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    daibread139411

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    daibread139411

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    滅却師パロ、昨日の続き 潔さん誘拐まで

    滅却師パロkiiski「これ、神聖弓(ハイリッヒ・ボーゲン)と神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)って、言うんだ………」
    「お前が咄嗟に使用していた血液に霊子を流す技術は静血装(ブルート・ヴェーネ)と言う」
    「へえ………」


    三日後、サッカー部でご飯!と元気よく嘘をついて飛び出した潔は放課後、またあの時と同じ廃公園にいた。まだ日も落ち切っていない夕暮れ時、楽しみ過ぎて前回より数時間早く着いてしまったため、廃公園で緩く時間を潰す。街外れの森の中、壊れそうなブランコに腰掛けゆらゆらと揺れていれば、ふと暗闇が滲み出す。日が山脈に沈んでいくにつれて、人気のない荒廃した橙色の公園が濡羽色に吞み込まれていく。不思議な、光景であった。気づけば
    随分と時間が過ぎていたらしい。未だ、廃公園には潔以外の生きたものの気配は感じられない。————夢、だったのかな。広がる暗闇に冷静になった心から、そっと疑心が首を出す。滅却師のこととか、将来のこととか、そういうのうだうだと考えてた自分が見た都合のいい幻覚だったのかも。今まで滅却師と会うことも、会いたいと言うことすらできなかった。そのせいで随分と臆病になった心が、傷つく前に帰ろうと促す。それに、滅却師とはいえ見知らぬ大人だ。こんな人気のない所で親に嘘をついてまで会おうとしたことに、小さく疼いていた罪悪感が滲み出す。でも、一応。帰る前にとノートから一頁切り離し、スマホの明かりを頼りにメッセージを書いていく。


    ————拝啓、ノエル・ノア様。うーん、置いていく手紙に名前を書くのはよくないか。新たに頁を切り離し書き直す。拝啓、滅却師様。昨日は助けていただきありがとうございました。一歩間違えれば死んでいたかもしれません。本当に、って何回もくどい、かも。でも、感謝はいくらしてもいいって母さんも言ってたし。言い方変えればいいかな。


    「本当にありがとうございます、か?感謝の言葉しか今のところないようだが」
    「あはは、母からも感謝の言葉は大事って、教え、られて、て」
    「そうか。にしても随分と早い待ち合わせだな」


    いつの間にか目の前にいた男は先日と変わらぬ装いのまま、こちらの手元を覗き込んでいる。いくらひとつのことに集中してしまう自分とて、この距離にいながら人の気配に気づかぬことなどない。驚きに目を見開いた潔を気にすることなく、ノアは話を続ける。


    「スマートフォンか」
    「あ、え、ノア、さん」
    「ノアで構わない」
    「ノア………」


    夢でも、嘘でもなかったらしい。先日より欠けた月を背景に、同じ金色を光らせこちらを見つめる男にこれが現実であることを理解する。理解しながらも驚きで固まる潔に、男は説明を続ける。


    「生憎約束の類いは守る質でな。先日助けられた借りもある。聞きたいことがあるなら聞けばいい、その代わり」
    「…その代わり?」
    「潔世一、お前の話も聞かせろ。気になることがある。それならば丁度いいだろう」


    不愛想そうな男から吐き出されるこちらを気遣ったかのような言葉に、潔は瞳を瞬かせる。意外と面倒見、いいのかな。先程まで名と滅却師であることしか知らなかった男に、もう親近感を覚えていることに潔は気づかない。段々とその輝かせる灰簾石に、琥珀を光らせた男は小さく息を吐く。どんなことを知りたがるのか、存在も知らず行動も予測できない奇妙な滅却師の子供にノアは目を合わせる。


    「じゃあ!あの!ノア!」
    「ああ」
    「さっき使ってた影を使った移動法について教えてください!」


    ———瞳を輝かせ、何を言うかと思えば新たな技の取得方法について教えを乞うてくるではないか。目の前にいる見知らぬ大人(ノア)のことでも、詳しくないと言っていた滅却師のことでもなくより強くなるための方法を尋ねる。先程まで明らかに帰ろうとしていたにも関わらず、強さには貪欲な子供に、ノアはめったに使わぬ口角が上がっていくのを感じる。


    「ああ、構わん」
    「マジっすか!やった!」
    「生憎無駄な時間は嫌いでな。教えるからには一度で覚えろ」
    「っす!」


    普段、我の強く一筋縄ではいかぬ連中を従えるなか、この素直さに惹かれていないと言えば嘘にはなる。多少甘い自覚もある。だがまあ、その素直ながらも灰簾石の奥にあるのはこちらを喰わんと言わんばかりの強い闘志に惹かれるのは、致し方ない。どのみちここまで生き残っている滅却師であれば、出会うことは必然であった。戦力になるようであれば、尚更。

    技を教えるため広い空き地に向かうよう、着いてこい、そう顎を引けば素直にトコトコと後をついてくる子供に小さく笑みを零す。面白い、まずは自分の見立てが間違っていないか実力でも見てやろう。全知全能、全てを予測出来る筈の男が知らぬ特異点たる子供、彼を作戦に組み込むよう頭を回すノアとふたりの影が小さく伸びていた。


    ——————————————————


    「~!難しい!バランスバランス…」
    「攻撃に特化させ過ぎれば不意を衝かれて一発だ。もっと霊子の配分を意識させろ」
    「はい!」


    素性も分からぬ滅却師の男と、混血の滅却師の子供の交流は奇妙なことに一度きりではなく何度も続いていた。先日、レクチャー一日目にして影の使い方をマスターした潔は、またしても別れ際、次に会える日を一方的に伝えられた。通常であれば呆れか怒りの感情が湧くであろう、こちらの予定を一切鑑みずに告げてくるその態度。しかしまるでその態度こそが当たり前であるかのように似合う彼に、潔が覚えたのは憧憬であった。
    ——かっけえ。白いどこかの制服にボロボロの黒い外套、それをさらりと着こなし尊大な振る舞いをモノにする、年上のかっこいい滅却師の男。技を教授してもらうときに見せてもらえる彼の実力はため息が出るほど美しく、強い。17歳の少年が憧れてしまうのも無理はない話であった。

    そんな、憧れる男からの誘いを断るわけもなく。潔は律儀に廃公園へと通っていた。


    「お前は弓矢のままより剣などの形を変える方が向いているかもしれないな」
    「剣?」


    戦闘時、血装のバランスが動血装(ブルート・アルテリエ)にかなり傾いてしまう潔は、調整という名の訓練を行っていた。それを似つかわしくないブランコに座りながら見ていたノアがぽつりと呟く。


    「滅却師の武器って、弓矢しかないんじゃ…」
    「厳格に言えばそれは正しい。ただし形状が弓矢である必要はない」
    「と、いうと……」
    「俺の知っている限りではメリケンサックから矢を放つ者もいる」
    「メリケンサック!?」


    衝撃の事実に目を見開く。メリケンサックって、どうやって矢を。考えてもみなかった滅却師の大前提を覆すその提案に言葉を失う潔を見て、ノアは淡々と自身の見解を語る。


    「お前はどうも攻撃型に傾きやすい傾向がある」
    「あ、はは……」
    「それに何より戦闘を、相手を葬るその瞬間を楽しんでいる節がある、違うか?」
    「は……」


    投げかけられたその問いに、元々見開いていた目を更に大きく零れそうになるまで開き固まる。そんな、筈は。母の教えに従い、誰かを害するためその力を使ったことはない。虚とて元は人間だ。だから。

    顔を青ざめ固まった潔に、ノアは小さく息を吐いて椅子代わりにしていたブランコを立つ。そのまま自らが座っていたそれに、潔の体を押し込んだ。咄嗟のことに瞬きを繰り返す潔の顔色が少し改善したのを見て、話を続ける。


    「潔世一」
    「……はい」
    「前回話したように、虚は滅却師の毒であり倒すべき敵だ。元が人間だとしても、今虚となった彼奴らはその人間を喰い殺す化け物でしかない」
    「……はい」
    「お前の母の教えが間違っているとは言わん。ただ、どうにもお前の心とそれは離反しているように思える。その離反はいつか身を亡ぼすぞ」
    「………」


    ————唇を噛み締め、俯く潔にノアはため息をつく。強さへの貪欲さ、素質、覚えの早さ、そのどれもが己のお眼鏡に適っているにも関わらず、この母の教えが非常に厄介なものであった。通常あれば戦闘狂、聖人、どちらかに傾きそうなものの潔は上手くそれが共存してしまっている。根っこの部分はノアによくため息をつかせる青薔薇のように、意味がなくとも戦闘行為自体を楽しむことが出来る戦闘狂の類いであろう。先の戦闘や訓練で輝かせるその瞳からも察せられる。しかし滅却師としての、強者としての務めを為そうと己が意識している部分も随分とその体に言い聞かせられているようだ。今にも暴れ出しそうな狂犬を、強い倫理観の鎖が抑えている。それがノエル・ノアからみた潔世一という人間であった。

    ——だが現在、それが自身の望む戦闘狂へ傾いているのも事実。戦力として加えるならそちらの方が好都合。あと一歩、予測通りならそろそろ。天秤を傾かせるため、潔世一との逢瀬で恒例となっている時間制限までの雑談を始める。


    「その状態では話も訓練も身に入らんだろう」
    「…はい」
    「責めてなどいない。折角だ。滅却師について、お前の昨日の疑問に答えよう」
    「…どうして、現世に滅却師がいないかって話ですか」


    頷き、こちらを見上げる灰簾石を見つめ返す。前回は時間が足りず、話しそびれてしまった話題。滅却師を継がずに済むよう、彼の優しさを信じた故に伝えられなかったであろうその忌々しい過去を語ろうとした、そのときであった。


    「現世において、滅却師が存在しないその理由は———
    「——————何だってこンなところに滅却師共がいやがる?」


    突如現れた声の主に、潔は咄嗟に顔を向ける。そこには大きな刀を肩に担いだ、黒い着物をきた男が気だるげにこちらを見ていた。誰だ。先日のノアと同じように、声を掛けられるまで気配など感じ取れなかった。驚き固まる潔とは打って変わり、ノアはまるでその出現を知っていたかのように落ち着いている。


    「死神か」
    「おうおうよくお分かりなこって!そうさ、何やら不穏な霊子を感じ取ったらしく休日出動させられた死神さんよ!」


    此奴が、死神。初めて見たその存在に大きく目を見開く。滅却師と死神、同じく虚を狩るものとして母から名を聞いたことはあった。でも姿を見るのは初めてだ。口まで開けてぽかんと死神を見上げる潔に、何故か、その死神の男は厭に口角を上げて話し出す。


    「でもまあ、へこへこと逃げて生き残った滅却師がこんな寂れたところで密会とはねぇ……」
    「は?」
    「やあ怖い!そんな顔で睨まないでくれよ坊主」


    目の前の男によって放たれた言葉に首を傾げる。逃げた、生き残り。どれも聞いたことのない話。どうやら目の前の男は自分の知らぬ滅却師のことを知っているらしい。こちらを蔑む様な男に、不本意ながら潔は問いかける。


    「逃げたって、生き残りって何のことだよ」
    「んん~?何だ坊主!そんなことも知らねぇで滅却師やってんのか」
    「うるせえな、さっさと教えろよ」
    「餓鬼が一丁前に。まあ許してやるよ。いいか?滅却師は1000年前、俺たち死神によって滅ぼされてんだよ」
    「は………」


    告げられた言の葉は理解した筈なのに、脳が理解を拒んでいる。滅ぼされた、此奴らによって。言葉を完全に失った潔に気を良くしたのか、死神は更に楽しそうに語りだす。


    「まあ俺はそのとき生きてたわけじゃねえから知らねえけどさ。当時の死神、隊長たちはそれはまあ恐ろしいもんだったらしいぜ。隊長共だけで滅却師の屍が山のようになってたって話さ」
    「……んで」
    「あ?」
    「何で、滅却師は殺されたんだよ」


    様子の可笑しい潔に気づくことなく、問いを理解した死神は更に口角を上げてにまりと笑う。目の前にいる何も知らない幼い滅却師を嘲笑う、酷く厭な笑みであった。


    「そんなの滅却師が邪魔だったからに決まってンだろ」
    「は……」
    「回らん殺し方しやがって、魂魄ごと滅されちまうと困るんだよ。どうせこっち(死神)がやるからって言ったって力を使うのを止めなかったんだ。そりゃ殺されて当然さ!」


    何が、当然だ。巡回だとか何を言っているのか分からないこともあるが、要は自分たちの仕事に邪魔だったという話であろう。滅却師は虚への耐性がない、ノエル・ノアによって教わった滅却師の弱点だ。だからこそ、滅却師は虚を倒す手段を手に入れた。立派な自己防衛である。それをまるで子供の癇癪のように捉え、あまつさえ殺されるべきだったなどとほざく死神に、なんとか言い返してやろうとしたそのとき。————青く美しい矢が、目の前の男を貫いた。余裕綽々、愉しそうな笑みを浮かべていた男は、一瞬にしてその顔を苦痛で歪める。


    「っは、おま、こんなことして」
    「こんなことをして、何だ?聞くに堪えない戯言を吐く屑物を黙らしただけだろうに」
    「ふざけん、な!というか、お前、初めて見る滅却師だな、って!」


    ノエル・ノアの持つ、長い足が傷口を押さえていた死神を蹴り飛ばす。そのまま今度は脳天に弓矢を当て、淡々と天気でも話すかのようにノアは話を続ける。


    「滅却師の顔とそれらについて知っているならまあ、それなりに上の階級かと思ったんだが。どうやら死神連中はここ1000年で随分と弱くなったらしい」
    「っは………」
    「冥土の土産に教えてやる。近々滅却師がそちらに邪魔をする予定だ。要件としては滅却師が世界を取り戻す。そうとでも言っておこうか」
    「な、にをいって」


    困惑と痛みに顔を歪めた死神の眉間を、青い矢が打ち抜いた。そうして支えを失ったかのように、男であったものは倒れる。人が死ぬところなど初めて見たのだろう、可哀想なほど顔を青ざめた潔と目を合わす。


    「今、あの男が話したそれは事実だ」
    「………」
    「それ故、滅却師は現世から姿を消しほぼ絶滅されたとされている」
    「………」
    「だが、実際には生き延びている。お前たちのように現世にいるものだけではなく、もっと多くの滅却師が」
    「へ……」


    衝撃の言葉の数々に、思考を止めていた潔は見逃せぬ言葉に思わず口を開く。だって、現世にはいないはずの滅却師が沢山生き延びている、なんて。


    「でも、俺、母からも生家以外の滅却師なんてほぼ見たことないって、聞いてて」
    「現世にいる滅却師はほんのわずかにすぎん。その他の滅却師は影にて生き残っている、見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)でな」
    「は…」


    目を回す、正にその言葉通りの潔に気遣うことなく、ノアは立ち上がり暗闇へと足を延ばす。よく見れば、奥には何時も時間を告げに来る男がそこには立っていた。随分と時間が経っていたらしい。あと一歩、初めて出会ったときのように暗闇に呑み込まれるその直前で止まったノアは、こちらを見ずに告げた。


    「先程も告げたように、近々死神連中と一戦交える予定がある。その際に潔世一、お前を戦力として迎えたい、そう俺は考えている」
    「おれ、を………」
    「明日の同じ時刻、ここで待っている」


    またもや初めて逢ったときのように、言うだけ言って影へと消えていったノアに腰を抜かす。胸元で揺れる電話は、今は取れそうにない。どうすればいい。何が正解で、為すべきことは、選択すべきことは何なのか。告げられた衝撃の事実と、刻一刻と迫る選択の時に潔は唯々息を吐くことしか出来なかった。


    ——————————————————


    随分と細くなってしまった月を背に、頭の双葉が特徴的な少年が廃公園のブランコに腰掛けていた。こんな場所にこんな時間に、そう言われても可笑しくない状況ではあるが生憎ここは森の中。人の気配など少年のものだけである。ブランコを漕ぎながら、やけに神妙な顔をした少年は、何かに気づいたのか飛び降り暗闇を見つめる。

    何もかもを飲み込む様な暗闇の中、一人の異国の男が現れた。真っ直ぐに少年の元へ向かい、後少し、その位置で止まった男は辺りに響く虫の音のように静かな声で問いかけた。


    「覚悟は、決まったのか」


    それに対し高校生ほどであろうか、顔を俯かせた少年も静かに語りだす。


    「覚悟とか、目的とか、そういうのは分からないんですけど。でも、


    少年が顔を上げる。敵対心とか憎悪とか、期待とか不安とか、全部がごちゃまぜになりながらも其の全てを吞み込んだ、幼い顔つきに似合わぬやけに鋭い灰簾石が爛々と輝く。


    —————行きます。自分で見て、知って、母の教えてくれた滅却師を否定させないために」


    それに応えるよう異国の男は黒い外套を広げ、掌を差し出す。握り返そうとした、その瞬間、少年はあっと気づいたかのように言葉を重ねた。


    「それと強くなりたいんです!また特訓してもらえますか?」
    「……ふ、ああ、構わない。お前に渡したいものもある」


    一気に輝きだした瞳に、異国の者は堪らないと言わんばかりに思わず笑みを零す。それに恥ずかしそうに頬を掻いた少年は、今度こそ、その手を掴んだ。その瞬間、暗闇に溶けるよう一瞬にしてふたりの姿が消える。あとに残るのは、少しの温度を残し、小さく揺れるブランコだけであった。
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