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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    友達の書いたプロットを私が書くやつだった。クリスさんの話。(2018年くらい)

    ##古論クリス
    ##カプなし

    ネオンテトラ 海が好きだった。でも、水槽は、苦手だった。
     海にいれば争うことのない生き物たちも、水槽に押し込めると争いを始めてしまうことがある。狭い世界。そこで何かが狂うのだろうか。そうして歪になってしまった小さな世界をいくつも見てきたし、そのうちのいくつかを経験してきた。
     一番最初にその水槽の中に放たれたと意識したのはずいぶんと昔の話だろう。背はこんなに高くなかった。私はまだまだこどもだった。
     教室。きっと、誰もが初めて投げ入れられる水槽はここだ。私も、同じようにここに放たれた。
     そうして、自分が放たれた水槽のバランスが崩れていくのを見た。自分にはその理由がわからない。水槽の中にいる誰かに聞けば、わかるのだろうか。考えて、否定する。きっと、答えなんてないと思う。誰もが狂っていくバランスを理解しつつ、その原因も、自分自身のこともわかっていなかった。なんとなく、そう思う。
     そうして、いくつもの水槽のバランスを崩しながら背が伸びていった。悪意はなく、善意は空回りして、ただ小さな世界が崩れていく。
     そのまま、おとなになった。いくつもの水槽のなかで、いくつもの嵐にこの身を晒した。崩れていく世界の音を聞きながら、そうして生きてきた。


    「では、次の仕事は海で行うのですね!?」
     自分の言葉を思い出して、それが肯定された先程の出来事を思い出して、頬が緩む。
     スキップでもしてしまいそうだ。ただ、そんなことをしたら道行く人にぶつかってしまう。期待を抑えるように、少しだけ発露するように大股で歩いた。歩いて、自分みたいなサイズの人間がどしどしと歩いているのは少し威圧感があるのだと理解したが、スキップじゃないだけ大目に見ていただきたい。
     私は、幸せだった。私は、海が好きだ。


     海が好きだ。その向こう、自らが置かれた水槽の外にいる人間を思うだけで、嵐に荒れていた心が凪いだ。海には色々な生き物がいて、それなのに争いがない。広い、広い、何もかもを受け入れる巨大な水槽。そこに住めれば、世界を壊すことなく過ごせるのだろうか。私は、海の中にいたい。そう思った。何度も、何度も。
     私が魚だったらよかったのに。そうして、海に生まれて、海で育ち、叶うなら海で死にたい。
     でも、現実は違う。私は人間で、狭い水槽を渡り歩いて生きていく他はない。海を見ながら、ただ憧れた。
     何度も、海ですごす魚になることを夢見ていた。ただ、実際に見た夢は、その広い世界でさえも崩す、ネオンテトラになった自分の夢だった。
     私は、魚になっても世界を壊してしまうのか。考えてみれば、それは当然のように思えて、ひどく悲しい気持ちになった。だって、私は人の中で、一度すらうまくやれたことがない。
     私は、何になればいいんだろう。ぼんやりと考える。願いは、明確なようであやふやだ。
     シロナガスクジラのような大きな生き物であれば、この悩み自体無縁なものなのだろうか。大きな大きな体でうんと長生きをして、巡る世界を見守りながら、ときおりきゅい、と笑えるのか。
     それとも、ベタのように群れない魚なら。水槽の外でただ、孤独に。
     考えていた。でも、最近はそれすら違う気がする。世界を見守りたいわけでも、世界から逃れたいわけでもない。私は、私によって崩れない世界にいたい。この願いにたどり着くまでに、とても時間がかかったような気がする。
     願いに気がつけたのは、プロデューサーや雨彦や想楽、そして事務所のみんなのおかげだろう。
     私が入っても崩れない世界。多種多様な生き物がいる水槽。ぼんやりとした願いの形がここにあった。知らずに潜めていた呼吸が深くなっていく。
     そうして気がつく。ここが私の海だ。
     この大海に放たれた私は、少しずつ泳ぎ方を覚えていった。そうやって、多くの人と関わっていった。もう、水槽の隅の方で息を殺す必要はない。ここでなら、私は私のままで泳いでいられる。
     そうして泳ぐうちに、たった一人で泳ぐ必要なないのだとも知った。プロデューサーが私と泳いでくれる。たった二人の遊泳は広がっていく。ふ、とプロデューサーが手を離す。恐怖はない。サインライトの海を、雨彦と想楽と私の三人で泳いだ。そうして、二人が三人になって、三人が四十六人になって、そうして私はたまにたった二人の遊泳へと戻っていく。回遊魚のようだ。眠ることすら惜しい、愛しい営み。
     そうして、歓声の中で気がつく。ようやく、ようやく私の声が届いたんだ。


     やっと仲間ができた。仲間に、入れた。
     水槽の外側に憧れるのはもう終わりだ。これからは私の海で泳げる。みんなが泳ぐ、共通の世界を。
     ようやく手にいれた。いや、いつの間にか包み込まれていた。この両手はもう、空っぽなんかじゃない。
     さあ、どこまでも泳いで行こう。この生命が続く限り、ずっと。
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