──目を覚まし、最初に目が入ったのはミエルの心配そうにした顔。そして…医務室の天井。
「ん……みえる、おはよお…」
「おはよう…なんだけど!じゃなくて!!」
急にスポナーが動き出してぐったりしたキッカが出てきただの、慌てて店長さんとここまで連れてきただのと説明されているうちに、意識を失う前のことを鮮明に思い出した。夢じゃ……ないんだ。
「声が聞こえると思ったら…目が覚めたんですね!……1発だけではありましたが、黒インクを直撃していたので、今体調などいかがでしょうか?」
仕切られたカーテンを少し開き、ソーダが顔を覗かせた。
「黒インク……痛っ」
起き上がろうとして、腹部に鈍い痛みが走る。
すこし失礼しますね、とソーダがシャツを少しめくりあげ、確認しているようだった。
「痣は…ほとんど残ってないようですね。あとは今日一日ここで安静に。では、また時間になったら来ますね」
ソーダさんが部屋から遠ざかっていくのを感じ、再びミエルと視線が合う。
「色々聞きたいけど…今日はキッカの代わりにお店手伝ってくるね。」
少し名残惜しそうに、ミエルも去っていった。
『じゃあ……ボクのことも一緒に嫌いになってくれ。』
直前に言われた言葉を振り返る。
ジルは…ずっとキッカのこと嫌いだったのかな?
店長たちといつも楽しそうにしてるジル。
キッカに不器用な笑顔を浮かべて撫でてくれたり、代わりにブキ買ってくれたジル。
全部ぜんぶ……嘘だったのかな。
ああでも、この誰にも相談出来ない苦しみを、あのヒトはずうっと抱えていたんだ。
込み上げてきたもので身体を震わせる度に、腹部の鈍い痛みがじわじわと広がった。