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    御旅屋 司企

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    御旅屋 司企

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    付き合ってない世界線の大菅もどき短編 七夕編🎋

    欲張りな願い事「うわ、外もあっついな……」

    むさ苦しい部室から1歩足を踏み出した途端、全身を包み込むような熱気。思わずそう言葉を零すと、肺の中まで熱された空気が入り込んでくる。その心地悪さから額にシワを寄せてみても、ただその上を汗が流れ落ちるだけ。
    まだ7月に入ったばかりだというのに、何故既に夏真っ盛りのような気温なのかまるで理解ができない。地球が俺に優しくない。

    「暑いのはわかったから、ほらさっさと出ろ。部室閉めれないだろ」

    これからこの熱気の中を歩かなくてはならないと思うと、いっそ部室の中の方がマシなのではないか。そんな怠惰な思考から2歩目が出ない俺の背を、グイグイと遠慮なく押してくる硬い感触。この硬さ……さては肘で押してやがるな。

    「はーい、きゃぷてーん」

    身体を180度回転させながら、渋々2步、続けて3步と足を動かす。転落防止の柵に背が触れたところで、目の前の大きな背を視界に捉えた。
    俺とそんなに身長は変わらないはずなのに、大きな大きな背中。そこには、一体どれだけのものがのしかかっているのだろう。
    部室の扉を閉め、鍵をかけ、最後にドアノブを軽く回して戸締りの確認。この動作を眺め始めて3年目。何度も見た光景だ。

    「はー、確かに暑いな……」

    「な。風もあるっちゃあるけど、この熱風じゃなー」

    時刻はもう夕飯時。にもかかわらず暑さの引かない原因は、いつの間にか随分と日の出ている時間が長くなったからだろう。ついこの前までは、まだ夕方なのに真っ暗だった気がするのだが。なんだか、歳を重ねる度に時の流れを早く感じる。

    (……って、俺は老人かよ。まだそんな歳じゃないっての)

    階段を降りる2つの音を奏でながら、先を行く大地の後を追う。こんな頼もしい背中を見せつけられたら、思わず飛びつきたくなってしまうけれど、ここは我慢我慢。こんな誰が見ているかもわからない場所でイチャつけるほど、俺の肝は強くない。
    クラスも同じで部活も同じ。一緒にいる時間は互いの家族よりも長い俺達。他のクラスメイト達からも、よく「男バレ夫婦だ」なんだと揶揄われる俺達。でも、それを嬉しいと感じているのは俺達ではなく、俺だけかもしれないから。

    「あぁそうだ。スガ、来週の朝練のことなんだけど」

    「来週ー……、あ、休み時間に先生に呼ばれてた件?」

    「そうそう。なるべく早めに終わらせて朝練行くつもりだけど、俺が行くまで他の奴ら見といてくれ」

    「旭は?」

    「あいつが1、2年まとめられると思うか?」

    「旭があいつらまとめあげてたら、その日は槍が降るな!」

    大地の右隣を歩きながら、未だ明るい空を見上げる。薄く雲のかかったそこに、星は見えない。明るく眩しい太陽に照らされて、確かにそこにあるのに、誰にも見えない小さな星。
    その姿は、まるでーー……

    「……い、おい、聞いてるか?スガ?」

    「あっ」

    上から横へと、勢いよく視線を動かす。急な動きに一瞬目眩がしそうになるけれど、何とか耐えながら声の先を見つめた。「ちゃんと人の話を聞け」だ何だと小言を吐かれるかと身構えたものの、見つめる先の大地はそういう表情じゃない。それに、何かを指差している。

    「ほら、あれ」

    「ん?んー……あ、もしかして」

    「もうそんな時期か」

    大地の骨ばった指が示す先には、時折流れる風に合わせて緩くその体をしならせる1本の笹。この熱気に負けじと瑞々しさを感じる濃淡ある緑の葉に、色鮮やかな飾りつけ。ここからでは見えないけれど、きっとあそこには色んな人の沢山の願いが込められているのだろう。

    「そっか、七夕かぁ。いいなー、俺も短冊書きてー」

    「短冊書くとしたら、スガは何書くんだ?」

    「ふふーん、そりゃアレよ。大地もだろ?」

    「俺は、そうだな……やっぱりアレだな」

    「「全国へ行く!!」」

    ピッタリ重なる声。お互い目を合わせて、ニヤリと口角を上げた。
    そう、大地ならきっとそうだと思った。伊達に何年も大地の隣を陣取っていない。いつもと変わらない、俺の知っている、俺の好きな大地が今日もそこにいて安心する。
    でも、安堵と同時に、チクリとした小さな痛みを感じた。クラスメイトよりも、部活の仲間よりも、友人よりも。もっとその先が欲しいと願っているのは、俺達ではなく……。

    「そういえば、七夕って願いの数に制限とかあるのか?」

    「え?」

    眩しい願いの集合体を見送りながら歩く大地が、僅かに首を傾げながらふと呟いた。願いの数?制限?急に何を言い出しているんだ。

    「いや、別にないんじゃない?好きなだけ書けば……なんだよ、もしかして他にもお願い事あるのか?大地ってば欲張りだな!そんなんじゃ彦星と織姫に笑われるぞー」

    「なんだよ。スガこそ、こういう行事は調子に乗って書きまくりそうじゃないか。身長欲しい~!とか?」

    「あ!!人が気にしてることを!!」

    こんにゃろと掴みかかろうとして、すんなり避けられる。大地だってそんなに変わらないくせに生意気な。……でも、部活中の「皆の主将」な大地じゃなくて、こうして「ただの友人」な大地が見られるのは、悪い気分じゃない。

    (欲張りな願い事、かぁ)

    年に1回、それも日の沈んだ短い夜にだけ行われる、再会を祝う行事。こんな日くらい、いつもより少しだけ欲張りになってもいいのだろうか。
    「全国へ行く」も、「大地と旭と同じコートに立つ」も、確かに俺の本心だ。そこに嘘なんてない。でも、もっと欲しがってもいいのだろうか。
    彦星と織姫のように、年に1回だけなんかじゃなくて。今この時だけじゃなくて。この先もずっと、こうして大地の隣に立ちたいと。
    たとえ、太陽の眩しさに焼かれて、誰にも見えない小さな星々の1つだとしても。大地の一等星でありたいと。
    そう、願っても、いいのだろうか。

    「暑いし日も長いし、あと腹も減ったし、坂ノ下寄るか」

    「腹減ったが1番の動機だべ?あー、でもこんな暑い日に食う激辛もいいよな!なんか売ってっかな」

    「こんな日に激辛は勘弁してくれ……」

    たとえこの願いが叶わなくても、せめて今だけは。今だけは、この欲張りな想いを許して欲しい。
    誰にも見えないように奥底に隠した願いを抱えて、今日も俺は、愛しい人の隣へ並んだ。
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