キミに恋してない たまにアマミネくんがきらきらしてるのって、なんでなんだろう。
例えば今みたいに三人でぼんやりとどうでもいい話をしているときなんかは、きらきらしてるって思わない。してるのかもしれないけど、ちょっとわからない。それでも、たまにアマミネくんはきらきらに見える。それは僕がアマミネくんに抱くぐちゃぐちゃした感情のせいなのかもしれないけど、それできらきら見えるってどういうことなんだろう。そんなことを思っていたら、アマミネくんはエスパーみたいに口にした。
「そういえば、好きな人がきらきら輝いて見えるって言うじゃないですか」
「え?」
「聞いたことがあるな」
マユミくんは賛同したけど、僕はとっさに「知らない」って言ってしまった。でも、「違う」と言わなかっただけ褒めてほしい。だって輝いて見えるのは好きでもなんでもないアマミネくんだったから困ってしまったんだ。いや、嫌いじゃないけど、こういうときに言う『好き』とは絶対に違うってわかってる。
「まぁ、言うとして」
アマミネくんは続ける気だ。そうなると、もう僕は微笑むことしかできない。
「あれって『好きだからしっかり見よう!』って思った脳が瞳孔を無駄に開き過ぎちゃって、取り入れすぎた光できらきら見えるんですって」
ネットの話だからどこまで信じていいかわからないけど、ってアマミネくんは言う。でも、なんか信憑性のありそうな話で──嫌だった。
「……それなら、死んだときも瞳孔は開くから、死んだ人は世界がきらきらして見えるのかもね」
それでも真っ向から肯定はできなくて、苦し紛れに話題を変える。すると、マユミくんがぼそりと呟いた。
「それなら、緊張やストレスでも瞳孔は開くと聞いたことがある」
「ロマンがないですね……」
アマミネくんは呆れていたけど、僕はなんだかしっくりきてしまった。僕がアマミネくんに恋心を抱くより、緊張で瞳孔をめいっぱいに開いているというほうが、なんだかしっくりきてしまったからだ。
アマミネくんはなんだか考えていて、マユミくんは何も言わない。僕はぼんやりと思う。僕がアマミネくんのことを嫌いになったら、彼のきらきらはなくなるのだろうか。それとも、僕がアマミネくんのことをもう少し好きになれたら、このきらきらは終わってくれるんだろうか。
いつだってきらきらしてるわけじゃない。すごいな、って思った時、彼はたいていきらきらしている。マユミくんにはないきらきらは、どんな感情からきているんだろう。
「……緊張だったら、ちょっと凹みますね」
さらりと心を読まれたのかと思った。そうではないと知るまでに、たっぷり数秒はかかったと思う。僕の心臓がドキドキしているなんて欠片も知らず、アマミネくんは悲しそうに呟いた。
「俺、言われたことあるんですよ。おまえはいつもきらきらしてるな、って」
その声のトーンから、それを言った人間はアマミネくんにとって大切な人なんじゃないかって、そう思った。覚えてるって事はそういうことで、きっと彼は誇らしかったんだと思う。僕の些細な心のせいで、彼の思い出に傷をつけたことだけはなんとなくわかる。
「覚えているということは大切な人だったんだろう。それなら、マイナスの意味ではないと思うが」
「仲はよかったですよ。……でも、いま思うと無理をさせてたって……そう思う相手なんです」
アマミネくんは少しだけ目を伏せて、次の瞬間にはケロッとしていた。少なくとも、そう見えた。
僕は何も言えない。なんでアマミネくんがきらきらしているのかがわからないのに、アマミネくんにそんなことを言った人の事なんてわかるはずもない。
でもね、どうしようもなく僕にはキミがきらきら見えるんだ。だけど、だから、不用意な慰めなんて、出来るはずがなかった。