はお前の隣に並びたいし、僕の隣に居て欲しい。他の誰かに何か言われても僕は僕の君への気持ちを大事にしたい。
    一人で戦うやり方より、二人で戦うやり方を探そうよ、僕達そうやって乗り越えてきたじゃん」
    「!」
    真っ直ぐな言葉に真っ直ぐな瞳
    そんな万太郎の声にケビンの胸が震える
    (嗚呼…やっぱりかなわねぇな…)
    今更思い出した、俺はコイツのこういう強さに惹かれていたんだと…。
    ケビンは万太郎の言葉に答えるように少し待ってくれと万太郎から離れて自らの手で鉄仮面に手をかける。
    「ケビン…」
    「これで互様だろ?」
    いつもの鉄仮面を脱いで万太郎と同じ様に素顔を見せるケビン
    「な、なんか人がマスク脱ぐ行為見るのドキドキするね、ちょっと怖いみたいな」
    「てめぇはそれをなんの前触れも無くやったがな」
    「うぐっ」
    フッと笑って万太郎を抱き締める。
    万太郎はケビンの背中に腕を回して肩口に顔を埋めてスリスリと鼻を擦り付ける。
    「…もう後戻り出来ねぇぞ?本当に良いのか?」
    「うん…いいよ…ケビンと一緒ならきっと何でも乗り越えられるよ」
    「フッ、そうか……万太郎誓うぜ、絶対お前を裏切らねぇ。お前の隣も、俺の隣も、俺でありお前であるってよ」
    「うん、僕も、僕の隣はキミで、キミの隣は僕だよ」
    互いに目線を絡めて見つめて誓いの言葉を口に出す。その言葉を空気に溶けない様に互いの口の中に閉じ込める。
    「んぅ」
    「っ」
    雲の隙間から光が差し込んで建物の中に光が指す。
    光の筋が2人を包んで天が祝福しているみたいだ。
    二人はそんな事気にもせず何度も何度も口付けをかわして深く深く絡めて心に刻み込む。

    この先何があっても二人で一つだと
    口を放しておでことおでこをくっつけて自然と笑顔になる。二人は暫くしてマスクを着けて帰るかと帰路に着く、その後練習場で元のように喧嘩をしてる二人が居た。
    他愛もない喧嘩に周囲はヤレヤレと肩を透かして止めるか?と相談するが喧嘩をしている当の二人はどこか楽しげで生き生きとしていた。

    「テメェ!万太郎!お前ちゃんと練習しやがれ!」
    「はあー?ちゃんとしてますぅ~大体ケビンはいつも自分のペースすぎなんだよ!ちょっとは足並み揃えてよ!」
    「はっ、悪かったな、豚に合わせる足並みは持ち合わせてねぇんだよ、嗚呼、豚足の間違えか」
    「はあ!?誰の足が豚足だ!!自分の自己中な行動他人のせいにしないでよ!あっ、自己中だからわかんないかごめんごめん」
    「この野郎~」
    「何?やる気?」
    互いに睨み合ってフンッとそっぽを向く二人
    万太郎はそのまま休憩用のベンチに座って携帯を弄る、ケビンも万太郎の後に続いて万太郎の隣に座って休憩をする。
    飲み物を取りだして水分補給をしているケビンに万太郎がもたれかかって 僕にも頂戴 と強請るとケビンが ほらよ と自身が飲んでた飲み物を渡して万太郎にも水分補給を取らせる。
    その後も 今日家行っていい? だの 泊まってくか? だのそんな会話が聞こえて 周囲もバカップルがと呆れて放っておく。
    恋人でライバルで相棒であるそんな凸凹コンビを一言で表す言葉が見つからない、しかしそれで良いと二人は思っている。
    簡単にこの関係を言葉で片付けられたくない。
    ケビンと万太郎はもっともっと、深い関係にあるのだから。


    おわり
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