相互作用エゴイスティック『──こはくさん。後は、頼んだ』
トン、と軽く背中を押されたと思ったら、ひどく優しい男の声が耳に届き。
──その瞬間、すべてがスローモーションになった。
次いで聞こえてきた破裂音にこはくがゆっくりと振り向くと、自分の背中を押した男の胸元に真っ赤な染みが広がっていく。
『……斑はんっ……!』
どこか穏やかかつ満足気な表情で後ろに倒れていく男の名前を、自分でも驚くほど悲痛な声で叫ぶ。
必死に伸ばした手は、虚しく空を切るだけだった。
****
慌ただしい新年度始めも過ぎ行き、徐々に初夏へと移り変わろうとしている晩春の夜。
都内某所に建つマンションの一室にて、桜河こはくはリビングでソファに凭れかかりながら、仏頂面で目前のテレビを眺めていた。
2652