結局天井した アイツがいない。アイツがほしい。いや、語弊があるな。俺はアイツの演じたキャラクターが欲しかった。
俺たちがハマってるゲームに新規実相されたキャラクターの声を当てたのは、よりによってアイツだった。そのキャラクターのカードを入手すると読めるエピソードには既存のキャラクターもたくさん出てくるらしく、俺の好きなキャラクターもでるらしい。おまけにそのキャラクター自体も見た目がかっこよくて、しかも強いときた。紹介エピソードを見る限り、かなりの好青年であることも知っている。声がアイツなのにいいやつだとか、バグみたいだ。
最高レアリティで実装されたアイツ──便宜上アイツと呼ぼう──を手に入れようとして、手持ちのアイテムをすべて使ったけどダメだった。まぁ、とにかくこない。あと二万円使えば確実に手にはいるのだが、なんとなしにそれは癪だった。いわゆる『天井』と呼ばれる行為の初めてを、よりによってアイツに捧げるというのは、なんかムカつくから。
とはいえ、じゃあ、とすっぱり諦めきれるものでもない。期間限定キャラクターは、次にいつ登場するかわからない。強くて格好良くて、悔しいことに声もいい。落ち着いたアイツの声はこんな感じなのかと知る。こんなの全然別物なのにアイツだとわかるような、そんな声だ。ラーメンを食べ終えて、隣でいつものように騒ぐコイツの声を聞きながら溜め息をつく。コイツが欲しいっての、本当にイヤだな。無視して惰性でゲーム画面を開けば、フレンド欄にコイツがいた。恭二さん、引いてるじゃないか。もうダメだ。やっぱり欲しい。
「タケル、もう行くのか?」
「あ、いや。少しコンビニに行ってくる」
課金をするために、とは言わなかった。寒空に放り出された俺を追いかけてきたのは、渦中の人であるコイツだった。
「おい! 何しに行くんだよ」
オマエを手に入れるために二万円払ってくるんだ。とは言えない。ついでにそのキャラクターが好きだというプリンをおまじない──召還の触媒に買うつもりだとも、言えるわけがない。巡る言葉は思い至って、ひとつの結論に辿り着く。
「…………触媒」
「ハァ?」
「オマエ、もしかしたら一番強力な触媒なんじゃないか……?」
「しょくば……? ま、オレ様は強力どころか、最強だからなぁ!」
ようやくチビもわかったか、と誇らしげな顔をしたコイツの手を握る。天井しなくて済むかもしれない。
「……オマエが必要だ」
「……ハァ?」
「どうしても、オマエが欲しいんだ」
言い方を間違えたと悟ったのは、本気で嫌そうなコイツの顔を見てからだ。嫌そうな顔するな。俺だって嫌だ。
「…………頭おかしいんじゃねぇの?」
「違う。本当に違う。オマエはいらない」
自分の言葉にげんなりしつつも、とりあえず一万円だけ魔法のカードを買った。
とりあえずコイツの指を借りよう。いわゆる、ジンクス、おまじない。天井しなくて済んだなら、たいやきくらいは買ってやろうと思う。