生かす神さま「おはよう、テスカトリポカ」
掛けられた声の方向に視線を動かす。
食堂の喧騒の中、彼女は何処までも凪いでいた。
彼女の立つそこだけが酷く静かだった。
先日までの感情の波は無く、何時も通りと誰もが称するだろう。けれど彼に対する普段の気安さや甘えはおろか、漸く身に付けた女としての警戒心すらもそこにはなかった。
積み上げてきた時間が無かったことになったわけでもない。彼女の時間は連続している。
滅亡なんて一大行事でも何でもない。ただあるべき日常の掃除とか片付け、そんなものだろう。彼女を覆っていた少女らしい恥じらいや怯え、まだ形にもなっていなかったであろう仄かに芯に燻っていた熱。そんなものが綺麗さっぱり濯がれていた。
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