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    珊瑚77

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    珊瑚77

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    3/26 ながいきのかみさま

    ショタオニから始まるホルセト。
    転生ホルス(幼稚園児のすがた)・はっきりした記憶はないが何かを感じている。
    叔父様・日本でアヌビスと暮らしている。現代まで神様のまま顕在。

    残念ながら本日は準備号で幼少期の遭遇までです。すみません……!
    ここから小学生→中学生→高校生→結婚 と愛を育みます。
    書き上げたらこちらとピクシブで公開する予定です。

    #ホルセト
    horsetoe

    空の記憶 ホルスには、繰り返し見る夢がある。


     ぐらぐらと揺れる視界の中で、ホルスは、ひと目でいいから砂漠が見たいと、切に願っている。足を引きずって歩くホルスの周りには、植物の根のようなものと瓦礫がたくさん散らばっていて、前に進むことすら、容易ではない。瓦礫の隙間を抜けて何とか外に這い出ると、壊れかけた神殿の柱が見えてきた。その先に広がっているのが、夕焼けに照らし出されて緋色に輝く、エジプトの砂漠だ。
     ホルスは一つ息を吐き、その美しさに、ただただ感嘆するしかない。

     愛しいと、思う。
     この光景を、忘れたくないと、願う。

     だけど限界を超えた身体はもうそれ以上動かなくて、ホルスは崩れた柱の根本に座り込み、そこに背中を預けて、愛しい砂漠を見つめ続けた。
     力が入らなくなってきた身体が倒れそうになった時に、支えてくれる腕があった。ホルスはその相手を見上げ、それが『あの人』ではないことに、心底安堵する。あの人に、自分が消えてしまう瞬間なんて、見られたくない。
     たとえ相手が狂気に堕ちた存在であったとしても、実の親を手にかけた罪は、半神の身に過ぎないホルスの魂を蝕んでいた。神になれないまま命を落とせば、魂はドゥアトに行くのではなく、砂のように崩れるしかないということは理解している。
     それでもホルスにとって大事なのは、あの人がいっとう愛している存在が、あの人の傍から消えないこと。

     ……幸せに。
     どうかあの人が、幸せになりますように。
     贖罪は果たされて、背負った罪も、既に無い。
     あの人が幸せになる権利は、充分にあるはずなのだから。

     祈りにも似た願いの言葉を、ホルスの背中を支える腕の持ち主は、力強く肯定してくれた。

     あの人は、幸せになりますよ。
     もし誰かがあの人を害そうとするならば、自分が攫っていきます。
     絶対に、損なわせたりなんて、させません。

     その言葉にホルスは安心して、柔らかく微笑むことができたのだ。

    「……さま」

     少しずつ暗くなっていく視界の中で。
     愛しい砂漠を、碧い瞳で見つめ続けたまま。
     ホルスは静かに、息を引き取った。
     
     †††

     肌で感じる、朝の空気。
     小鳥の鳴き声と、香ばしいコーヒーの香り。
     窓から差し込む光は、一日の始まりを告げるように清々しい。

     ベッドの上で目を覚ましたホルスは、天井を見上げたまま、何度か瞼を瞬かせる。
     瞬きの拍子に溜まっていた涙の粒が眦に溢れ、耳の入り口付近を、じんわりと濡らしていく。

    「……また、あの夢だ」

     幼い時から、ホルスが繰り返し見る、どこかの砂漠の夢。
     日本で育てられたホルスは、六歳になった今でも、実際の砂漠を目にした経験なんてない。それなのになぜ、こんな夢を、何度も見るのだろう。
     言葉を覚えてすぐに、たどたどしい語彙力で何とか夢のことを養父に説明した時は、彼は蜂蜜色の瞳を緩く眇めて、少しだけ困った表情でホルスの頭を撫でた。

    「ホルス。その話は、絶対に他の人にしてはいけません。私とホルスだけの秘密です」

     そうホルスに言い聞かせたのは、宝玉のような碧眼を持っていた為か、生まれてすぐに親に売られたホルスを人買いから保護してくれた養父である、ギリシャ人の男だ。いまだに息子であるホルスでも本名を知らない彼は、周囲から【FG】と呼ばれている。彼は女神のような女性を妻に持ちながらも浮き名を流すことに余念がなく、ゴシップ誌を毎度のように騒がせる一方で、世界を股にかける有能な貿易商でもある。

     濡れた肌を手の甲で拭っていると、部屋のドアが軽くノックされた。

    「ホルス。起きてますか」
    「はい、アヌビス兄様」

     ホルスの返事を待ってドアを開いたのは、癖のある黒髪を首の後ろで束ねた、端正な顔立ちの青年だ。彼はベッドの上に身体を起こしたホルスを見つめて、軽く首を傾げる。充血した瞳と濡れた跡のある頬は、ホルスが夢を見て泣いていた事実を、簡単に伝えてしまったらしい。

    「また、怖い夢を見たのですか?」
    「……はい」

     養父と約束をしているから、あの夢の話は、誰にも話せない。
     たとえ相手が、ホルスが兄と慕っている、アヌビスであっても。

    「ホルス! 怖い夢を見たのか⁉︎」

     ――大好きな、叔父であったとしても。

     アヌビスの後に続いて部屋に駆け込んできた青年は、呆れ顔のアヌビスを他所にホルスのベッドに片膝を乗り上げ、有無を言わさずに、ホルスをぎゅっと抱きしめてきた。頭の天辺と頬に何度も口付けられ、遠慮なく頬を擦り寄せられて、ホルスは先ほどとは違う意味で、頬を朱色に染めてしまう。

    「お、叔父様……」
    「大丈夫……絶対に、大丈夫だ。何が来たって、誰に言われたって、俺がお前を守るからな……」


     ホルスが叔父様と呼ぶその人に出会ったのは、まだ三つかそこらの時だったと思う。
     養父の腕に抱えられて初めて見たその人は、美しい相貌に夕焼けみたいに赤い髪と同じ色の瞳を持っていて、ホルスは幼心にも、なんて素敵な人なんだろうと、ぼうっと彼に見惚れたのだ。
     だけど彼の方はというと、驚愕の表情でホルスを見つめた後に身体をこわばらせ、そのまま床にへたり込んでしまった。

    「お父様!」

     アヌビスがすぐに彼を抱き上げてソファに運んだが、その表情は青褪めていて、全身がガクガクと震えている。
     しかし、ショックが強すぎるみたいだから出直しましょうかと呟いて踵を返そうとした養父の動きを遮るように、彼は叫んだのだ。

    「連れて行くな!」
    「……セト様」
    「頼む……頼む……お願いだ。連れていかないでくれ……」

     それは懇願というよりも、哀願に近い言葉。
     アヌビスに押し留められながらも必死に自分に向かって伸ばされる腕に、養父に抱き上げられたまま腕を差し出したのは、ホルスの、無意識の行動だ。そんなホルスに養父は少し逡巡した素振りを見せたが、結局はセトと呼ばれた青年の傍に、ホルスを連れて行ってくれた。

    「……ホルス」

     ソファに腰掛けたセトの膝にホルスがそっと乗せられると、彼はくしゃくしゃに顔を歪め、大粒の涙をほろほろと溢す。
     短い黒髪に、碧眼を覆う瞼。曲線を描く柔らかい頬と、小麦色した肌。ホルスの身体を象るパーツの一つ一つを、この上ない宝物に触れるような手つきで辿り、その温もりと鼓動を確かめて、セトは洟を垂らして啜り哭く。

    「ホルス……俺のホルス。やっと……やっともう一度、お前に出会えた」
    「……せとさま?」

     養父の呼びかけに倣ってホルスが名前を口にすると、セトはぱちぱちと瞳を瞬かせ、それから眉尻を下げて哀しそうに笑った。

    「そうか……そうだよな。魂が同じでも、お前は……」
    「……?」
    「あぁ、でもどうかホルス。俺のことは、『叔父様』と呼んでくれないか? それ以上なんて……望まないから」
    「……はい、おじさま」
    「っ……!」
    「……叔父様?」

     請われた通りの呼び名を口にしたホルスを抱きしめ、小さな額に何度も口付けて、セトはまた一頻り泣いたのだった。


     その日からホルスは、養父の元を離れ、日本で暮らすセトとアヌビスの元に預けられた。
     そう年齢が変わらないように見えるセトとアヌビスが親子であることにホルスは驚いたが、養父のFGも年齢不詳なのだから、そういうものなのかもしれないとも思う。
     日本語や生活習慣についてはアヌビスが、運動や勉強はセトが見てくれたので、ホルスは日本での生活にもすぐ馴染むことができた。
     セトとアヌビスが暮らす高層マンションは都内でも利便の良い沿線の近くにあり、ホルスが通うことになった幼稚園からもそう遠くない。朝は仕事に出るアヌビスと一緒に幼稚園に向かい、昼過ぎに幼稚園が終わる頃には、在宅ワークのセトが迎えに来てくれる。礼儀正しいアヌビスと言葉は荒いが根の優しさが垣間見えるセトは幼稚園の先生方からも園生の親達からも人気が高く、登園時と降園時の盛況ぶりには園長も苦笑するのが常だった。




    ……この先は小学一年生で事件を切っ掛けに半神としての記憶が覚醒してヌトの加護を取り戻すホルスから始まるホルセトになる予定です……!
    ……導入のみで申し訳ない……!
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    珊瑚77

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    ショタオニから始まるホルセト。
    転生ホルス(幼稚園児のすがた)・はっきりした記憶はないが何かを感じている。
    叔父様・日本でアヌビスと暮らしている。現代まで神様のまま顕在。

    残念ながら本日は準備号で幼少期の遭遇までです。すみません……!
    ここから小学生→中学生→高校生→結婚 と愛を育みます。
    書き上げたらこちらとピクシブで公開する予定です。
    空の記憶 ホルスには、繰り返し見る夢がある。


     ぐらぐらと揺れる視界の中で、ホルスは、ひと目でいいから砂漠が見たいと、切に願っている。足を引きずって歩くホルスの周りには、植物の根のようなものと瓦礫がたくさん散らばっていて、前に進むことすら、容易ではない。瓦礫の隙間を抜けて何とか外に這い出ると、壊れかけた神殿の柱が見えてきた。その先に広がっているのが、夕焼けに照らし出されて緋色に輝く、エジプトの砂漠だ。
     ホルスは一つ息を吐き、その美しさに、ただただ感嘆するしかない。

     愛しいと、思う。
     この光景を、忘れたくないと、願う。

     だけど限界を超えた身体はもうそれ以上動かなくて、ホルスは崩れた柱の根本に座り込み、そこに背中を預けて、愛しい砂漠を見つめ続けた。
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