視線誘導 たなびく深紅のマントが目を惹く。裾は襤褸のように破れ裂けていたが、纏う者の品格によるものだろうか。その歪な有様さえ、彼の為に仕立てられた装飾のようだった。その名が示す通り『主演』と呼ぶに相応しい、ルシアンと呼ばれた男の為の衣装。後ろ姿を見つめる視線などとうに気づいているのだろう。彼は振り返ると微かに微笑んだ。
「どうかしたのか、ドクター」
「…いや」
正面から見ると、まず洒落た帽子を被った端正な顔立ちと金色の瞳に目が行き。次いでフリルが縁取る白いシャツの、開かれた胸元を見る。反射のようにその合わせを握ると、隠すように中央に寄せていた。私の行動にファントムは不思議そうに瞬きする。
「留め忘れているわけではない。これはそういった衣装だ」
2007