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    Saitar_783

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    Saitar_783

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    umtr♀ スタンプラリー企画
    さいたる マクトレ♀

    ◯◯しないと出られない部屋 そこは知らない部屋。見たこともない部屋。
     目が覚めたら真っ白な部屋にいた。
     隣にはマックイーン。
     私達はその部屋にデカデカと掲げられた文字を見る。その瞬間、マックイーンは叫んだ。

    「こ、こんなのっ、あんまりですわぁ〜!!!」

     あまりの絶叫に私はつい両耳を両手で塞いだ。
     マックイーンの声を遮ることなんて、今まで私はしたことがなかったのだが、初めて塞がないといけないと体が危機を感じるほどの叫びだった。
     でも、まぁ叫びたくなるのも無理はない。そこにある文字は、たしかにこう書かれていた。





    ──『重くならないと出られない部屋』





     白い部屋にはソファとテーブル。簡易キッチンに大きな業務用の冷蔵庫。背後には出口と思わしき扉。本当にそれしかない部屋。
     窓はない。スマートフォンには電波がない。誰がなんの為に?と、思うけれど、隣にいるマックイーンはそれよりもあの文字の衝撃から抜け出せないでいた。

    「やっと、やっと、この間、一キロ落としましたのに!」

     悔しそうに顔を歪めるが、掲げられた文字には『マックイーンが』とは一言も書かれていない。私が重くなってもいいはずなのに、まず自分がと思うところがマックイーンの可愛さだと思った。
     マックイーンが頭を抱える横で私は扉に近付きドアノブを回す。ガチと鈍い音がしてドアノブは途中で止まる。
     やっぱりきちんと施錠されている。出る術はなさそうだった。

    「重くなるしかないのか」

     私が呟くと、マックイーンはガクッと肩を落とす。

    「何キロ、何キロですの。何キロ増やせばいいんですの」

     うわ言のように呟く。その時に私は気付く。

    「体重とは書いてないよ、マックイーン」

     その言葉にハッとしてマックイーンは顔を上げる。

    「そうですわ!重くなるのは体重だけではありませんもの!えっと、例えば、空気を重くする、とかどうでしょうか?」

     確かにそれはいいアイデア。と思ったのも束の間。もう随分と一緒に過ごしてきた私達に、空気が重くなる瞬間なんてあるのだろうか。

    「えっと、どうしよう。空気ってどう重くするんだっけ」

     そもそもこの意味の分からない部屋に閉じ込められても重くならない私達に、そんな瞬間なんてあるのだろうか。

    「そ、そうですわね。例えば、えっと、私がトレーナーさんのことを、き、き、嫌いと言うとか……」

     その言葉に、あ、ダメだ。泣きそうだ。目の前が霞んできた。私が目を擦ろうとした瞬間にマックイーンは慌てて私に駆け寄る。

    「ご、ごめんなさい、トレーナーさん!冗談でも言うものではありませんでしたわね! あの、本当にごめんなさい」
    「ううん、こっちこそ、冗談だってわかってるのに、少し効きすぎてしまって」

     私は謝るが、空気は重くなるどころか信頼という名のどこか優しい空気になってしまう。
     その時にマックイーンが言った。

    「不用意にお互いを傷つけるぐらいなら身体を重くしましょう。好きなだけ食べて」

     マックイーンは言い切った。私は頷いた。
     二人でキッチンに立つ。何を作ろうかと考えて、四合のオムライスを作ることにした。それが私達の脱出に向けての覚悟だった。
     四合のご飯を炊いて、何回もフライパンを振る。業務用冷蔵庫のケチャップを使い切るほどご飯にまぜて、マックイーンと四合って大丈夫かな?と、笑い合って手首が痛くなるほど大きなオムライスを作る。
     なんとかフライパンの上でお米と格闘しているとマックイーンが言う。

    「トレーナーさんは、お料理が得意なのですね」
    「え? いや、得意ってほどじゃないよ?それに、お米を炒めるだけなら得意かどうかは関係ないと思うけど、まぁ、ほとほどには出来るよ。もう一人暮らしも長いからね」
    「ほどほどなんて。それでもすごいですわ。あの時に頂いた献立表だってお料理が分かってないと作れませんもの。私なんて、本当に何も出来なくて、トレーナーさんのこと尊敬致しますわ」

     マックイーンが微笑む。私はつい得意げになってしまう。
     四号のお米の土台を作った後はその上につぎはぎだらけの卵を乗せて、最後に少しだけ残ったケチャップでじぐざぐに線を引く。その時にマックイーンが少し残念そうな顔をしていて、あ、何か描いた方が良かったなかと思いつつ、それでも、私とマックイーンはテーブルについた。

    「じゃあ、行けるとこまで重くしようか」
    「はい。脱出のためですから、やりましょう!」

     マックイーンと私はスプーンを持ち、そのオムライスを食べ進める。が、正直言って苦行だった。オムライスが減らない。もちろん、私側のオムライスの話。
     対面に座るマックイーンの方のオムライスはみるみる減っていき、少しだけ心配になる。

    「マックイーン、無理はしなくていいからね?キツかったら他の方法を考えてもいいし」
    「はい、ですが、まだまだ大丈夫ですわ。それに、トレーナーさんが作ってくれたものを残したくありませんもの」

     マックイーンは本当に余裕の笑みでオムライスを食べ進めていく。私はその姿に少しだけふふっと笑ってしまう。

    「え、あ、ど、どうして笑うのですか?」
    「ん、あぁ、ごめんね。ただ、すごくいい顔で食べるなと思ってね」

     マックイーンは少しだけ膨れたように言う。

    「それは、トレーナーさんのオムライスが美味しいんですもの。こういう顔にもなりますわ」

     私はその言葉に純粋に嬉しくなる。

    「うん。本当、いつもありがとうマックイーン」

     マックイーンは不思議そうな顔をする。

    「いつも、ですか?」
    「うん。いつもだよ。こんな些細なことにさえとても素敵な表情をしてくれて、私のしたことをとても特別なことのように扱ってくれてありがとう」

     私が言うとマックイーンは微笑んで言う。

    「特別なことなんですよ。トレーナーさん。貴女が私にしてくれることはすべてがとても特別なことなんです」

     その素敵としか形容できない言葉に私は少しだけ照れてしまう。

    「そんな、トレーナーなんだから当たり前だよ」

     それは確かに少しだけ謙遜した。

    「当たり前、ですか。それはとても嬉しいお言葉です。でも同時に、その言葉を使われるといつも勘違いしてしまいそうなるんです」

     オムライスを食べ終えたマックイーンはスプーンを置き、なぜかとても複雑そうな顔で言った。

    「勘違い?どういうこと?」
    「……トレーナーさんが持っているスキルや技術、お料理の腕もそうですわね。それらを惜しみなく私に向けてくれるから。それらがすべて、私の為のものではないかと思ってしまうんです」

     その言葉を咀嚼するには時間が掛かった。しばらく間があって私は言う。

    「つまりそれは、私の料理スキルもマックイーンの為に得たものに見えるってこと?」

     そう聞くとマックイーンは少しだけ照れたように目を伏せていう。

    「はい……そうですわ。分かっています傲慢だって。貴女が得てきた経験も手に入れたものも、すべて貴女の為のものだと分かっています。私の為に得たものではないことも。ですが……」

     マックイーンは言葉を一度切った、私はその後の言葉を待った。

    「えぇ、分かっているんです。私が幸福なウマ娘になるために貴女は今まで経験を詰んで来た訳じゃない。ですが、もしそうだったらと、毎日考えずにはいられないのです」

     段々と、声が小さくなる告白。
     私はその告白が嬉しくて仕方がない。けれど、そのあまりに鮮烈な告白に、私はなんと返そうかと少し言葉に詰まる。すると、マックイーンはすぐに返して貰えないことに焦ったように近くにあったコップの中の水を飲んだ。雰囲気は複雑で、その時にガチャンと扉が開く音がした。

    「あ、開きましたわね……?えっと、あの、ごめんなさい。私が空気を重くしてしまいましたわね」

     マックイーンは、目を伏せた。
     私はそれに対して、真っ直ぐに答える。

    「ううん、マックイーン。私は重くなんて思ってないよ。空気を重くなんてしてない。だって、私は嬉しかったから。ただ、なんと返していいかが分からなかっただけ。でも、ひとつ言えるとしたら、うん、そうだ。私の全てがマックイーンの為とは言い切れないかもしれない。でも、それでもね、マックイーンが喜んでくれることやマックイーンを幸せにする仕組みばかりを磨いている自分がいる。だから、きっと、マックイーンを幸せにする為に生きていると言っても過言じゃない」

     マックイーンは、震える声でトレーナーさんと言って、潤む瞳で私を見てくれた。
     良かったのかも、と思った。この部屋があって良かったのかもと。こうしてまた絆が深まったのだから。
     いや、ん?待てよ。

    「トレーナーさん、私もトレーナーさんのことを──」
    「い、いや、ごめん、ちょっと待ってマックイーン。いい話で終わりたいけど、今、なんで開いたの?」

     私達は顔を見合わせる。

    「それは、その、空気が重くて、ではないのですか?」
    「いや、私は重くなったとは思わなかった」
    「でしたら、何が重く……あ、分かりましたわ。トレーナーさんが、その、私の幸せの為に生きてると、そ、そう言って下さったから、関係性に重みが出た、のではないでしょうか?」

     とんでもなく照れながら言ってくれたマックイーン。それはそれで可愛いのだけど、それを言ったのは鍵が開いてからだ。
     つまり、その前にしたこと。鍵が開く前にやったこと。

    「マックイーン、水飲んだでしょ」
    「水、ですか?はい、確かに飲みましたが……はっ、まさか」
    「たった少しの水が目標体重の最後の一押しだったんだね。マックイーン。外に出たら体重測ろうか」

     ガクンと、マックイーンは肩を落とす。
     さっきの告白が無かったかのように落ち込む姿。それでも愛しいことに変わりはなく。

    「マックイーン、ダイエットしようね。今度は献立表だけじゃなく、私が作ってあげるから」

     そう言うと、パッと顔をあげて目を輝かせる姿。

    「はい!それなら頑張れそうですわ!では、ここを出ましょう。トレーナーさん」

     マックイーンは立ち上がり私の手を引く。私は答えるように立ち上がって扉の前に歩き出す。

    「たまには重くなるのもいいものですわね」

     と、マックイーンは言うが、私はいつも以上の笑顔で答える。

    「結果としてはそうだけど……来週のレースまで甘いものは控えようね」

     がーんとショックを受けているマックイーンの隣でドアノブを回す。今度は不都合なく扉は開いた。

    「でも、オムライス、ぜんぶ食べてくれてありがとう。ダイエットに成功したら、今度は一緒にスイーツも作ってみよう。私も作ったことはないけど、マックイーンの為のスキル。たくさん持って生きていきたいから」

     マックイーンは、嬉しそうに笑ってくれた。
     確かに関係性の重みも増した。
     自分のありったけを掛けれる相手。
     思いを吐露できたのはこの部屋のおかげ。
     私達の脱出は、成功した。


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