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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    不思議な遊園地に迷い込むタケルと漣。(2018/06/22)

    ##牙崎漣
    ##大河タケル
    ##カプなし

    次は──遊園地前牙崎漣と言う男、いや、”生き物”は泣かないのだと思っていた。俺はコイツをなにか、ことわりの違う生き物のように思っていたから。
    そう思っていたコイツが泣いた。泣くつもりはないと言うように、口は特になにも示さず、涙だけを流して泣いていた。
    正直に言うと、その光景に俺は何か満たされるものがあった。だって、コイツは人に囲まれていた時は泣かず、円城寺さんと俺との3人でいたときにも泣かず、俺と2人きりになった瞬間に泣き出した。それが少しだけいじらしいように感じられた。コイツに抱く感情とは無縁だと思っていたそれに、自分自身戸惑った。
    ぽろぽろと涙をこぼすコイツの腕を引いて電車に乗った。人が少なかったから各駅停車の電車に乗った。俺は泣いているコイツを放り出すほど薄情ではなかったので、家に連れ帰って暖かい飲み物をあげようと思っていた。コイツはきっと甘いものが好きだから、2人であたたかいココアを飲もう。そう思っていた。電車の揺れにあやされるように、しばらくしたらコイツの涙は止まった。
    各駅停車は人が増えたり減ったりを繰り返す。それなりに人が増えたころ、アナウンスが告げた。
    「次は、──遊園地前。──遊園地前」
    遊園地があるのか、そう思った。普段は各駅停車に乗らないから、意識したことがなかった。
    電車が止まり、人が降りる。不思議なことに全員が降りた。あんなに人間がいた車内が空っぽになる。
    「一分ほど停車致します」
    ぞろぞろと動く人の群を見て、どちらともなく言い出した。
    「降りてみるか」
    空は夕暮れに紫が混じりだしたころだった。少しくらい、寄り道したって構わない。
    人並みについていくように歩く。さすがに全員が全員、遊園地には向かわない。徐々に減っていく人間になんとなしに少しだけガッカリしながら、茜の空にぽっかりと浮かぶ観覧車を目指して2人で歩いた。
    観覧車の見える方へ歩いて歩いて、たどり着いたのはよく言えば貫禄のある遊園地だった。素直に言えば古びている。どうする?口にする前にコイツが受付に歩いていって、金を払い2人分のチケットを手に戻ってきた。

    ***

    園内は静かだった。人が全然いないと遊園地は寂しいものなのだと初めて知った。あまり馴染みはないけれど、記憶の中の遊園地はもっともっと賑やかだったから。
    2人で、何に乗るでもなく園内を散歩していた。コイツはずっと静かで、俺はそれを受け入れていた。もしもまた泣き出したとしても俺は絶対にバカにしたりしないって決めていたのに、コイツは泣かなかった。
    メリ─ゴ─ランドの前にピエロがいた。風船を配っている。こちらに気がつくと手を振ってきた。近寄るが、風船は受け取らなかった。ピエロがメリ─ゴ─ランドを指し示す。
    「乗るか?」
    「……ん」
    短い同意だった。ひさしぶりに声を聞いたような気がした。
    誰も並んでいなかった。きっと2人はわかれて馬に乗せられると思っていたのに、太った従業員は俺たちをひとまとめにきらびやかな馬車に乗せた。
    音楽が鳴り始める。
    キレイというよりは、チ─プな音楽だと思った。これに似た音楽をデパ─トの屋上の遊具で聞いたことがある。ただ、メリ─ゴ─ランドにびっしりとまとわりついた豆電球が光るのはキレイだと思った。横にいるのがコイツなのも、取り立てて気にはならなかった。
    しばらく馬車は同じ場所をくるくると回っていた。一周ごと、こちらを見ているピエロが手を振ってくる。最初は手を振り返していたが、4回目あたりから振り返すのをやめた。それでもピエロはずっと手を振っていた。
    いつまで続くんだろう。そう思った矢先にコイツが言う。
    「降りる」
    そう言って立ち上がろうとするから慌てて止めた。止まるまで降りられないと説明すると、一瞬だけ瞳がつらそうに曇った。
    「……降りる」
    二度目の呟きと同時に回転は止まった。

    ***

    空の紫が濃くなって、夜の帳を追い出すように遊園地内には電飾がきらめいた。
    そろそろ帰ろう。そう思ったのとほぼ同時、観覧車を見つけた。
    コイツと観覧車に乗りたい。そう思った。
    普段なら絶対に思わないことを思ったのは遊園地という場所に当てられたからか。もしかしたら、また2人っきりになったらコイツは泣くかもしれないと期待したのかもしれない。観覧車に乗ろう。そう言い出す前にコイツが言った。
    「これ、乗りてえ」
    「……2人でか?」
    「チビが乗りて─ってんなら、一緒に乗せてやるよ」
    それなら一緒に乗ろう。そう言って2人で観覧車へと近づいた。

    観覧車はゆっくりと上にあがっていく。
    視界がどんどん開けていく。
    コイツは無言だったし俺も無言だった。俺はこの沈黙が心地よかった。コイツはどう思っていたんだろう。
    観覧車の安っぽい電飾に銀色の髪がキラキラ光っている。目はもう潤んでおらず、蜂蜜色が電飾につられて少しだけオレンジを帯びている。
    しばらくそうしてコイツを見ていた。コイツはずっと外を見ていたから目はあわなかった。
    「……海が見える」
    「嘘だろ?」
    その呟きにつられて外を見る。海なんて、この辺から見えっこない。そう思ったのに、外を見てみたら確かに海があった。
    海だけじゃない、不思議な光景だった。
    海が見えて、ビルも見えて、どこか海外みたいな教会が見えて、草原が見えた。神様が気に入った景色を寄せ集めたような不思議な景色だった。
    やがて観覧車が下がりはじめて、景色が閉じていく。目線の高さが木々と同じになり、真っ黒に塗りつぶされたみたいな葉っぱの影に視界が閉じた。

    ***

    遊園地を後にして、駅に戻ったら駅の名前が変わっていた。遊園地の遊の字もない。
    遊園地の前だから「──遊園地前」だったのではなかったか。不思議に思って振り返ると、空に向かって伸びていた観覧車はどこにもなかった。
    「夢でも見てたのかな」
    帰りの電車に揺られながらそう呟く。
    「遊園地にいって、メリ─ゴ─ランド乗って、観覧車乗って。なぁ、オマエもいただろ?」
    「…………ああ」
    僅かな同意。それに心底安堵した。
    「考えてみたら、オマエが泣き出した時からずっと夢みたいなんだよ。俺、オマエが泣くだなんて思ったことなかった」
    「何言ってんだ、チビ」
    心底嫌そうなコイツの顔。
    「オレ様が泣くわけないだろ」
    そうか、と呟く。それでもよかった。
    それでもコイツは俺に手を引かれて、俺の家でココアを飲むんだ。
    泣いたやつなんていなかったのか。コイツは本当に泣いたのか。
    泣いたのは俺だったか。そんな気もした。どちらでもよかった。
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