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    芸術家は二度死ぬ
    文筆家百物語怪談

    とある文芸作家の怪談 えぇえぇ、皆様皆様、お集まりの皆々様。
     どうもどうも、蒸し暑い日が続きますねぇ。私は一介の作家をしておりますものです。
     私の書いた作品がぁ、こんな遠い遠い未来にまで残っていること、そして今私がここにいるという事実現実、それが私にとってのホラーでございますが、皆様は私のコトをご存じでしょうか。おやおや、知らない人が多数ですかねぇ、ほらほら、遠慮なさらず手を挙げて構わねえんですよ? はは、私の背筋から冷たい汗が伝い落ちるところでございました。
     気を取り直しまして、襟を正させていただきましてっと……こんな場でお話をさせていただくなんてぇのは、まあそうないものでして。何せ私は筆で語る執筆屋、時には人に取材をした話やら、その地域に伝わる話やらをせっせせっせと集め回ったもんです。今はぁもしかしたらそういうコトもねえのかもしれませんねぇ。ここに来たときはぁまあ驚きました。知らぬ存ぜぬ機械に果てには芸術を社会制度に落とし込んじまっている、いやぁ、一介の作家の書く話ってのがぁ、芸術作品として残り続けている。こんな恥ずかしいことがぁありますか。きっと過去の文豪達もそうだそうだとお彼岸で頷いているコトでしょう。
     さてさて、私、先ほど執筆屋と申しました。今はあまり知られておらん稼業でごぜぇますが、例えばそう、新聞だったり、五銭、今で言うところの百円から二百円で買えるようなうっすい小さな雑誌にて色々と書かせていただいてたんでございます。滑稽話や童話、寓話の翻訳、噂話に説教話、そして、怪談。
     本日おはなし致しますのは、そんな小せぇ小せぇ記事のために、聞いた話でごぜえます。

     あれは昼間の、確かぁ、カフェでございました。ちょっと薄暗い、白熱球って呼ばれるオレンジ色の光がおしゃれに店内を照らしていたんです。そうそう、ちょうど、今このぐらいの明かり。木造の建物が多くて、カフェも例に漏れず木造でした。そこでね、取材の待ち合わせをしておりまして。ええ、行ったんですよ。ちょいとおしゃれもしてねぇ。なんでおしゃれしたかって? お客さん、決まってるでしょう。別嬪さんに会うからですよ。こっちですよぉと呼ばれて席を見たら、艶のある黒髪に真っ白な肌、赤い口紅を差して、アイスコーヒーをね、一口も口つけずに待っていたんですわ。仮にAさんとでも呼びましょう。
     まず軽く挨拶を済ませて、店員さん呼んで私も注文して、早速お話を伺ったんです。Aさんは薄らと笑みを浮かべながら話を始めました。

     ええ、始めさせていただきます。今日は私の体験談、でよろしいんですよね。
     えぇ、えぇ、そうです。なんでも仰って下さい。私が書くんでよろしければ。
     ええ、そうですね、供養のつもりで話させていただきます。
     
     そう、皆様、お気づきですか? Aさんね、供養ってもう言ってはるんですわ。この時既に私の体験話を聞いて書いて下さいって言われていたんですが、当日まで内緒って教えてくれませんでしたから、供養って言われて内心ぎょっとしたのを覚えてます。

     私ね、小さい頃、可愛らしいお人形持ってたんです。父が貿易商してて、海外四方八方回って滅多に帰ってこない人でしたから、周りから見たら片親の娘でしたろうけど、私は父の土産がたいそう気に入っておりまして、お人形さんもそのひとつでした。金色の髪に青いぱっちりとした目、可愛らしいフリルのたくさんついたおしゃれなお洋服着てね、本当に可愛らしいもんで。私はすぅぐ夢中になったんです。
     お人形さんといっぱい遊びましたよ、おままごとで。粘土でお皿作ってみたり、お庭に咲いた花をもいでお料理みたいにしてみたり、本当にそこに新しいお友達ができたみたいで、嬉しかったんです。まだ幼かったからねぇ。髪に櫛通して三つ編みにしたり、飾り紐でリボン作ってあげたり……お母さんの真似事ですよ。お人形さんにあれやりたいこれやりたい言って、いっぱいワガママ言いましたわ。お母さんも困った顔してましたけど、お人形さんのお洋服縫ってくれたり、私が興味を持つならってあれやこれや家事のこと教えてくれたり。あの時は楽しかったですわぁ。

     そう言ってAさんは一口コーヒーを飲みました。口紅がねぇ、グラスについたのを指でゆっくり拭っておりました。

     そんでね、私、そうそう、おままごと。してたんですよいつも通り。そうしたらね、花をお人形さんの口元にそっと持っていったところで「あんた、何したの」って大声で呼ばれたんです。お母さんの声でした。私、お母さんの怒った声が怖くって仕方のない年ごろで、びっくりしてお人形さんを倒しちゃったんです。お母さんが駆け寄ってきて、あんた、何したのってもう一度聞いてくるんです。そりゃもう鬼の形相で。角隠し、結婚したとき身につけたはずなのにねぇ。でね、私、身に覚えが全くないんですよ、嘘ではなく、記憶がないわけでもなく、本当に身に覚えがなくて、言葉に詰まってしまって。そうしているうちに、来なさいって言われて手を問答無用で引かれて。着いたのは母の部屋でした。障子を開け放たれて、どきっとしました。母のね、化粧箱がひっくり返ってるんです。これで何もかもがひっくりかえってたら泥棒だと思ったんでしょうけど、化粧箱だけだったから。しかもね、鏡に口紅で何かぐちゃぐちゃって書いてあるんですよ。色々と興味持って色々やってたから、私のせいだって思ったんでしょうねぇ。口紅もなくなってましたし。

     Aさんが髪を、こう、耳の後ろにね、やるのが見えました。視線はいつの間にかグラスの氷に向けられておりました。

     その日めぇいっぱい怒られて、身に覚えがないのにってとぼとぼとね、おままごとしてた場所に戻ったんです。そうしたら、ねぇ、お人形さん、座ってて。あれ? って思ったんですけど、きっと女中の誰かが戻してくれたんだわって。でも倒しちゃったからお人形さんの頭をそっと撫でて、ごめんなさいって謝ったんですよ。そうしてね、ふと気づいたんです。撫でてるときに、こう、手で梳いてたら、引っかかりがあるって。倒しちゃったときにもしかして、って思ってそっと髪を持ち上げたんです。そしたらね、やっぱり罅が入ってて。でもね、その罅、小さい四角形みたいになってるんです。なんだか私、ドキってしてしまって、恐る恐る四角形のところを指で押したんです。不思議でしょう。なんで私も、押す、なんて発想になったのか覚えてません。でもね、押したら、カチって音がしたんです。私、なんだか背中に、つぅっと冷たい汗が急に出てきて、お人形さんをまた落としちゃったんです。そうしたらね、かこん、って首が取れちゃって。その瞬間にね、がらがら~って音立てて中からいっぱい白い固まりが出てきたんです。それなりに重かった人形でしたけど、まさかそんな入ってると思わんじゃないですか。白い固まりねぇ、真っ白じゃなくて、黄ばんでるところもあったかな。

     Aさんはちらりと私を見ました。私は、それ、もしかして、と続きを促しました。

     ええ、そう。お骨だったんですね。私、その時はなんだったか分からなくて、とりあえず体の中にあるもの全部だそう思って逆さにしたんです。そうしたら、こつんって、母の口紅が出てきました。私、どうしたらいいか分からなくなって、でもお母さんに怒られるんも嫌だったから、女中さん慌てて呼んだんです。どうしてここにって思うよりも、自分のせいじゃないのにまた怒られるっていうほうのが恐ろしくて恐ろしくて。それでね、来てくれた女中さんと一緒に片付けしたんですよ。白いの見て女中さんも首傾げながら片付けしてくれたんですけど、けどね、彼女、私のことを呼んで言うんです。お嬢様、お首は? って。私慌ててあちらこちら探しました。けれども首だけないんです。どっかにいってしまって。なんでぇなんでぇってもう疲れ切って泣いちゃって。その声聞いてお母さんがやってきて、口紅見て私見て。そんなお母さん見て女中さんが色々とお話してくれたわけです。そうしたら、お母さん、急に口元押さえて青ざめて。見せて、って言うんです。お人形さんの体の中。女中さんが白い詰め物を出して中を覗いてぎょっとしてお人形さんの体落としちゃって。こんなん何度も落とされて可哀想だと思われると思うんですけど、本当にそうで。今度は体がバリンいうて割れちゃったんです。今度こそ。そうしたら服の中で、なんか動いた気がしたんです。私もその音でびっくりして泣き止んで、三人でその体を見守ってました。急に周りが涼しくなったような感じさえしたのを覚えてます。でも、お人形さん可哀想で、服を捲ったんです。そうしたらね、破片がね、絡まっとるんですよ。

     私は唾を飲み込みながら、口を挟みました。絡まってる?何が?

     いっぱいの髪の毛とお札。髪の毛も金髪だったり黒髪だったり。柔らかいのからちょっと太いのまで。当時の私は分かりませんでしたけど、お母さん、ぶるぶる震えだして、早く、早く全部集めて、供養させたって! って、もう、わあわあわあわあ言って。女中さん大慌てでかき集めて、新聞紙の上にまとめてね、包んで持って行っちゃって。その後、お寺にお預けしたそうなんですけど。

     けど?

     頭、未だに見つかってないんですよね。少なくとも私は見てない。それからしばらく、なんだか私、妹か弟……ようは下の子が居るように思えてなりませんで、そういう言動ばっかし繰り返しちゃって。お母さんにすっかり気味悪がられちゃったんですけど、お父さんは好意的に受け取ったようで。実際、妹、その二年後ぐらいに生まれたんですよ。ああ、妹は今も元気ですよ。ほら、この子。歳は少し離れてますけど、良い子ですよ。変わってるけど。

     そう言ってAさんは写真を見せてくれた。金色の髪に、黒い瞳。チェックの洋服に花柄の洋服と随分とハイカラな子だ。

     妹は都会に出て暮らしてまして。金色なんはねぇ、染めるのが流行ってるからだぁって。お姉ちゃんも好きでしょうって言ってくるんです。私が金髪好きなの言ってたかしらって思いながら、似合ってるねぇって手紙返してたんですよ。普段はお互いの近況とかを報告し合って、またいつ会いたいねぇって言ってるんですけど、それでね、これ、つい最近の手紙。

     Aさんはそう言って一枚のポストカードを差し出してきた。裏側にはエッフェル塔の絵と共にこう綴られていた。
    「お姉ちゃん、私、帰ってきたよ!」

     これにて、締めとさせていただきます。ご静聴、ありがとうございました。
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