永久の夏、不変の君へ夏が始まる。
そう楽しそうに四季が言う。「夏休み」になるらしい。
漣にとってそれは馴染みのない言葉だった。夏が始まると言う言葉も、ナツヤスミという単語も。
夏というのは、と言うよりも季節というものは、常に傍らに寄り添いうつろうもので、はい、今日から夏ですよ、だとかそう言うものではないだろうと漣は思う。でも、四季は今日からが夏なのだと言う。
いろいろなところに誘われた。海、プール、サマーセール、カラオケ。どれもわざわざ暑い中、行くようなところではないと漣は思った。そう告げると四季は言う。「夏が終わっちゃうっすよ」
夏の終わりが四季にとって明確に存在することも漣を戸惑わせた。何故、この日から夏が始まりますよ、ここで夏は終わりますよ、と言えるのか。そんなものは、じわりと感じる気温や八百屋の軒先に並ぶ果物の品揃えでなんとなく感じるものだろう。
「夏が残り少ない」
8月も半ばで四季が言った。
季節なんて、終わってもまた巡ってくる。永遠に、永遠に春がきて、夏がきて、秋がきて冬がくる。日本は四季の変化が顕著だからそういう発想になるのだろうか。漣にはわからない。
「夏なんて、何度だってくるだろ」
そう言う漣に対して、四季は悲しそうに首を振った。
「漣っち。オレが学生でいられる夏は、今回を入れてあと三回だけなんすよ。学生にはね、期限があるの」
真剣な四季の表情。
「漣っちは永遠に漣っちなのかもしれないけど、オレは違うんっすよ。オレは学生で、後輩で、きっとオレはあと二回の夏で今のオレじゃなくなっちゃう。オレには」
泣き出しそうな四季の声を初めて聞いた。
「永遠なんて、ない」