巣立ち「何見てるの兄さん」
「アルバムだよ。持っていけないから見ておこうと思って。」
手招きされて兄の横に座り、膝に広げられたアルバムを覗き込む。
規則正しく並べられた写真には無邪気な自分達が映し出されていた。
「懐かしいなあ…この時僕が思いっきり転んで、なぜか律まで一緒に大泣きしたんだよね」
写真を見ながら懐かしそうに思い出を語る兄をちらと盗み見る。写真の面影そのままに大人になり、なんだか少し寂しいようなよく分からない感情を抱いた。
「律?」
不思議そうな視線を浴びていることに気づき、ハッとする。
「ごめん兄さん、なんでもないよ。」
「そっか。そろそろ師匠が迎えにくるから…」
立ちあがろうとした兄の腕を思わず掴む。
目の前にいる兄は今からこの家を出ていく。これからは新しい家庭を築いて、僕とは別の道を歩んでいくのだろう。だんだん兄の輪郭がぼやけて白んで、眩暈がする。ぐらぐらした視界の中で目に入った写真の中の子供たちの笑う声が脳に響き渡って、今の僕の醜さだけが浮き彫りになる感覚に背中がヒヤリとする。
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