【斬一】異聞篇if(習作)「ゃ……ぁっ………イ、ケなっ……たすけっ……ざんげ、っ、たすけ……ひぅっ…」
置いてきた影越しに、己を求める一護の声を聞いて斬月は僅かに口角を上げる。
嗚呼早く、愛し子の元に戻らなければ。
そのためにも、と黒衣の男は目の前を見据える。
ーーこの外敵たちにはお引き取り願わなければならない。
目の前には年若い死神がふたり、男に向けて刀を構えていた。
赤い髪の男と小柄な黒髪の娘。
阿散井恋次、朽木ルキア。
どちらも一護の裡からよく見る顔だった。
あの子の友人であり、そしてーー
ーー朽木ルキアが連行されることで、一護は尸魂界に向かう意志を固めた。
ーーそもそもその朽木ルキアと出会ったことで、一護は生者でありながら死神の存在を知ってしまった。
ーー今の斬月にとってはそのいずれもが、憎たらしい敵でしかない。
あの子を死神の道に引き摺り込んだ元凶なのだから。
「今日こそ聞かせてもらうぜ、一護の居場所を…」
「斬月お前、何が目的だ…!なぜ一護を捕える…あやつに何をさせようとしている…!」
斬月の思案をよそに、ぴいぴいと耳障りな声で二人は喚く。
斬月が一護を囲い込んだ訳を、斬魄刀たちが一護を何かに利用するためだと考えているらしい。
何を思い違いをしているのやら。
尸魂界の揉め事ごときに軽率にあの子を巻き込む、貴様らではあるまいに。
「はぁ…」
深く深く、呆れを込めたため息をついて斬月は、否、黒崎一護の滅却師の力を象った男は、歳若い死神たちに鋒を向けた。
「本当に…貴様らは何も変わらんな」
千年の昔から進歩のない野蛮な集団。
思い込みが激しく、人の話を聞かない、無慈悲で傲慢な連中。
斬月の零した独り言に訝しげな表情を浮かべた二人に構うことなく、手にした大刀を横に薙ぐ。
すんでのとこで回避されたことに小さく舌を打つと、踏み込んできた恋次の横を通り過ぎ、一旦距離を置いた朽木ルキアと切り結ぶ。
「あの子の優しさは美徳だが……それを私に求めるなど、愚かな行いはやめることだな、死神」
愛しき主人には、決して見せることのない凶悪な笑みを浮かべて、男は刃を振り上げた。
嗚呼、怨敵への憎悪を思う存分曝け出し、刃を振るうことのなんと心地よいことか!
嗚呼、お前たちの好んで止まない、我いとし子の艶姿を己だけが知っている優越感の、なんと満ち足りたことか!!