Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    yue_pin_

    @yue_pin_

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 3

    yue_pin_

    ☆quiet follow

    いつもの

    #ポカぐだ
    pokaguda
    #ポカぐだ♀

    生かす神さま「おはよう、テスカトリポカ」
    掛けられた声の方向に視線を動かす。
    食堂の喧騒の中、彼女は何処までも凪いでいた。
    彼女の立つそこだけが酷く静かだった。
    先日までの感情の波は無く、何時も通りと誰もが称するだろう。けれど彼に対する普段の気安さや甘えはおろか、漸く身に付けた女としての警戒心すらもそこにはなかった。
    積み上げてきた時間が無かったことになったわけでもない。彼女の時間は連続している。
    滅亡なんて一大行事でも何でもない。ただあるべき日常の掃除とか片付け、そんなものだろう。彼女を覆っていた少女らしい恥じらいや怯え、まだ形にもなっていなかったであろう仄かに芯に燻っていた熱。そんなものが綺麗さっぱり濯がれていた。
    時折、年頃の娘としては奇異な程無垢な瞳をする、その理由を知った気がした。そういった年相応の情動の起伏がないのではない。嬉しい、喜ばしい、腹立たしい、心配、驚き、ときめき、日常の細々とした喜怒哀楽は常に目にして来た。
    戦う為に最適化したのは肉体だけではない。その精神も常に最適化を続け研ぎ澄まされ続けてきた。それこそが自壊の正体というわけだ。
    恐れ入る。
    詰まりテスカトリポカと接する事で起こった感情すら要らないものとして斬り捨てたのだ。
    それは戦士として正しかろう。自己犠牲を厭わぬ勇敢さである。あの日見た、焔に身を投じる蝶(パパロトル)の姿だ。
    嗚呼、なんと腹立たしい女だ。
    戦士として正しく、人間として女として何処迄もトチ狂っていやがる。
    ムカっ腹がたったとて已むを得まい。
    取捨択一は彼女の自由。マスターとサーヴァント。対等の契約である以上ここで腹を立てるのはお門違いだ。
    それでも、こんな大勢の人間やサーヴァントに囲まれて、後輩を名乗る少女が隣にいて尚。
    何故彼女はあんなにも独りきりなのか。


    ふらり、と極たまに。
    衝動的に夜中のカルデア基地も兼ねたストームボーダーの中を歩く。
    強化ガラス越しに眺める白紙化地球は夜中の時間帯であろうと飽きもせずピーカンの白々しい青空が広がる。
    それにすら苛立ちを覚えて廊下を進む。
    よく学生時代品の無い男子生徒に揶揄された生理などではない。うっかり腹痛で寝込んでいる場合では無くなったからピルを飲んで女性機能を止めている。カルデア側が言う事はないが、うっかり攻略地で強姦にでも遭い望まぬ妊娠などせぬ対策でもあるのだろう。それならば自分が単独で捕虜にでもなった際時間稼ぎもできよう。勿論スタッフや契約英霊が苦心してその様な真似をせず済むよう心を砕いてくれている。必要がなければ使わぬに越したことはない。しかし使えるカードの存在は認識しておかねばなるまい。
    ピルを服用するようになって気付いた。個人差はあろうが、体感的に自分の感情の約半量程度は性ホルモンの分泌によって促されていたらしい。暫く慣れずに表には出さぬよう苦心しつつも苛々とした時期もあった。しかし分泌が安定すれば心を透明にする訓練も随分と捗った。
    要するに脳内の様々な分泌物により気分というのはある程度までコントロールできる。
    精神状態を健全化する為に必要だと言えば大概の薬が手に入った。勿論母国で禁止される様な薬物を求める程天才でもなければ柔な神経もしていなかったから求めることはなかったが。
    ただ心が波立つ事が少なくなると何事もシンプルに見えてくるもので、本当に必要なもの、欲しいものが古代の遺物や化石よろしく砂や土を取り払う様に発掘されるのが厄介だった。
    これなしでは今頃自分は生きていまい。
    必要不可欠なそれ。

    カエリタイ

    この為だけに生き延びていると言っても過言ではない。
    シミュレーターを使い慣れた家路を模した道を辿る。
    帰りたい。帰りたい。帰りたい。
    なんて馬鹿馬鹿しくシンプル且つ原始的な欲求だろう。けれどそれがなければ自分は今頃生きちゃいない。その確信がある。
    懐かしい門扉から玄関までの短い通路すらもどかしく、飛び石を跳ねるように渡る。
    何時も夜にならなければ鍵などかからない玄関を開けて、中に入ると雪の結晶模様の板硝子を嵌め込んだ明かり取りから柔らかに注ぐ陽光で僅かに温かくなった玄関に上る。
    『ただいま』、とは言わない。だってここは仮想空間だから。自分の家に似せた別のもの。それはそれはちゃんと理解している。
    慣れた足取りで奥に進み台所に入ると、簡素な枠線とほぼ日付、祝祭日しか印刷されていない無愛想なカレンダーにみっちりと予定が書き込まれていた。お年賀に実家の製品を求めるお客さんも多い。年始の鏡餅もつかねば。年末は掻き入れ時だ。きっと今年が恙無く流れていれば祖父母の手でそう書き込まれていただろう予定がみっちりと詰まっていた。
    鼻の奥がツンと痛むのを知らない振りをした。
    ストームボーダーの機能的且つお洒落な業務用レベルのキッチンじゃないけれど、使い慣れた高さのそこに持参した材料を広げていく。プラントで作った野菜や茸、レイシフト先で狩ったり釣ったりしたものだ。中には巨大魚の切り身やドラゴンの喉肉なんて珍品もある。その何処か現実離れした材料が、実家の台所にあると酷く異質で、思わず笑いが漏れた。
    きっとカルデアに来る前ならば漫画に出てきそうだなんて感想を漏らしただろう。
    けれどこれが今の己が置かれた現実だ。
    しゃりしゃりと音を立て米を研いで浸水させる。昆布と鰹節の出汁を取る。本当は数時間程水に昆布を浸しておきたいが少し省略して顆粒の昆布出汁も混ぜてしまう。メディアに頼り結構美味しくできた。家庭料理に一家言持つメディア印の顆粒出汁は煮干しも鰹節も昆布も結構人気商品となっている。
    大根と人参を刻み、水と一緒に火にかける。その間に葉野菜を洗って笊にあげ、今度はもう一つの鍋にお湯を沸かす。野菜の下処理を終えるとまな板をさっと流して野菜クズを落とし、今度は肉や魚を捌き始める。
    今日は生姜を効かせたこってり味の煮魚と一口大に切って片栗粉をまぶした肉を料理に使った残りの葱の青い箇所や生姜の皮と一緒に茹でた水晶鶏ならぬ水晶竜にさっぱりとして酸味のある梅肉入りの香味だれをかけた冷菜、それから根菜と油揚げたっぷりの味噌汁に土鍋でごはんを炊いて、いつものおかず青菜の胡麻和え、牛蒡と人参のきんぴら、葱と鰹節をかけた冷奴に塩揉みした野菜やツナを入れ粒マスタードを効かせたマヨネーズ少なめポテトサラダ。それからキッチンで日本の英霊達と持ち回りで漬けている糠漬け。
    静寂が煩くてただ煮炊きする音を響かせる。
    ざくざく、トントン、じゃぶじゃぶ、コトコト、押し寄せる静けさが耳に流れ込まないように。全部全部押し流す。
    時々、全部ダメになりたくなるのだ。そんなのは「前向きで不屈の闘志を持つカルデアのマスター」が誰にも見せてはいけない側面だ。
    だから一人無心で料理する時に一緒に無かった事(リセット)してしまう。
    フィニスカルデアで命を賭して逃がしてくれたレオナルド・ダ・ヴィンチがそうである、そうであって欲しい、そうあれかしと希望を抱いてくれたマスターでいるために。
    これまで頭にごっちゃに溜め込んだ事柄を一度全部横にうっちゃって、新しく頭に詰め直して整理する。その際いらないものを捨てるのも忘れない。
    いつもの様に、小さな皿や茶椀に盛って仏壇に持っていき並べると、御鈴(おりん)を鳴らして手を合わせる。自宅でお供えする時はいつも大分雑で、厳密には生臭物と忌避されるだろうが、時々ハンバーグやカレー唐揚げお刺身なんかもお供えメニューとしてミニサイズで並ぶ。食器は祖父が懇意にしている窯元や漆塗り工房のお爺ちゃん先生達が戯れに焼いたり作ってくれてお飯事にでも使いなさいとくれたものだが、これが結構いい出来で、素朴且つリアル。とても可愛らしい。然もありなん。元々普通に使う食器やら何やらを手掛ける匠が作っているのである。これに毎日小さな食事を盛るのが大人の真似っこの様で、子供の頃から矢鱈と楽しかった。
    「曽お祖父ちゃん曽お祖母ちゃんお母さん今日の新作は水晶ドラゴンです。ダディが日本酒に合うって言ってました。ご飯のお供でも美味しいからいっぱい食べてね。」
    いつもの様に元気に献立の説明して顔を上げる。
    実際にご先祖様達がこれを食べてくれるわけではなかろうが、それでも美味しいと思ってくれたら、少しでも幸せになってくれたら、想像するだけで自分が嬉しいから。これをやらないと御飯を作った気にならないのだ。達成感が三割減する。
    カルデアで作るより少なく、けれど実家で作る程度には作ってしまうのも何時もの事。一人で食べ切れるわけじゃ無いのに今更一人分を作るなんて器用な事もできない。
    自分一人の為と思って仕舞えば米一つ研ぐのも面倒になってしまう自分の怠惰を自嘲し、丸く年月を経て深いカラメル色になった胡桃材の卓袱台を近所の大工さんと電気屋さんに改造してもらった炬燵に、小鉢、皿、茶碗、お椀を並べていく。
    一人きりだから贅沢にも一番ふかふかのお客さん用座布団を置いて、いつも狭い位なのに 1人で占有するそこはやけにだだっ広くて、沢山の不在が巨大な津波のように押し寄せてくる。
    自分はこれを思い知らなくてはいけなかった。
    カルデアでどんなに大勢に囲まれたとしても、なくしたものを口に入れ、噛み砕き飲み下し、消化せねばならなかった。そうして取り戻さねばと己の我欲にしがみつくのだ。
    前に進む為にこれまで馬鹿かと言う程繰り返してきた自分だけの儀式。
    誰に共有する事も出来ない己の現状を振り返るだけの作業。
    手を合わせて頂きます、と食前の挨拶をしようとする。
    しかしそれを阻むようにしてピンポン、と間抜けな音のインターホンが鳴らされた。
    「・・・っ」
    間の抜けた息が漏れ、数秒反応が遅れた。設定を切ってあるから意思のないプログラムが来たので無い事だけは解る。
    契約英霊かスタッフか、通信を切っているから呼びに来たのだろうか。
    ピンポンと間を置いて再びインターホンが鳴らされると慌てて玄関に向かった。
    「はーい?どなた・・・」
    陽の光を取り込む引き戸の玄関にそこだけぽっかりと穴が空いたかのように夜がいた。
    正確には、真っ黒なロングジャケットにウェストコートの現代風な格好の夜の風を司る神様だ。
    「よぉ」
    目を瞬かせ、ついじっと凝視してしまう。
    その声は夜の風だ。低く柔く、僅かに掠れたどこか暖かい。淡い金の豪奢な髪を広い肩に流し、サングラス越しにも分かる絶世の美丈夫。それが日本の年季の入った一般家屋の玄関に佇んでいる。一気に安全神話が幅を効かせる日本の更にご近所付き合いが未だ盛んでど平和な下町の治安が下落した気がしたが気のせいだろう。
    「違和感えげつな・・・っ」
    つい笑ってしまった。
    「あ“?」
    どうやら素直な発言がお気に召さなかったようだ。否、ちょっと傷付けてしまったかも知れない。盛大に眉間に皺が寄った。
    幾ら年代がかって古めかしく、良く言えば大正浪漫香る佇まいであろうと、あちこちガタが来た箇所を修繕している。老人も住むからある程度テイストを合わせてもバリアフリー仕様にして、和洋どころか古今まで入り乱れ中途半端な生活感溢れる家だ。その上立地はどローカル下町である。そこに神々しくもアウトロー感溢れる超絶美形なんぞ出現すれば違和感などマーラインが吐き出す水の如し。つい吐いた台詞も許されたくなろうというものだ。
    「いえいえいらっしゃいませ。取り敢えず急ぎの御用でなければ中にどうぞ?」
    「おう」
    スリッパを出したものの、健康スリッパの如く長さが足りなくなるのがまた異物感を増していた。そういえば祖父の古い友人であるスパニッシュ系米国人が来たときもこんな感じだったかと思い出す。基本的に日本人のサイズに合わせている為か比較的コーカソイド(?)の中でも180㎝ある彼の足のサイズには若干足りないのだ。
    「これがお前さんの暮らしてた家か・・・」
    「鴨居・・・柱と柱の間に渡してある枠ね。そこに頭ぶつけないように気をつけてね?ひと昔前の日本人サイズのお家だから小ぶりなの」
    「成る程な」
    辺りを見回し物珍しげに観察する全能神になんだか違和感が面白くなって来てしまう。
    アメコミか映画のヒーローが現実にひょっこり出て来たようなおかしみだ。
    「ご飯作ったんだけど」
    どう?食べるかなと小首を傾げると肯首が返る。
    「こんなとこまで来てやることがそれかよ。」
    「こんなとこまで来たからよ」
    「へぇ、そうかい」
    それじゃ、と居間に通して自分は台所へ向かう。
    どうしてかほっとしてしまったのは何故だっただろう。それは理解している。理解していた。
    もう一人分の食事をよそって居間に戻ると、座布団に座り長い脚を投げ出した全能神がいた。大きい客様なのにちょうど良いサイズに見える。
    何故この神様、人が弱ってる時に限ってタイミングを逃さず乗り込んで来るんだろう。
    1人になりたい時に1人にしてくれないなんて、狙っていたとしたら随分底意地が悪い。
    それとも運の悪いひとだから、偶々?
    嫌な顔をせずに済んだ自分を褒めてやりながらつらつらと考える。
    またじわりと胸の奥に湧いてくるものを溜息まじりに飲み下した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    yue_pin_

    SPUR MEとりあえず設定つらつら
    not titleさて、朝目が覚めたら一般的な女性は何をするだろう。洗顔とスキンケアを上げる方も多かろうし、先ずは着替えをすると仰る方も多かろう。
    彼女は先ず空っぽの胃袋に前日タンブラーに入れておいたまだ熱い珈琲か紅茶をストレートで流し込む。カフェインの香りと温度で強制的に覚醒状態を促すのだ。
    空腹で活動に支障をきたすと判断すればそこにプロテインドリンクとビスケットを口に詰め込む。
    そこから洗顔スキンケア、ヘアケア着替えとボディの日焼け止めを塗り最後にメイクに取り掛かり慣れたせいか手順が多い割に手早く終えて部屋を後にする。この間約30分。一緒に眠る事の多い女子や子供系サーヴァント達を起こさぬ様細心の注意を払って。遅いか早いかは読者諸氏に判断をお任せするが、スタートの時点で大体日本の平均的な日の出前後の時刻なのでカルデアにおいてはかなり早い部類に入る。そこからまたアヴィケブロンのゴーレムや有志の者達と共に30分程度のストームボーダー内の清掃(場所は日替わり)。そしてシフトに入っている日はそこからダッシュで自室に戻り清掃によって汚れがついていないか身形のチェック。必要なら再び着替え今度は厨房へ向かい仕込みの手伝い。
    1603

    related works

    recommended works