仁義無きクソ土産バトル 突然だが、話は半年前へと遡る。
半年前と言えば、俺たちの仕事も軌道に乗って個別の仕事や地方ロケも増えてきた頃だ。仕事に慣れるのと同時に俺と先輩たちの距離も近づいて、俺たちはそれなりに気の置けない仲になっていた。そう、俺たちは出会った頃に比べてかなり仲良しなのだ。これは俺が今からする話において重要な点なので念頭に置いてほしい。
そう、俺たちは冗談を言い合える仲になっていた。けしかけて、じゃれあって、みたいな。そうしたいわゆる悪ふざけの延長で、俺と百々人先輩の抗争は勃発したのであった。
「はい、アマミネくんのぶん」
そう言って手渡された地方ロケのお土産は鋭心先輩に渡されたお土産とはサイズ感がだいぶ違っていた。鋭心先輩へのお土産はおいしそうなフルーツゼリーで、なんでも百々人先輩が試食したなかで一番おいしかったのだとか。
で、俺へのお土産がこれだ。俺の手が袋からずるりと引きずり出したのは、真っ赤な生地に力強く波打つ海と、そこから猛々しく飛び跳ねているカジキが『大漁』という二文字を背負っている布──俗に言う大漁旗だった。
「……百々人先輩、これは?」
「カッコいいでしょ。お土産だよ。……どうかなぁ?」
百々人先輩は悪戯に笑って、そのあとすぐに、少しだけ不安を滲ませて口にした。この人にはこういうところがある。ふらりと距離を詰めて甘えるように遊ぶくせに、すぐに我に返って不安がる、みたいな。
「……いいんじゃないですか?」
「やったぁ。絶対部屋に飾ってね」
からころと百々人先輩は笑う。縮んだ距離をそのままに彼の肩を軽く叩いて俺は告げる。いわゆる、試合開始のゴング。
「再来週、地方ロケなんで…………俺からのお土産、楽しみにしててくださいね」
で、そんなやりとりから早半年。終わりの見えない戦いは続いている。俺のセンスがよかった部屋には大漁旗を筆頭に木彫りの牡蠣やら紙で作られた変なおじさんやらドラゴンの巻き付いた水晶やらが幅を利かせているし、なんなら俺の通学カバンには『暗黒剣が龍の目玉を貫いているキーホルダー』がぶら下がっている。こうやって律儀につけているのは意地というよりはおふざけの範疇で、対抗するように──あるいは道連れのように、百々人先輩のカバンには『肉汁無双』と書かれた餃子のキーホルダーが存在を主張しているのだ。
早く俺だけの地方ロケ、こないかな。そんなことを考えながらレッスン室でストレッチをしていたら、百々人先輩と鋭心先輩が同時にやってきた。百々人先輩は俺を見て、ぱっと笑う。
「マユミくんがね、お土産あるって」
そっか。鋭心先輩、このまえ地方ロケだった。鋭心先輩のお土産は外れがなくて──悪く言えば平凡だ。今回もご当地のおいしいものだろうから、小腹が減っていた俺はちょっと期待して待つ。そんな俺にも真顔のままで、鋭心先輩がゆっくりと、カバンから袋を取り出した。
のだが。
「えっと…………鋭心先輩?」
「マユミくん……ふふっ、あはははは!」
鋭心先輩の手には額に『厄除け』と掘られた、それなりに大きな般若の仮面がふたつ。
「土産だ」
それを笑いもせずに渡してくるから俺も声を出して笑ってしまう。なんだよ、鋭心先輩も混ざりたいんじゃん。
しばらく俺と百々人先輩が笑っていたら、鋭心先輩も控えめに笑い出した。こんなこと続けてたら俺の部屋はどうなってしまうんだろう。でも、しばらくはやめられないよなぁ。
「あはは…………あー、おかしい。今度からマユミくんへのお土産も、なんかセンスのあるものにするね」
「そうですね。俺たちのセンス、期待しててください」
「……ああ、期待している」
一通り笑って俺たちはストレッチを始めた。俺はお土産屋で般若の面と向かい合って思案する鋭心先輩を考えて、吹き出しそうになるのをぐっと堪える。
この般若はなんか強そうだし、玄関に飾ることにしよう。