鬼が袖引く(四):司レオ「月永くん、流石に聞いてもいいかな……? その、このところ耳に付けてる、物凄い歯型のこと」
「うっ」
座卓の向かい側からの問い掛けは、どこか少女めいた弾んだ調子だった。色素の薄い儚げな容貌をした依頼人の男――英智は、相も変わらず人畜無害な優男のように微笑んでいる。
人払いがなされた料亭の一室だった。恐らく警護の者が襖の裏側に控えているはずだが、「依頼主」であるところの英智は、大仰な護衛の物々しさを厭う。
一応のところ、用心棒でもあるはずのレオがその範疇から外れるのは、おそらくは生来のあっけらかんとした気質のおかげだろう。歳が近いこともあってか、こうして「仕事」の相談で会う時、英智は毎度、他愛のない会話をしたがった。
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