スイーツパニック マユミくんが二人になってしまった!曰く、二人のマユミくんのうちの片方はパラレルワールドからきたマユミくんだそうだ。
彼らが言うにパラレルワールドに至る分岐点を作ってしまったのは他ならぬ僕で、なんでも僕が何の気なしにチョコレートとビスケットを取り出して「どっちのお菓子、食べる?」とマユミくんに問いかけたのが原因らしい。そこでマユミくんがどちらのお菓子を選ぶかで世界は分岐するのだと、彼らは言う。それってマユミくんのせいな気がするけど、分岐点の発生が悪いんだって。
とりあえず便宜上二人は『チョコのマユミくん』と『ビスケットのマユミくん』と呼ばれるようになった。アマミネくんが頭を抱えている。
二人に明確な違いはないように見えるが、彼らには大きすぎる違いがあった。なんと、あろうことかチョコのマユミくんは僕に恋をしていると言うのだ。恋するマユミくんがいる世界とそうではないマユミくんがいる世界のどちらがパラレルワールドなのだろう。僕は自分がどちらの世界の花園百々人なのかがわからなくて途方に暮れる。
恋というのは突拍子もないもので、チョコを選ぶとそこから会話はバレンタインの話になり、恋バナになり、そこで僕が言った何気ない言葉で「俺は恋に落ちる」のだとチョコのマユミくんは言った。人生、一寸先は恋なのだ。
「どちらでも好きな方の俺を選べ」
二人とも、そんなことを言う。分岐点である僕は時間を遡り、チョコレートかビスケットかを選んで世界を確定させなければならないと、彼らは言う。
どちらでも、だなんて一番困る言葉だ。選ぶのはいつだって苦手だった。そういうとき、僕は広い海にアスレチックに置いてあるたらいで放り出されてしまうような気分になる。いっそ水面に飛び込んで全てをうやむやにしてしまおうか、だなんて投げやりな気持ちになってきて、僕は責任を削り取るように六角形の鉛筆を手に取った。それに簡単な印をつけて、それを見せながら言う。
「転がして、マルが出たらチョコレート。バツが出たらビスケット」
同時にマユミくんたちが顔をしかめる。そりゃそうだ。でも、本当にどっちでもいいんだよ。恋があろうが無かろうが、キミはいつだって優しいんだから。でも流石にこれは酷かったかもしれない。なんせ彼らには存在がかかっているわけだから。彼らは僕に選んでほしいだろう。わかってるよ。わかってるけどさぁ。
分岐点に戻された僕はコンビニに寄って、マシュマロを手に取った。数十分後にはマユミくんが三人に増えているかもしれないけれど、どうしても僕には能動的に片方のマユミくんを殺すことが出来なかった。
運試しはダメなんでしょ? だったら、マユミくんなんて勝手に増えちゃえばいいよ。