鬼が袖引く(一):司レオ「そんなに人を斬っていると、鬼になってしまいますよ」
人の呻き声がやっと途絶えた夜闇の中で、よく通る精悍な声が響いた。
血と油に塗れた刀を、反射的に薙ぐように振る。
声の方向から距離を取るように、レオは地面を蹴って刀を構えた。
月のない夜だった。
じっと目を凝らすと、明かりひとつないこの路端で、十尺程度離れた場所に、二つの小さな光を捉える。
瞬間、空中に音もなく紫色の炎が灯った。ひとつ、ふたつ、みっつまで順に増え、徐々に大きくなる――鬼火だ。
どろどろと揺らめく炎の燐光がその相好を照らす。最初に見た小さな光そのものなのだろう、爛々と輝く紫色の瞳と、額の根元には人ならざることを主張するような大きく不揃いな角が見て取れた。
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