可愛いあなた 視界の中で、数センチ下にある薄茶色の瞳が揺れて、薄く開いた唇から息を吸う音がして、止まる。
まただ、と芹沢はうんざりする。トメも今日は来ておらず、エクボも不在にした相談所には芹沢と霊幻の二人だけしかいなかった。扉を背にしているので、誰かが来ればすぐにわかる。霊幻の背中越しには下ろされたブラインドは閉じられておらず、隙間からは夕陽が差し込み、長い影を作っていた。あと少ししたら電気をつけないとな、と何割か残った冷静さで考える。
きっかけは些細なことだった。最近の外食や原材料の値上がりが著しいという世間話から、一緒に食事をしようと誘ったのだ。
なんで。あなたと行きたいからです。沈黙。言葉に窮した彼が適当な理由をつけて出て行こうとするのを立ち上がって止めたのだ。
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