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    daibread139411

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    daibread139411

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    死神鰤パロ 続き

    死神鰤パロ 続き「区画が消えた?」
    「そうらしい。北79区と80区で計2つ」
    「原因は?」
    「それが分かってねぇから俺たちに調査と解決の依頼が来たんだろうが。クソ弱っちい頭で少しは考えろ」


    こめかみが引き攣ったのを感じる。良い度胸じゃねえか。鯉口をかちりと鳴らし先を進んでいたムカつく男の足を止めさせる。くるりと振り返った男の酷く楽しそうな表情に口元を歪ませ鞘から引き抜こうとしたそのとき。


    ———まあ期待はしてねえが、努力はしろよ


    恩師の言葉が小さく頭を過る。そもそも今回の任務は不本意ながらカイザーに煽られて隊舎を壊した罰みたいなもの。それにふたりで出掛けてくると伝えたときの隊員の顔ときたら!—————給与の減額を覚悟したような悲惨な面持ちの者、縋るように此方を見つめてくる者。思わず乾いた笑いが出る程の地獄のような自身の隊の有様。確かに青薔薇野郎は殺したいほど気に食わないが隊員たちを困らせたいわけじゃない。柄から手を離し一呼吸。


    「怒らない気にしない落ち着け。怒らない気にしない落ち着け」
    「何言ってんだお前…」

    怪訝そうに此方を見つめる男を無視し先に進む。未だ化け物を見るような目で見やり隣を歩くカイザーを気にすることなく、小さくぼやいた。


    「でもよりによって草鹿と更木かあ。なら話を聞くのは難しいかも」
    「何故だ?いくら治安が悪い流魂街の連中とは言え死神だぞ」
    「あ~…お前貴族だったっけ?じゃあ知らねえのか」
    「何が?」
    「殺人強盗なんでも御座れ。地獄と大して変わりないんだよ、数字の大きい流魂街って」


    いまいち理解出来ていないのか、器用に眉を片方吊り上げ続きを促すカイザーに思わず笑いが零れる。どうしてこう太々しい態度が似合うんだろう。道化ではなく同じ舞台に立つものとして不本意ながら認められ、隊長同士になっても変わらないその態度は最早尊敬すら覚える。


    「俺も実際に行ったことはないけどさ。親からは絶対に行くなって言い聞かされてた」
    「…そういえば流魂街出身だったな、お前は」
    「そう、と言っても1区だから治安はよかったよ」
    「へえ」


    —————意外。流魂街出身のこと、知ってたんだ。

    生憎絵心のスカウトによる真央霊術院入学の死神の卵へ面と向かって差別をしてくるようなヤツはいなかった。でも浅打が中々斬魄刀へと変わらず焦る俺を見つめる目が、酷く厭なものであった記憶はある。
    そんなものに惑わされるほど弱くないし、己の斬魄刀が形になってからソイツに膝を着かせた気もする。でもその、流魂街出身を蔑む様な、憐れむ様な視線はうざったくて仕方なかった。気に食わない。流魂街では珍しく腹が減る俺の為に食事を用意してくれた、死神になるため真央霊術院へと通うと言ったときも快く送り出してくれた大切な両親。それを馬鹿にされたような気がして。


    「お前はどうなの?」
    「は?何がだ」
    「いや、責務とか期待とか、貴族ならではの大変なこととかあったのかなって」
    「クソ下らん。持ちうるものを全てを使って俺は一番になると決めていた。その際に生じた責務だ何だは必要経費ってヤツでしかない」


    そういえば此奴はそういう見下し方じゃなかったよな、なんて考える。確かに恐ろしく舐めて小物だと、獲物だと決めつけた腹立たしい態度ではあったが。でもそれは此奴にとって関わって得があると判断した人間への接し方であったと今なら思う。カイザーはそもそもパーソナルスペースとやらが広い人間である、気がするし。だからそう、顔を見合わせれば喧嘩になる気に食わない男が宿敵(ライバル)として隣にいることを何だかんだ許してしまっている自分がいることも不本意ながら自覚していた。


    「…お前のそういうところは隊長っぽくていいんじゃねえの?」
    「素直に褒められないお子ちゃま世一に言われてもねえ」
    「うるせえな。言っとくけどカイザーじゃなくて俺が、一番になるんだよ」
    「あいあい。1番隊副隊長の座は開けておいてやるよ」
    「其処はお前の席だっつってんの!イチイチうぜえな」


    不気味なほど穏やかに会話していると思えばすぐさま煽ってくるカイザーに、なんだか少しほっとしながら煽り返す。過去とか身分とか、そんなもので同情心なんぞが湧く男でなくてよかった。此奴とはただ、対等に力で競いたい。いつも通りの口喧嘩をしながら脚に霊子を集め始める。話してはいないが隣の男もきっと同じことを考えている筈。最悪なことにきっと、此奴と俺は思考回路が似ているから。


    「————お前を待っていたら日が暮れちまう」
    「言ってろ。ミヒャエル・カイザーは今回の任務で後片付けをしてくれましたって報告書に書いてやるよ」
    「嘘は良くないぞ世一。折角の流魂街だ、実家に顔でも出して来たらどうだ?」


    グッと足裏に力を入れる。疲れるからそう使いたいものではないが何日も此奴と行動する方が最悪。


    「今日は俺が勝つ」
    「やれるもんならやってみろ」


    言葉が耳に届くかどうか、その時にはふたりの姿はなく。足元にあった枯葉と砂ぼこりが小さく舞い、辺りを揺らした。


    「…いるな、コレ」
    「ああ」


    人気の感じぬ荒れ果てた長屋を見て回る。渡された資料にもあったように、区画が消えたと言っても土地自体が消えたわけではない。魂魄の反応が一切消えたのだ。実際霊圧も感じなければ姿すらない。でも。


    「多そうというか」
    「———クソ喰ったみてぇだな」


    80地区など毎日のように血を見る、そう聞いたことがある。だから荒れ果てていることも人がいないこともまあ、そこまで不思議な事ではないのかもしれない。だが明らかに人ではないものによって壊されたであろう長屋と大きな足跡がそう、虚の介入を示していた。


    「魂魄だけじゃなくて共食い、か」
    「それに此処に来るまでクソ不本意なことに虚の仕業だと断定できなかった。隠れるのもお上手なこって」


    柄に手を掛けながら肩を竦める男を一瞥し、辺りを見回す。虚の気配は漂っているのに姿が見えない。だけどまあ、手古摺るほどじゃない。ひとまず別方向から追い込むように見回ろう、そうカイザーに提案しようとしたその瞬間。


    「た、すけて」
    「!」


    聞こえた声に思わず目を凝らす。優秀な眼が捉えらのは森の奥で此方に向けて手を伸ばす子供の姿。考える間もなく一瞬にして、ふたりは子供の元へと降り立った。

    襤褸を身に纏い、肌が見える範囲には無数の傷が見受けられる薄汚い子供。瞬く間に目の前へ現れた死神に零していた涙を思わず止めて瞳をぱちりとさせるその姿に、潔は息を詰める。後ろで何一つ表情を変えぬカイザーに怯えだした子供を慰めるよう、膝を着き目を合わせた。


    「あーっと、大丈夫?」
    「お、にいさん、たちは」
    「敵じゃないよ、ここで異変が起きてるって知って調べに来たんだ。何があったのか聞いてもいい?」


    最低地区にしては随分と気弱な少年だ。流れ着いたというよりかは稀にみる此処で生まれた者だろうか。再び涙をぽろぽろと零し何かを伝えようと口を動かす少年を辛抱強く待てば、隊長羽織の袖を掴みある方向を指さした。

    「…そっちにいるの?」

    こくり、と頷く子供の足が震えているのに気づく。そのままひょいと随分軽い体を持ち上げ、後ろで黙っていたカイザーを見る。


    「行くぞ」
    「言われなくとも。世一はその餓鬼を優先しろ」
    「それこそ言われなくても」


    一足先に指指した方へ飛んだカイザーを不安そうに見つめる子供。その頭をふわりと撫で笑った。


    「大丈夫。彼奴は負けない」
    「…そうなの?」
    「そう。まあ、気に食わないけど」
    「きらいなの?」


    子供らしいストレートな物言いに思わず笑みを零す。虚の元へと向かうため、頭を撫でていた手を腰へと回し子供を抱え直す。一般人且つ子供を抱えての瞬歩は避けたい。ぎゅっと羽織が握られたのを確認し、足を進め子供へ、いや自分へ向けて小さく言葉を零した。


    「俺に似てて、でも俺にないモノを持ってる。世界で一番嫌いな宿敵だよ」




    「———あ?」


    何だかんだ着く頃には決着がついている、そう思っていた矢先。激しい砂ぼこりが晴れた其処には風に靡く十三の文字が刻まれた背中と此方を見つけてにやりと笑う虚の姿。


    「何手古摺ってんのお前」
    「うるせえ話しかけんな」


    随分と荒れている。強く見積もって中級大虚か最上級大虚、だろうか。確かに平隊員では対処が難しいかもしれないが、破面相手に始解一本で腕試しをしていたカイザーならそう時間の掛かる相手ではない筈。


    「———子供連れで戦場かあ?いいなあ、いいなあ、美味そうだなあ」


    ビクリと腕の中の子供が震えたのを感じ、背中を優しく叩く。そのまま子供を下ろし、背に庇って鋭く睨みを返せば薄気味悪い仮面がニヤリと嗤う。


    「気持ち悪い。さっさと倒せよこんな奴」
    「やってんだよクソが」


    切れ長な目が更に鋭く虚を睨み付けている。途中に感じた霊圧から推測するに何度か決め手はあった筈だ。だが目の前の虚は傷ひとつなくニヤニヤと此方を嘲笑っている。


    「ちょこまかちょこまかとクソうぜぇ、大人しく出来ねえのかテメェは」
    「美味そうだなあ、いいなあ、いいなあ」


    涼しい顔の額に血管が浮き上がったのを見て小さくため息を吐く。多分、きっと周りの廃屋同然の長屋を壊さぬよう珍しく気を遣っていたのだろう。虚にしては小さな体格と話を聞かぬ様子、元からクソ短い青薔薇の堪忍袋の緒もそろそろ危うい。


    「いいぜ。お前の技イチイチ派手だし俺が交代してやる」
    「クソ黙れ。此奴は俺が生まれてきたことを後悔させてやるまで気が済まん」
    「死神らしからぬ発言すんの止めろ。ってかクソクソって大分キレてんな」


    破面でもない、意思疎通すら危うい虚相手にキレているカイザーに頬が引き攣る。これ、放っておいたらヤバくねえか。


    「なあ、手柄とかじゃな————」


    子供に向けて放たれた触手を切り捨てる。カイザーの方など目もくれず此方を凝視した虚は気味の悪いため息を漏らし、その顔を悲しそうに歪めた。


    「痛いなあ、痛いなあ。今のは痛かったなあ」
    「死神ガン無視とはいい度胸じゃねえか」
    「黒いのは強いなあ。邪魔だなあ、邪魔だなあ。殺そうかなあ」


    ぶちり。目の前の男の血管が、堪忍袋の緒が切れた音がした気がする。
    —————今のは、駄目だろ。
    自身の存在を無視しただけに留まらず、一応守っていた存在を直接狙い、且つ俺を強いと認識した。逆の立場を想像しただけで、吐き気すら感じる。あまりの所業に思わず口元も引き攣った。
    地雷を全て踏んだ虚に信じられないと見つめていれば、目の前の背中がゆらりと揺れた。


    「どう殺そうかなあ、どう殺そ———

    「—————滲み出す混濁の紋章」
    「は?」

    思わず耳を疑う。だって、今のは。

    「不遜なる狂気の器 湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形」
    「ウッソだろおい…」

    「結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ」
    —————九十番台の完全詠唱!

    「クソ潰れろ。——————破道の九十『黒棺』」

    爆発した霊圧に慄いた虚が見る見るうちに囲まれた。そのまま詠唱と同時に鳴った大きな音と共に、中の虚の霊圧が消え去る。信じられない光景に、子供を庇うような体制で固まる己を気にすることなく渦中の青薔薇は小さく息を吐いた。


    「終わったな」
    「……おっまえマジで信じらんねぇ」


    在り得ない。あの程度の虚に、完全詠唱の黒棺。此奴が鬼道の天才なのは知っていたがこんなところで実際に観るとは思ってもいなかった。とんでもない霊圧に高鳴る胸と共に、辺りの光景を目にして急激に冷えていく頭を抱え息を漏らした。


    「何だ?見学してただけの世一くんが疲れたような顔しちゃって」
    「周り見ろ馬鹿…」
    「あ?」


    目の前に広がるのは、元々壊れていたとはいえ最早木くずすら残っていない更地。唖然とする子供と気づいたのか目をふらりと空へ向けた青薔薇(馬鹿)に息を吐く。


    「貴族なんだから、せめて家ぐらい建て直してやれよ…」


    確実にまたお邪魔することになるであろうお決まりの恩師の反省室を思い浮かべ、潔はため息を零した。
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