not titleさて、朝目が覚めたら一般的な女性は何をするだろう。洗顔とスキンケアを上げる方も多かろうし、先ずは着替えをすると仰る方も多かろう。
彼女は先ず空っぽの胃袋に前日タンブラーに入れておいたまだ熱い珈琲か紅茶をストレートで流し込む。カフェインの香りと温度で強制的に覚醒状態を促すのだ。
空腹で活動に支障をきたすと判断すればそこにプロテインドリンクとビスケットを口に詰め込む。
そこから洗顔スキンケア、ヘアケア着替えとボディの日焼け止めを塗り最後にメイクに取り掛かり慣れたせいか手順が多い割に手早く終えて部屋を後にする。この間約30分。一緒に眠る事の多い女子や子供系サーヴァント達を起こさぬ様細心の注意を払って。遅いか早いかは読者諸氏に判断をお任せするが、スタートの時点で大体日本の平均的な日の出前後の時刻なのでカルデアにおいてはかなり早い部類に入る。そこからまたアヴィケブロンのゴーレムや有志の者達と共に30分程度のストームボーダー内の清掃（場所は日替わり）。そしてシフトに入っている日はそこからダッシュで自室に戻り清掃によって汚れがついていないか身形のチェック。必要なら再び着替え今度は厨房へ向かい仕込みの手伝い。
作業が終わると自分の食べるべき朝食を見繕う。
美味しいから、お腹が空いて食べたいからではなく、生き残る為に必要な肉体を作る栄養素だから摂取するのだ。
その頃には食堂も賑わい始めるから、できるだけ美味しそうに見える様に。

その義務的な作業が、ここ最近楽しくなっていた。一緒に食事をしようと誘いかけてくれる人が居たから、ではない。厨房から食事を持って出れば一緒に食べようと誘ってくれる相手はそれなりに居るのだ。
大体は掃除の後、態々部屋まで迎えに来て一緒に何を食べようなんて考えてくれて、一緒に厨房に入って作ってくれて。お前の主食を必ず玉蜀黍にしてやるなんて宣言を飽きもせず実行し続けてくれた神様。
あの律儀で横柄でガラの悪い神様が生きる為に必要な行為を一緒にしてくれるだけで楽しく思っていたのだ。
「もうそれさ、」なんて要らない答えを出そうとする思考が無かったわけじゃない。
ただ、それは『カルデアのマスター』の都合に合わないから無視を決め込んだ。
だって終止符（ピリオド）を打つ場所はもう大まかに決まっているから。そこまでの経路の障害になるものは排除すべきだ。
そして彼の存在は気付けば何時の間にか大きくなり過ぎた。
目障りどころの話では無い。避けて通ることも出来ないから排除する他ない程邪魔なのだ。
けれど戦力としては必要。その存在そのものを消す事は不可。なら消すべきは、決まっている。
それならば慣れている。このカルデアで誰よりも得意なのでは無いかと自惚れる程度には。
もう何処も痛まない様、痛む場所ごと切除すれば良い。大丈夫。ちゃんと訓練した。

夢の中、何時もと同じ。
現実にあり得るのか溶岩の火口も程近いその場所は何を象徴しているのかは知らないし知る心算もない。
次々と自分が殺した人々が列を成して順々に溶岩に飲まれていくのをただじっと見つめていた。
眠る時は体を横たえて休め、ただ何もかも忘れない為に繰り返す復習。
そこに時折現れる小さな少女の首を手折るだけの反復作業。
ちゃんと漏れなく、きちんと全部。
自分と同じ顔をしたそれを、引き倒し、縊り、殺して行く。
慣れた作業に感じるものは無い。
求めるものに手を伸ばすそれを地に縫い留めて、息の根を止めて。終わったことに一息つく。
そして崖の下に亡骸を棄てる。朽ち腐る事もないから溜め込む。
そしてまた次から次へと生まれるから、何度でも繰り返す。
力一杯両手で血流を止め喉を潰して巧く体重を掛けて骨をへし折る。
何度も何度も何度も何度も繰り返してきた。
慣れている。大丈夫。生きている限りこれからもずっとずっとこれを繰り返すのだから。