羊の不在「状況を整理しましょう」
異常事態において、状況の把握は重要だ。俺の提案に百々人先輩も鋭心先輩も頷いた。幸い身の危険はなさそうなので、じっくりと腰を据えて考えよう。
「認識を共有しましょう。まず、俺たちは事務所の扉を開けた。ここまではいいですね?」
「ああ」
「そうだね。変なところもなかったよ」
よかった。ここから違っていたとしたら話にならない。いや、話をするまえに言うべきことが、まずあった。
「話の腰を折りますけど……先輩たち、俺の見てる夢ですか?」
「さっきビンタしあったじゃない。ちゃんと痛かったでしょ?」
「痛かったな。これは現実で……現実ではなくても、現実だと仮定して進めた方がいざという時に動けるだろう」
「そうですね。中断させてすみません」
話を戻します。そう言えば先輩たちは頷いた。鋭心先輩の言うとおり、とりあえず今は話し合う時間だ。
「そして……ここに来た。突拍子もないですけど……」
「まぁ、実際にいるからね……」
俺たちがいたのはかなり広いリビングだった。きれいなマンションの一室という感じで、大きな台所までついている。テーブルはそぼくな木目調、そしてひろびろとした空間には暖かそうなコタツがあって、すぐそばには高そうなソファーまである。そんな家具を収めてなお余裕のある部屋は、鋭心先輩の家のシアタールームを彷彿とさせた。
「いい家って感じですよね」
「窓がないことを除けば……だけどね」
そう、この部屋には窓がない。というか、俺たちってどこから入ってきたんだろう。廊下から来た覚えはない。ただ事務所の扉を開けて、何気ない話をしながら歩を進めて、ふと振り向いたらもうここに居て、振り向いたすぐそばには壁があった。
「……入ってきた扉は消えて、壁になっていた」
「そうだね。そもそも入った瞬間って、普通に事務所だったと思うんだけど……」
この状況が夢だとしか思えない理由はそれだった。そうでもなければこれは壮大なドッキリと思うこともできたのだが、カメラを探す前に現状把握を必要とするぐらい、いまの俺たちは混乱していた。
「とりあえず置いておきましょう。ここがリビングとキッチンで……あっちが廊下。こっちが……たぶん寝室ですよね?」
この部屋には二つの扉があった。ひとつは廊下に繋がっているのが見える。そしてもうひとつの扉は立ち入っていないが、『寝室』と書かれた札がぶら下がっている。
「……部屋は確認していないが、確認する必要があるだろうな」
「確認……もう一回くらいスマホを……うーん、やっぱダメですね」
俺が取り出したスマートフォンは動いているが、お約束のようにインターネットには通じない。これじゃソシャゲのデイリーができないな、だなんて考える余裕があるのに自分でもちょっと笑ってしまう。電話も当たり前のように繋がらず、役に立たない板が数枚あるだけだ。
「……部屋からいきます? それとも、廊下?」
手分けをするという発想はなかった。現状危険は無いようだけど、その先がどうかなんてわからない。
「……まずは寝室から行くか。秀、百々人、俺の後ろに」
「あ、マユミくん。そういうところだよ」
「そうですよ。それに、一番大きな人が前だと俺たち見えないじゃないですか。俺が先頭になります」
「アマミネくんも。譲り合っても仕方ないから、じゃんけんで。ね?」
「……勝った人が先頭ですからね」
俺は鋭心先輩と一騎打ちのつもりだったけど百々人先輩はしれっと参加してきた。二人を危険に晒すわけにはいかないけれど、厄介なことに俺たちの考えることは一緒だったようだ。
いざ、一本勝負。
「…………いや、ダメでしょ」
負けた。
「百々人、もう一回、」
鋭心先輩も負けた。
「ダメ。僕が勝ったんだから、二人は後ろ」
時間をかけたらよくないと思ったのか、単純に思い切りが良いのか、百々人先輩はためらう素振りもなく扉を開ける。そこは俺の部屋よりも広い部屋で、タンスが数個と、大きなベッドがひとつあった。
「……寝室ですね」
「そのようだな……やはり、窓はないようだ」
「うん……あ、すごいね。ベッドサイドのテーブル、アロマがたくさんある」
ぞろぞろと足を踏み入れても何も起きない。窓がないだけの、広めの寝室に見える。
「なんか、脱出ゲームみたいですね」
徐々に恐れがなくなってきて、あまりよくないなぁ、って思う。それでもいまは手がかりが欲しい。あまりためらわずに開けたタンスには、ふわふわのパジャマと体操着のようなものが入っていた。
「……体操着?」
「あ、でもルームウェアもあるよ」
「靴下も、いろんな種類があるな」
ずる、と鋭心先輩が引き抜いたのは、スポーツをするときに履くような靴下だった。
「靴下持って行こうよ」
「百々人先輩、それ気に入ったんですか?」
「ううん、ドラマで見たんだ。これに小銭とか石を入れてね、武器にするの」
「殺意高くないですか?」
「いや、武器はあって困ることはないだろう」
「マユミくんもそう言ってるし、ね?」
ということで、俺たちはめでたく武器の素材を手に入れて寝室を後にした。百々人先輩って、やっぱりわからない。
リビングに戻ってもなにもない。百々人先輩と鋭心先輩は武器にするためだろう、キッチンの冷蔵庫へ近づいていく。俺がゲーム脳なだけかもしれないけど、こういうのってグロいものが入っててもおかしくないから「慎重に!」と声をかける。
「んー、普通の冷蔵庫だよ」
「氷があるな。これは鈍器になりそうだが……溶けるか」
「あ、お米がある。これを入れよう」
百々人先輩は嬉々として米を靴下に詰める。でもその手が震えているのを俺は見た。きっと強がっているんだ。さっきのじゃんけんを思い出して、胸がきゅう、となった。
「……鋭心先輩は大丈夫ですか?」
隠しているものを暴く必要も無い。百々人先輩の後ろでそっと問えば、鋭心先輩は「問題ない」と答えた。その手も、声も、震えてはいない。ただ心配そうに百々人先輩を見つめる瞳に、ああ、この人も気づいているんだと思った。安心したような、不安になるような、なんとも言えない気持ちになる。
「武器も出来たし、廊下に行ってみようか」
重たそうな靴下を持った百々人先輩がいつものようなふわふわした声を出す。その手の靴下をぶんどった。
「……なに、アマミネくん」
「順番ですよ。次は俺が先頭」
さっきは百々人先輩が勝ったけど俺は二番だった。だから、次は俺の番。不満がありそうな先輩二人を差し置いて、俺は廊下に続く扉を開ける。こういうのはためらっていたら先を越されてしまうのだ。
廊下は明るかった。まっすぐに伸びた廊下の行き止まりは玄関で、左にひとつ、右にふたつ、扉がある。
「トイレ、お風呂……体育館?」
右のふたつは馴染みがあっても、左の体育館ってどういうことだろう。ただ、それを気にするよりも注目すべきものがある。そう、玄関と──それに貼られた、紙だ。
「……えっと、『九時間寝ないと出られない部屋』……? なんだこれ」
玄関に貼ってある紙にはかなり大きな文字でそう書いてある。シンプルに考えれば、これが脱出条件ということだろう。しかし、その条件がなんとも言えないものだから、百々人先輩も鋭心先輩も黙ってしまう。
「意味わからないですね……あれ? 下になんか書いてありますよ」
脱出条件の下、それなりの大きさの文字で何かが書いてある。
『ここにあるものは自由にご使用ください。足りないものがあれば仰ってください』
これも、ルールなのだろうか。
「もう靴下と米、使ってますけどね。それ怒られないみたいでよかったじゃないですか」
「何してもいいってことなのかな?」
「ここから出られればいいんだが……」
鋭心先輩はドアノブを捻ろうとするが、まったく動いてないようだ。鍵も、ドアノブも、瞬間接着剤で固めたみたいに動かない。
「……条件を満たせば開くのだろうか」
「そうですね……だからあんなに大きなベッドがあったのかな……」
「九時間寝る、かぁ」
九時間。結構長い。俺は結構夜型だから、正直九時間も寝ない。「長いですね」って呟いたら、「本当に、」と百々人先輩が同調した。
「とりあえず、残りのドアも見てみよう」
そう言って鋭心先輩はドアを開ける。順番的には鋭心先輩で正しいのだが、もうそんなルールはあってないようなものだった。
「……トイレはトイレだな」
「ん……ホントだ。でもすごい広いね」
「俺の家の風呂と同じくらい広い……きれいだし、不愉快な思いはしなくて済みそうですね」
試しに水を流してみたが問題はなさそうだ。脱出条件、探索、アイテムの獲得。なんだか本格的に脱出ゲームじみてきた。
「お風呂は……うわ、これ、もう銭湯って言っていいよ」
百々人先輩は勝手に『お風呂』と書かれた札のさがった扉を開けた。一拍遅れて覗き込めば、本当にそこは銭湯と同じくらい広い脱衣所だった。
「バスタオルいっぱいありますね」
「ウォーターサーバーまであるな」
「見て! 牛乳の自販機!」
自動販売機のランプは点っていて、試しに押したら牛乳が出てきた。ランプは消えないから、きっと人数分の牛乳が手に入るんだろう。
「これは……すごいな……」
風呂場の扉をあけたのだろう。感心したような鋭心先輩の声に従ってそちらを覗けば、本当に銭湯と言っても差し支えのない広さの風呂がある。
「……もう驚かないと思ったけど……すごいね、これ」
「……秀、百々人……思ったんだが、」
「俺もです……ねぇ、ここが事務所だとしたら、サイズ感おかしいですよね?」
「僕は気にならないよ……不思議なことがあったって、いまさら……」
明らかに、今まで見てきた部屋を収めるには事務所の入っているフロアだけでは収まらないだろう。いまさらだけど、やっぱり驚くものは驚く。
「これ……体育館あけるのいやだな……」
「本当に体育館があったらどうする……?」
「……いい汗を流して、風呂にはいれるな……」
嫌な予感は当たるもので、俺たちが残った扉を開けた先には正真正銘の体育館が広がっていた。
***
「もう一回!」
「そろそろマユミくんに交代しないと、マユミくん退屈しちゃうよ」
「そっ……れは、そうですけど……」
結論から言う。俺たちはバスケを始めた。一対一の真剣勝負。残された一人は応援だ。
結局のところ手がかりは『九時間眠る』というルールだけ。張り紙の内容に嘘偽りはなく、冷蔵庫から取り出したコーラやら麦茶やらは冷蔵庫を閉じてすぐに開いても足されていた。入っていなかったアイスなんかは、各々好き勝手に冷蔵庫前で希望のアイスを言えば冷凍庫にすぐ現れる。もう疑いようもなく、これは不思議な家だった。
なので、最終目標は九時間眠ることだ。ならのんびりしていても仕方が無い。俺たちは学生らしく、よく遊び、よく食べ、ゆったりと風呂に入ってぐっすりと眠ればいい。
「バスケだと一人暇になっちゃうね」
ずっと三人で筋トレをしてもいいが、せっかくなら楽しい方がいい。
「ああ……全員で動けるもの……例えば、プールがあればな」
がごん。鋭心先輩の言葉に従うように、なんだか重たい音がした。
「鋭心先輩ー……俺、振り向きたくないです」
「……悪気はなかったんだ」
「後ろ、壁でしたよね?」
「……せーの、で振り向こうね」
せーの。俺たちが振り向いた先には、『プール』と書かれた扉があった。
余談だが、たった三人で占領したプールはとても楽しかった。
***
「気持ちいい……」
「とけそー……」
「動いた後だから、余計にいいな……」
お風呂はびっくりするほど広くて、鋭心先輩ですら足を伸ばしてさらに余裕があった。熱めのお湯、ぬるめのお湯、ジェットバス完備。ほんと、インターネットが通じないことと玄関が開かないことを除けばここは天国だ。
冷蔵庫からたくさん飲み物とアイスを持ち込んだから、熱い風呂に入りながらコーラが飲める。さっき溶ける前にと慌てて食べたアイスもおいしかった。ほんと、玄関さえ開けばいいのに。
「ほんと、なんでもあるからすごいよね」
「なんでもあるっていうか、なんでも出てくるっていうか……」
そうか。そう呟いた鋭心先輩はしれっと口にする。
「サウナがあればな」
がごん。出現する扉。
「……鋭心先輩、この家に慣れてきましたね」
俺の言葉に笑いながら百々人先輩が口にする。
「水風呂もほしいなぁ」
がごん。
俺もなにか、言うべきだろうか。
***
「松阪牛。本マグロ。あと何か……普段食べれないやつ……」
風呂の後は食事だ。言えば現れるんだからおいしいものを食べようと俺たちは頭を悩ませていた。
「他に高級食材……先輩たちは何か知りませんか?」
「えー……松茸とか?」
「調理法を俺は知らないが……秀と百々人はわかるか?」
そう、そうなのだ。俺は多少料理が出来るけど、ここに居るのは作るより食べるのが仕事な男子高校生だけだ。
「もういいか……普通に料理を言っても出てきそうだし」
冷蔵庫で冷える前に取り出せばいい。「からあげ」「ハンバーグ」「ピザ」「カレー」好き勝手に口にして冷蔵庫を覗くが何もない。突然ルールが通用しなくなり狼狽える俺たちの肩を叩き、百々人先輩が視線を誘導する。テーブルの上には作りたての料理が置かれていた。
「いいにおい……」
「お腹すいてきましたね」
「百々人はなにか食べたい物はないのか? 先ほどから俺たちばかり要望を言っている」
そういえば百々人先輩は何も言っていない。言葉を待てば、困ったように百々人先輩が笑った。
「……じゃあ、うどん」
「ああ、うどんいいですね」
「好きなのか?」
うん、と百々人先輩は柔らかい声を出した。そういえば、主食の話をしていない。
「これ、多分言えばこの炊飯器にご飯がでますよね」
「そうだな」
「米の銘柄……どうしますか?」
なんでもいいと先輩たちは笑う。いや、どうでもよくないでしょ。
「じゃあ決めちゃいますからね」
口にすれば炊きたてのご飯の匂いがただよった。炊飯器を開ければ、そこにはつやつやのご飯が詰まっている。
「わぁ、すごい」
「百々人先輩も、うどんだけじゃなくて米も食べたらどうですか?」
「あ、……うん。ちょっと食べようかな」
「食べ放題ですからね。遠慮せず食べまくりましょう。お腹一杯になったら眠くなりますよ」
「……そうだね。ちゃんと、食べなきゃ」
「……百々人先輩?」
なんか違和感があったけど、肝心の正体は掴めない。もう一言、何かを言う前に鋭心先輩が俺たちを呼ぶ。はーい、と百々人先輩は嬉しそうに応えながらテーブルに向かったので、俺も三人分の米をよそってテーブルへと向かった。
料理はおいしかった。お腹が空いていたから、俺も鋭心先輩もご飯を三杯おかわりしてピザも食べた。
百々人先輩はうどんを食べてたけど、からあげとかハンバーグも口にしていた。あんまり食べないのかな、と思って、あんまり食べませんね、と聞いた。
「あ、…………僕、動くと逆におなか減らないんだ」
そういうものなのか。百々人先輩が言うなら、そうなんだろう。
「ラーメン食べたくないですか?」
「それなら、チャーハンもだな」
「二人とも、食べるねぇ」
俺は塩。鋭心先輩は醤油。俺たちのことを、百々人先輩はそれをのんびりと見つめていた。
***
コタツが本格的な睡魔を連れてくる。でも、ぐっすりと眠るならコタツはダメだろう。
リビングを探索した結果手に入れたアイテムは、テレビゲーム、ボードゲーム、勉強道具、筆記用具、積み木、落書き帳、などなど。
「ゲームありますけど……デジタルゲームって眠りが浅くなるんですっけ?」
「なんか、そんなイメージあるよね」
勉強はどうだろう。なんだか、頭が冴えると眠れないと聞いた気もする。でも五限目の授業は眠たいし、どっちだろうか。
「もう一度風呂に入るのもいいな」
「食べたあとにお風呂入ると、消化に悪いって聞いたことあるよ? 休んでからのほうがいいかも」
「うーん、良質な睡眠ってなんでしょうね……?」
調べようにもインターネットは繋がらない。そもそも、そういうのって『諸説アリ』ってイメージだ。いつまでこの家のルールが守られるのかはわからないが、できれば早めに脱出したい。こんなにめちゃくちゃな部屋に閉じ込められていても、俺たちの腹は減るしスマホは順調に時間を刻んでいる。学校にもいかなければならないし、来週は仕事がある。外部からの助けをただ待つよりは、できることをしたほうがいい。
ただ、少しだけ不安もあった。
「……俺、いつも夜遅いけど朝は起きるから、逆に眠れるかな……? 九時間とか、高校入ってから寝たことないかもしれません」
「アマミネくんも? 僕もだなぁ」
「九時間はなかなか長いな……俺も普段はそこまで寝ない」
疲れ果ててお腹もいっぱいの俺たちならいける気がしているが、九時間って考えてみたら長い。眠くなる限界まで起きていようとも思ったがそれもよくないのではないかという話になって、日付が変わるころには眠ることにした。
「あ、二人とも、ちょっと待っててください」
台所に行って、望みを口にする。電子レンジには、三人分のマグカップが現れていた。
「はい、百々人先輩、鋭心先輩。ホットミルクです。よく眠れるって聞いたことがあります」
「あ、僕も聞いたことある」
「ありがとう、秀。いただきます」
そっと口をつけたホットミルクはあたたかくて少し甘かった。ふわりとはちみつの味がする。
「……おちつくね」
百々人先輩の柔らかな声はなんだかホットミルクにぴったりで、眠れないかもって不安が少し軽くなった。
そうやって、一緒の夜にいた。窓がないのが残念だった。俺たちは、ふかふかのパジャマで、ホットミルクを手にして、ベランダで星を見れたらなにを話すんだろう。
「……寝よっか」
そういえば、この家はベッドだけはどんなに望んでもひとつだけだった。
「同じベッドで誰かと寝ることはないから、不思議な感じだ。そもそも、同じ部屋に誰かが居る状態で眠ったことが久しくないな」
「俺は……同じ部屋はあっても同じベッドはないですね。それこそ、本当に子供の時だけです」
ふと、親友を思い出す。アイツといるときは必ず何かに夢中だったから、寝落ちって表現がピッタリくる眠り方しかしたことがない。俺は椅子で寝てて、アイツはクッションを抱えてベッドに上半身だけ乗ってたり、とか、そういう浅い眠りを思い出す。
「……そうだね。川の字になるなら、アマミネくんが真ん中かな?」
「かわいい後輩ですからね。二人を蹴っ飛ばして床に落とさないように気をつけますよ」
寝室のタンスにはパジャマがたくさんあった。各自好き勝手なパジャマを身につけたら、ぱしゃりとシャッター音がなる。
「……なんですか、百々人先輩」
「ん? なんかパジャマパーティみたいだなって思って」
ネットが繋がったらグループトークに送るね、と百々人先輩が笑う。
「これから仕事で、嫌ってほど同じ部屋で寝ますよ、きっと」
「そうだな」
だいぶ仲良くなった俺たちだけど、パジャマパーティをやろうとは言い出せなかった。俺も、百々人先輩も、鋭心先輩も、みんな。
でも、やってもいいかな、とは思う。二人がどうかは知らないけど、俺は別に、いいって思う。
「そういえば」
鋭心先輩はいつもの口調で、かなり大切なことを言う。
「俺はこの家を『全員が九時間眠らないと誰も出られない部屋』だと認識しているが、この家がもしも『九時間寝た人間だけが外に出られる部屋』だと困る。誰かが起きてしまったら、その時点で残りの全員を起こすことにしよう」
「あっ、それは大切ですね……そうじゃないと、誰かを置いていく可能性がある」
盲点だった。俺は全員が九時間眠れば玄関の扉が開くと勝手に思っていたが、こんな不思議な家だ。眠った人間から煙のように消え失せたっておかしくない。
だが、感心する俺をよそに百々人先輩は全く異なる意見を口にした。
「逆じゃないかな。絶対に寝てる人の邪魔をしないで、一人でも外に出てもらった方がいいと思う」
「助けを呼べる環境ならそうかもしれない。だが、ここに戻ってこられる可能性はほぼないと俺は思う。助けを呼ぶことが不可能なら、置いていくのはよくないだろう」
「……それはたんなる感情論だし、一人のほうが眠りやすいかもしれないよ? それに、例えば二人くらいが戻れれば一人は体調不良ってことにしてユニット活動ができる。……短時間なら一人で残されてもいいし、長く出られないならなおさら、誰かが外に出て、クラスファーストを守らないと」
「……『ぴぃちゃん』のために、ですか?」
俺の言葉に百々人先輩は頷く。そんなに悲しく微笑むのなら、こんな仮定の話をしないでほしかった。
「……って言っても、この話は平行線だね。マユミくんは起こす。僕は起こさない。それでいいんじゃないかな?」
「……逆だろう。置いていくのが嫌な俺は起こしてもらえないと困る。だがひとりでも外に出らればいいと言う百々人の事は誰も起こすべきではない」
「うーん、それもちぐはぐなんですよね。だって百々人先輩が起きちゃっても、誰も起こさないでしょう?」
今回のケースでは、自分の望みが反対意見を言っている人間の行動に左右されてしまう。かといってここで議論を白熱させても、きっと意見はまとまらない。
「……気合いで全員九時間寝る。結局これだけですよ」
「天才らしからぬ意見だけど……結局そうなっちゃうんだよね。いつかは九時間眠らないといけないし」
「まぁ、可能性の話だからな。一人一人外に出されると決まったわけじゃない」
眠る前に不安にさせた。と鋭心先輩が申し訳なさそうに呟いた。俺たちは問題ないと言って三人でベッドにあがる。三人で寝ても、たっぷりとした余裕があるほどベッドは広くちゃんと掛け布団と枕は人数分あった。
「すごい、ふかふかですね」
「え? ほどよく固くて眠りやすそうだけど……」
「……俺には、家のベッドと同じように感じる」
「……つまり、これも不思議なベッドってことですね」
百々人先輩はベッドは固めが好きで、鋭心先輩は自分のベッドが一番好き、ってことだろう。そして俺のからだはふかふかを所望しているらしい。無事に戻れた暁にはベッドのマットレスを買い換えるべきだろうか。
「電気を消すぞ。豆電球は必要か?」
「僕はどっちでもいいかなぁ」
「俺も。でも何かあったときに真っ暗よりは少し明かりがあったほうが動きやすいかもしれません。鋭心先輩も大丈夫なら、豆電球がいいんじゃないですか?」
「それもそうだな。俺も問題ない」
鋭心先輩がリモコンを取る。
「消すぞ。豆電球はつけておく」
「はーい。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
恋バナをしようとか、そういう修学旅行みたいなことは誰も言わなかった。
俺はふかふかのベッドに沈み込んで、少しだけ起きていた。大丈夫、大丈夫。不安を封じ込めるようにして深く深呼吸をする。鋭心先輩は寝た気配があって、百々人先輩は気配自体がしなかった。スマホを弄らない夜は本当にひさしぶりだった。日課の情報収集もソシャゲのデイリーもやらないで、それでも当たり前に眠気はやってきて、俺は気がついたら眠っていた。
***
気配とか、予兆とか、ましてや悪夢とかでもなく、俺は普通に起きてしまった。
やってしまった、と思う。窓のない部屋では朝か夜かもわからないけど、ただ俺が変わらずにベッドにいるというのがなによりの証明だ。
鋭心先輩は起こせと言っていた。百々人先輩は起こすなと言っていた。さて、どうしようかと思案を巡らせば、荒い呼吸が聞こえてくる。
「……百々人、先輩?」
ふと左を見たら、百々人先輩がベッドに腰掛けているのが見えた。百々人先輩も起きてしまったんだろう。そして、言った通りに俺たちを起こさなかったに違いない。
百々人先輩はずっと肩を上下させている。俺に気がついていないのだろう。俺も起きちゃったし、鋭心先輩も起こしませんか? そう聞くつもりでその肩に触れた。
「大丈夫ですか? 呼吸が荒いみたいですけど……」
触れた肩がぴくりと跳ねる。ひっ、と短い悲鳴みたいなものが聞こえて、目に涙をいっぱいに浮かべながら百々人先輩はこちらを向いた。
「ぅ……あっ……アマミネ……くん……?」
百々人先輩は俺を見て、なおさら深く息を吸った。ひゅっ、と喉が鳴って、息苦しそうに喉を掴んでしまう。そのまま、ぜえぜえと苦しそうに息を吸っている。
「っ……! 百々人先輩!? 大丈夫ですか!?」
「あ……ごめ、なさ、……ごめん……ぼく、アマミネくん……起こし……」
断片的に吐きだす言葉以外にうまく息を吐けてる様子がない。よくアニメとか漫画で見る過呼吸の症状によく似ていた。
「百々人先輩、息ちゃんと吐いてください! ……鋭心先輩、起きて!」
「だめ! だめ、ぼく……ごめん、ごめんなさい、だから……だめ、おきないで、」
「ダメじゃないです! 大丈夫だから、ゆっくり息吸って、吐いて、」
鋭心先輩、ともう一度大声を出した。それを止めたいのだろう、百々人先輩が俺の手を掴んで──バッと手を離し、前のめりに倒れこんだ。
「ぉえ……あ……がっ……」
びしゃびしゃと、何かが吐き出される音がする。床に座り込んだ百々人先輩はぐったりとうなだれて、げほ、と一度咳き込んで動かなくなってしまった。
「百々人先輩!?」
電気をつけて急いで近寄る。床には消化し切れていない夕飯が吐き出され、散らかっていた。
「ごめ……」
呟きかけた百々人先輩は吐き気を抑えるように手で口元を覆ってしまう。ぎゅっと堪えるように目をつむった百々人先輩の背中をさすりながら、つられてパニックになりそうな自分を叱咤する。
「秀、百々人、なにが……」
目覚めたらしい鋭心先輩がよってきて、一瞬で事態を察したのだろう。俺に声をかけて歩き出す。
「秀、百々人を見ていてくれ。吐かせられるなら全部吐かせてしまったほうがいい。俺は水を取ってくる」
「あ……はい! ほら、百々人先輩。吐けそうなら全部吐いちゃいましょう」
今にも倒れそうな上半身を支えて、背中をさする。百々人先輩は「よごれるよ、」と言おうとしたんだろう。「よご、」までを口にして、また手のひらで口元を覆ってしまう。
「大丈夫です。汚れたら洗えばいいんです。吐けなかったら無理しないで、でも吐けるなら吐いた方がきっと楽です」
百々人先輩が俺を軽く押す。従うように少し下がれば、百々人先輩は堪えきれずにもう一度、胃の中のものを吐き出した。
駅で酔っ払いの吐瀉物とかは見たことがあるけど、知り合いのそういうところを見るのは初めてかも知れない。汚いとか、嫌だとか、そういう感情は置いてけぼりになっていて、ただ形がそのまま残っているうどんだったものを見て、この人の胃がまったく動いていなかったことを知る。
「うどんが好きなんじゃなくて、うどんくらいしか食べれなかったんですね」
百々人先輩が気にしないくらいの距離は保って、腕を伸ばして背中をさする。
「……おなかいっぱいになったら眠くなる、とか。無責任なことを言ってごめんなさい」
「……ちがう、ちが、」
「百々人、水を持ってきた」
鋭心先輩がペットボトルの水と洗面器を持ってきた。水を手渡して口をゆすぐように鋭心先輩が言う。百々人先輩は言われた通りに水を含んで、ぺっ、と吐き出した。
「……まだ吐きそうなら無理をしないで吐け」
鋭心先輩は百々人先輩の横に座って肩に手を置いた。百々人先輩は鋭心先輩だけ距離を許しているのか、はたまたもう遠ざける気力もないのか、鋭心先輩にからだを預けるようにしてしばらく肩を上下させていた。
しばらくそうしていたんだと思う。俺は動けなくて、百々人先輩と少しだけ距離がある。
「……起こしてごめんなさい」
ようやく落ち着いたらしい百々人先輩が真っ先に口にしたのは謝罪だった。
「俺は起こせと言った。問題は無い」
「ちがうの、ごめんなさい、寝れなくてごめんね、起こしてごめんね……迷惑かけて、ごめんなさい」
ぐっと呼吸が詰まる音がしたから、俺はとっさに距離を詰める。また息がうまくできなくなるんじゃないかと心配してその息を追えば、それは嗚咽へと変わった。
「……ごめんなさい……ぇっ……う……ごめっ……なさ……ぅ……っ……ぼく……」
「問題ない。水は飲めそうか? ゆっくりでいいから、呼吸を落ち着かせろ」
「そうですよ。それに俺は百々人先輩とか関係なしに起きたんです。百々人先輩が寝てたって、俺が鋭心先輩を起こしてました」
こういうとき、こうやって誰かが自分を責めているとき、俺の言葉は驚くほど届かないって知っている。それでも、一欠片でも伝わったものが何かを変えることも知っているから、俺は言葉を選んで、なるべく柔らかい声色で話しかける。
「一回泣くと泣き止むの大変ですからね。無理せずに。泣いてても大丈夫ですから」
「そうだな。……俺はタオルを取ってくる。冷やしたものと温かいものを持ってくるから、気持ちがいいほうを頬か額に当てるといい」
鋭心先輩はまた立ち上がる。俺には何ができるんだろう。なにも思い浮かばずに、俺はずっと「大丈夫」だと口にしていた。
***
「ごめんなさい」
落ち着いた百々人先輩の第一声はやっぱり謝罪だった。
しばらく冷やしタオルを当てていた百々人先輩が落ち着いたので、服を着替えさせて三人でリビングへと移動してソファーに座っていた。
「謝る必要は無い」
謝罪に対しての意見は俺も鋭心先輩も一緒なので、自然と回答も同じものになってしまう。うんうんと俺も頷くしかないのだが、百々人先輩の顔色は晴れない。
しばらく三人とも黙っていた。
「……邪魔して、ごめん」
「だから、気にするなと」
「二人は寝てきて。僕はここに居るから」
もう起こさないから。そう言って百々人先輩は背もたれに沈み込んで目を閉じてしまった。
「今度は、邪魔しないから」
「……それは俺の望みではない。ここから三人で」
「僕は無理だよ。僕、眠れないんだ。もうずっと、いつも三時間くらいしか眠れない」
もう百々人先輩は泣かなかった。淡々と口にしたそれは事実なのだろう。
「……あ、僕が汚したから戻れないのかな。待ってて、いま掃除するから、」
「百々人先輩!」
わかって言ってるのか、わからないで言っているのか──後者だったらあまりにも惨めだ。こんなに、こんなにそばにいるのに。
「……百々人先輩は俺たちに外に出てもらって、クラスファーストを守ってもらうのが望みなんですよね?」
「……うん」
「でも、百々人先輩が出られないなら、守るべきクラスファーストはないんです。俺たち、三人でクラスファーストでしょう?」
「その通りだ。クラスファーストを守るというなら、百々人、おまえは必要だ」
百々人先輩は喜びもしないで不満げな顔をしている。こういうときは素直に喜べばいいのに、きっとなにか俺にはわからないもやみたいなものが彼には絡まっていて、感情が良いほうに浮かぶのを邪魔しているんだろう。
「……俺たちが百々人を置いていくことはない」
「そうです。大変かもしれないし、辛いかもしれないけど……百々人先輩には絶対に眠ってもらいますから」
「……眠れないだけでこんなに大変なことになる日がくるなんて、思わなかったよ」
百々人先輩は観念したように微笑んだ。彼はやっぱり不満げだったけど、俺と鋭心先輩はきれいにそれを無視して話を進める。
「考えよう。百々人が眠れる方法を」
「……うん。でも本当に、ずっと眠れなくって……」
「まずは原因を考えよう。心当たりは?」
「ん……」
鋭心先輩と百々人先輩が話し出すのをぼんやりと聞きながら俺は少し別のことを考える。玄関にあった張り紙と、同じく紙に記載されていたルール。ルール通りに思い通りになる部屋。なんでも取り出せるのだから、何か必要なものはないか。何があれば出られるのか。覆せるルールはあるのか。
なにかあるはずだ。考えて、考えて、考えて、俺は思いつく。
「……あの、先輩」
「どうした、秀」
我ながらマヌケな思いつきかもしれない。でも、今日一日くらい無駄にして、ちょっと試してみるのもありかもしれない。今日を無駄にするかもしれない思いつきだという前提を伝えた上で、俺は口にする。
「ちょっと、試してみたいことがあります」
***
「これは……」
「なんか、一周して天才だよ……」
「……俺だって、ちょっと力技すぎるかもとは思ってます」
玄関に持ち込んだ画用紙を広げ、文字を書く。そうして、それを玄関の『九時間寝ないと出られない部屋』にぺたりと貼り付けて、俺の思いつきは終了だ。
「これなら僕らにもできそう、かな」
「まぁ、これで無理なら明日考えよう。今日はどのみち九時間は眠れないだろうしな」
「そうですね。あとは……この通りにルールが変わっていれば、簡単に出られます」
俺たちが眺める玄関の扉に貼ってある紙、の前に貼り付けた紙には『三人合計で』と書いてある。こうすることで、いま、この家は『三人合計で九時間寝ないと出られない部屋』になったわけだ。
「あとはここがちゃんと『三人合計で九時間寝られないと出られない部屋』になってることを祈るだけですね」
「なっ……てるかなぁ?」
「考えても仕方ないだろう。これなら三時間ずつ眠れば済むし……百々人がたとえ一睡もできなくても問題は無い。俺と秀の二人でも、合計九時間なら眠れるだろう」
鋭心先輩が歩き出すから俺たちも戻る。俺は少し眠いから、鋭心先輩とあわせて九時間だとしても、きっと楽勝だ。
「……ふふ」
「……なんですか、百々人先輩」
「あ、ううん……あはは、これはひどいなぁ、って思っただけ」
「試すだけですよ。今日は様子見です」
「うん……ありがとうね。僕が気にしないようにふざけてくれたんでしょ?」
「買いかぶりありがとうございます。俺はマジですよ」
そりゃ、ちょっとは百々人先輩が笑ってくれたらいいなって思ったけど、六割くらいは真剣だ。百々人先輩が俺の言葉をどう受け取ったのかは知らないけれど、笑ってくれたからなんでもいいか。
***
ベッドの真ん中は百々人先輩を配置した。俺と鋭心先輩はアラームをしっかりセットして、念を押す。
「俺たちが5時間眠っても何も起きなかったら失敗です。ちゃんと起こしてくださいね」
二人合計で九時間だから、大まかに五時間のタイマーをつけた。百々人先輩が眠れたなら、それが一番いいんだけど。
「絶対アラーム切らないでくださいね」
「わかってるよ……ちゃんと起こすから、三人で出ようね」
「ああ」
距離はちょっとだけ近い。さっきほどは離れられずに、俺も鋭心先輩も百々人先輩のすぐそばにいる。
「じゃあ百々人先輩……眠れたら寝てくださいね。一人にしちゃって、すみません」
「ううん……ありがとう。おやすみ」
電気が消える。ぼやりとした、豆電球の明かりが灯る。
俺はしばらく起きていた。鋭心先輩はきっと眠った。百々人先輩は気配がない。さっきと、距離以外は一緒だ。
「……どうしたの?」
優しい声だった。俺は許されたような気がして、手を伸ばして百々人先輩に触れる。
「……おやすみなさい」
嫌だなって思った。この人を置いて眠るのが、ひどく嫌だった。肩に触れていた手に、百々人先輩の手が触れる。
「……おやすみ」
百々人先輩は目を閉じなかった。俺はこの人が眠れるようにと願いながら意識を閉じた。
***
アラームが鳴る前に目が覚めた。肝が冷える。もしかして、失敗したんだろうか。
数秒でそれは勘違いだと知る。俺の視界に広がっていたのは見慣れた天井だった。俺はふかふかじゃない俺のベッドで寝ていて、当たり前にある窓からは太陽の光が差している。
「……夢?」
夢じゃないと思っていたが、ここまで突拍子もないと夢でもおかしくないと思う。
二人に連絡をしてみようかと思ったが、なんと聞けばいいのだろう。言い方によってはバカにされる──いや、心配すらされるだろう。
送る言葉も思いつかないままにグループトークを開く。すると、そこには写真とメッセージが届いていた。
「……夢じゃないじゃん」
送信者は百々人先輩。写真は俺と鋭心先輩の寝顔だ。あの広々としたベッドで眠る俺たちを撮った写真は豆電球のたよりない光源しか得ることはなく、ざらざらとしたノイズが混じっている。
『マユミくんって寝顔が意外と幼いね』
『アマミネくんはかわいい』
簡素なメッセージが二件と、ひよこが笑顔で「かわいい!」と喜んでいるスタンプがひとつ。既読は1だから、きっとまだ鋭心先輩は眠っている。
『ほんとに、鋭心先輩幼く見えますね』
自分の事は無視して、俺は初めて見た鋭心先輩の寝顔への感想を送る。なんだかちょっと笑ってしまった。でも、ちょっとだけだ。あの人はやっぱり眠れなかったんだなって思う。少しだけ寂しいと思う。ずっと、眠る俺たちを見ていたんだなって思う。何時間も、何時間も、置いてけぼりで、起きていたんだろうか。
『……この写真撮った後、眠れましたか? 先輩は』
途中まで打ったメッセージを送信前に消す。こんなこと、俺に聞けるはずもないんだ。