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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    タケルと漣とブランケット(2019年あたり?)

    ##大河タケル
    ##牙崎漣
    ##カプなし

    ふわふわとごわごわ アイツの持ち物を俺は一つしか知らない。
     それを知ったのは秋の頃だったと思う。寮にアイツの居場所があるのを知ったのも、その日が初めてだったはずだ。
     部屋番号を聞いて、歩いて、ノックをして。ノックをしても返答はなくて。
     そのまま帰ってしまえばよかったんだ。それでも、苦し紛れみたいにドアノブをひねったのは意地以外の何物でもない。ただ、俺は円城寺さんの焼いたマフィンを持ち帰る先を知らなかったんだ。円城寺さんの家に置いておけば、きっとアイツは食べたはずなのに。
     ドアノブをひねればいとも簡単に扉は開いた。歓迎なんてされているわけもないのに踏み入れる。無造作に転がった靴は、主の存在を示している。声は聞こえない。歩みは止まらない。
     俺を迎え入れるものなんてなかった。悲しいほどに、なにもない部屋。その真ん中で、滅びた国の王様みたいにコイツが寝ていた。そばにはくしゃくしゃのブランケットがあって、それだけがコイツを人間のように見せていた。
     そばに寄って、薄汚れたブランケットを撫でる。コイツに触れることはできなかった。それくらい、コイツが遠い生き物に見えていた。このぐしゃぐしゃの布くらいしか、この部屋は俺の世界につながっていなかったんだ。
     きっとふわふわだったんだろう毛はぺしゃんとしている。俺なんかが見てもわかるくらいぼろぼろのそれ。俺は勝手に部屋の押し入れにしまいこんでいるぬいぐるみを思い出していた。取り出せなくて、抱きしめられなくて、でも捨てることなんて出来なくて。
     コイツにも、そういうものがあるんだ。
     何をやったってコイツは起きないって知っていた。何もコイツにする気が起きなかった。ラウンジにいる誰かに神とペンを借りてこよう。そうして、できたてのマフィンをここに置き去りにしよう。


    「オマエ、あれ洗ったらどうだ?」
     あれってなんだよ。返されたのは怪訝な声。なんでこんなこと言ったのか、わからなかった。コイツは俺の布団を奪って俺のベッドに寝転がっている。自分にも布団があるなら、そっちを使ってほしい。
     いや、そんなのは建前だ。きっと、俺は自分に言い聞かせることが出来ない言葉をコイツに投げかけていた。取り出せないぬいぐるみ。洗えない、ごわごわになった思い出。
     断ってほしかったんだ。あれは洗えない、って。そう言ってほしかったんだ、俺が間違ってないって。オレ様だってこれはそのままにしていたいって、そう言ってほしかったのに。
    「あー……それもそうだな。らーめん屋のとこにでも持ってくか」
    「……は?」
     コイツが思い通りになったことなんてないのに、俺は勝手に悲しくなった。裏切られた、って、思ってしまった。
     違うだろ、って思った。だって、オマエ、これはずっと持っていたものなんだろう。押入れの中のぬいぐるみ。俺と、アイツらと、ずっと一緒だったぬいぐるみ。
    「……なんで、そんな簡単に言えるんだよ」
     こんなことじゃ泣けない。それでも、泣いてしまえたらと思う。オマエが間違ってるって、その証明みたいに声を上げてしまいたかった。コイツはまっすぐに俺の目を見て言った。
    「……わけわかんねえ」
     そうだよな。そりゃ、そうだよな。


     秋晴れの空にブランケットがたなびいている。きっと乾いたコレは俺の部屋か円城寺さんの部屋に置かれて、本格的に寒くなるまでコイツをくるむんだろう。
     柔軟剤でふわふわになったそれを見て、本当に悲しくなった。ゲームで負けたときみたいな悔しさとか、チャンプに感じる愛しさとか、鍵がうまく刺さらなかったときみたいな苛立ちとか、そういう余分な感情が挟まる余地がないくらい悲しかった。透明度の高い、ガラス片みたいな悲しみだった。血が流れないと存在がわからないみたいな、残酷な美しさを保った悲しみだった。
     せめてアイツが満足そうにしてくれればよかったんだ。それなのに、アイツはなんてことない目で布切れを見ていたんだ。秋空を映したふたつの満月は、何も語ってはくれなかったんだ。
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    85_yako_p

    DONEかなり捏造多めなタケ漣です。自分の知らない一面をなかなか信じたくないタケルの話。猫が死んでます。タケ漣とするか迷いましたが、タケ漣でしょう。(2024/10/12)
    野良猫の憂鬱 予感がした。それだけの単純であやふやな理由で俺はわざわざ上着を羽織って夜に踏み出した。目的地なんてあるはずもないのに、足は路地裏に向かっていた。
     歩けば歩くほど無意味に思える時間に「明日は朝から雨が降りそうだから、アイツを家に入れてやらないと」と理由をくっつければ、それはあっさりと馴染んでくれた。そうだ、俺はアイツを探しているんだ。訳のわからない予感なんかじゃなくて、でも愛とか同情でもなくて、この意味がわからない焦燥はアイツのためだ。
     明日が雨予報だってのは嘘じゃないけど、今夜は晴れていて月が綺麗だった。だからアイツがいたら一目でわかるはずだし、パッと探していなかったら今日は捕まらない。だから、と自分の中で線を引いてから路地裏を見ると、いつもチャンプが日向ぼっこをしているドラム缶の上にアイツがいた。片足をだらんと垂らして、片方の足はかかとをドラム缶のふちに乗せている。そうやって、何かを抱き抱えるように瞳を閉じている。
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