「まさか、最後にお前と戦うなんてな」
「……なんですか? 急に」
レッスン室の片隅、趣味で習っている木刀を振っていたら、後ろから急に声を掛けられた。宣戦布告、ということでいいだろうか。
「付き合えよ、練習」
「モクレンさんにでも頼んでください」
「負けるからいやだ」
……なるほど。つまり、同じ長物でも弱そうな私とやりたいと。随分舐めた返事をしてくれたものだ。
最近練習し始めたミズキさんが、五年は振っている私の愛刀に勝てると?
「いいでしょう。受けて立つ」
舞台上と同じように向かい合って、刀は下段。どこからでもかかってくればいい。
「女だからってなめてかかると、痛い目見ることになりますよ? 子犬ちゃん」
「あ?」
イラっとしたのか大振りなその動きに、隙を見て懐に潜り込む。殴ったら痛いので至近距離で胴切り。触れた感覚だけは伝わったはずだ。
倒れる演技が入れば、もう少しそれらしかっただろうに。
「はーい小鳥ちゃんの勝ち。自分から挑んどいて負けるとか、ダッサ」
さっと持ち上げられた私の左手の先には、珊瑚色の綺麗な髪が揺れた。あ、リコさん……
「見てたんですか」
「怪我されたらオレが怒られるし? 心配なかったみたいだケド」
回収されていったミズキさんの背を見送って、かっこよかったよと褒めてくれたリコさんに軽くお辞儀。戦闘狂のようであまり見せたくはなかったけれど、こうして褒めてもらえるのは悪くない。
「生き残って見せますよ、最後まで」
「ジョーダン。可愛い小鳥ちゃんが筋肉ゴリラどもに勝てっこないデショ」
『ミズキがバカでよかったね』なんて、自分の状況が分かっていないんだろうか。
まぁ、いい。可愛い小鳥ちゃんでいたいし、別に勝ち残ろうとも思っていないのだから。
そう思わせておけばいいだけの、話だ。