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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    遊園地行くクラファ。ムカつくモブがでる。鋭心先輩がらしくない。(22/6/26)

    ##天峰秀
    ##花園百々人
    ##眉見鋭心
    ##カプなし
    ##C.FIRST

    あの日のあなたへ「おはようございます……あれ? 鋭心先輩、めずらしいもの見てますね」
     事務所のドアを開ければ鋭心先輩がいた。俺の言葉を聞いて、さっき下でバッタリとあった百々人先輩が俺の後ろから顔を覗かせる。
    「めずらしい? マユミくん何を見て……」
     ああ、と百々人先輩は小さく吐息を漏らした。そうしてあっさりと、自然に鋭心先輩の横に座る。鋭心先輩は持っていた雑誌をテーブルに置いた。
    「遊園地特集ですか。確か、彩のみんながこのまえ仕事してましたよね」
     鋭心先輩が読んでいたのはレジャースポットの雑誌だった。彩のみんなが遊園地を一日中遊び尽くした特集が乗っている。
    「ここにあったからな。他ユニットの仕事は参考になる」
     俺はふたりの向かいに座って雑誌を開いた。百々人先輩はそれを覗き込んだけれど、鋭心先輩は目線だけを雑誌に向ける。
    「なんだろうこの船。大きいけど、ゆりかご見たいにゆらゆら動くのかな?」
     百々人先輩が見ているのは大きな船のアトラクションだった。鋭心先輩は答えずに、ただ視線だけで誌面をなぞっている。
    「その船、一回転しますよ。ぐるんって」
    「えっ」
    「そうなのか?」
     ふたり同時に顔を上げて俺を見た。その表情がシンクロしていてなんだかちょっと笑ってしまう。『ぽかんとした』のお手本みたいに驚くふたりはなんだかかわいらしかった。
    「そうですよ。ブランコみたく揺れて……そのまま一回転」
    「ええ……落ちちゃう」
    「落ちちゃったら大事件ですよ。でも落ちそうでこわいんですよね」
     ぺら、とページをめくる。これはすごい早さで落下と急上昇を繰り返すアトラクションだ。
    「これは高いところを見る乗り物?」
    「いや、これはこう……」
     手を上下に動かす。その緩急を鋭心先輩は猫のように眺めている。
    「こうやって、いきなりすごい速度で上ったり落ちたりするんです」
    「ひえ……」
    「落ちるとき、からだ浮きますよ」
     そうやってページをめくっていく。俺がいくつかの経験則を披露した後、百々人先輩はぽつんと呟いた。
    「僕、実は遊園地って行ったことないんだよね」
    「そうなんですか?」
     意外だったけど俺は単純な疑問しか返すことができなかった。きっと踏み込んで力にならなくちゃいけないのに、いまの俺じゃただ傷つけるか、なんにも響かないってわかった気になっている。
    「うん。だからあんまりピンとこなかったな」
     いつもみたいに「マユミくんは?」って百々人先輩が聞くことはなかった。きっとそれは俺と同じ感情に起因しているんだろう。だって鋭心先輩は、『眉見の二世』なんだから。
    「……俺も遊園地に行った経験はないな」
     感情の見えない声だった。
    「あ、じゃあ僕とおそろいだね」
     百々人先輩はいつもの調子でそう言った。俺は一瞬だけつっかえた呼吸を取り戻すようにあいまいに笑う。
     触れてもいいことだと思う。百々人先輩に触れるのはこわいけど、鋭心先輩は大丈夫だと思ってる。事実、その『眉見の二世』がもたらした結果を俺は肯定したことがあるんだから。でも、どうしても、『遊園地に行ったことがない子供』というだけで、俺は先輩二人に同情していた。
     特集ページがメリーゴーランドやチュロスの話題になっていく。ふたりともチュロスは知っているだろうに、しばらくは無言でココアとシナモンのチュロスを見比べていた。
    「……行きたい」
    「え?」
     疑問をこぼしたのは俺か、百々人先輩か。
    「行ってみたいな」
     鋭心先輩はもう一度そう言った。なんだか、ひどく子供じみた声だった。

    ***

     俺たち三人が揃って遊園地に来たのはうっすらと雲が広がるパッとしない天気の日だった。百々人先輩は涼しくていいと言って、それに鋭心先輩が同意して、俺はなんとなくそういうものかと思う。二人がせっかく初めて遊園地にくるんだから、俺はもっともっと晴れてほしかった。
     開演前から並んで、乗り放題のパスも買った。走りはしなかったけど早足で一番人気のアトラクションに並んで園内で一番速いアトラクションに先輩たちを乗せた。正直、俺は絶叫系がそこまで得意じゃないけど先輩の悲鳴が聞きたくて我慢したのに、鋭心先輩はずっと顔色ひとつ変えなかったし百々人先輩は笑ってた。百々人先輩は速度の出る乗り物がとても楽しかったらしく、俺がゴーカートを勧める声を話半分に聞きながら、マンションくらいの高さからの落下を楽しむアトラクションを見ていた。俺はせっかくの初遊園地に水を差す気は無かったから、ふたりを引っ張ってそのアトラクションに向かう。百々人先輩は無邪気に笑って、それを肯定するように鋭心先輩が「高いな」と感心したように呟いていた。俺は声が出せなかったけど許してほしい。
     ふたつのアトラクションを乗った辺りで人も増え始めた。次のジェットコースターには30分くらいは並んだだろう。帽子を深めにかぶった俺と、マスクをした百々人先輩。そこでふと気がつく。鋭心先輩はなにも変装をしていない。
     大きな船のアトラクションにも乗った。一回転するこのアトラクションは、なんと逆さまの状態で数秒停止するから本当に怖いのに、百々人先輩は「さかさまだ~」と笑っているし鋭心先輩は「ああ、さかさまだな」と同意するだけで俺の賛同者はひとりもいない。
     昼ご飯の前にチュロスを食べた。俺がシナモンを、百々人先輩がココアを買った。迷っている鋭心先輩は、どうやら俺たちが買わなかったほうを買うつもりだったらしい。そうして俺たちが選ばなかった味を少しわけてくれるつもりだったようだ。鋭心先輩はあてが外れたような顔をして、悩んで、悩んで、シナモンを買った。
     お化け屋敷はスルーした。ビビっているのかとからかいたかったけれど、お化け屋敷よりもジェットコースターに乗りたいと二人のわくわくした顔が語っていた。もう一度俺たちは最初に乗ったアトラクションに並び直して、並んでいる間に昼はなにを食べるかなんて、雑誌をめくりながら話す。
    「彩のみんなは肉うどんがおいしいって言ってましたね」
    「いいね。あ、僕これも食べたい」
    「ポテトにチーズかけてチリソースかけて……すごいですねこれ」
     百々人先輩が指差した食べ物は、なんだか欲望全部盛りと言った貫禄だった。
    「これは……カロリーがすごそうだ」
    「ジェットコースターで叫んでるし、チャラじゃない?」
    「チャラなわけないでしょ。まぁ俺たち若いし、レッスンもしてるから余裕ですよ」
     百々人先輩は叫んでると言っていたが、俺は声がでないし百々人先輩の悲鳴は控えめだし鋭心先輩は無言だ。ジェットコースターから降りて、鋭心先輩を見て少し不安になる。鋭心先輩が楽しんでいるのはわかるのに、なんだか、どこかうわの空みたいでそわそわする。
     食べ物の屋台が並んでいる広場までは距離があった。ゆっくりと笑いながら俺たちは歩く。俺が肉うどんにすると言えば、鋭心先輩が「俺はカレーにする」と口にした。その声はいつものように明朗で、俺はなんだか安心する。それなのに、次に聞こえてきたのは百々人先輩の声じゃなかった。
    「あ! 眉見二世がいる!」
     それは見知らぬ男の声だった。その声に反応して、先を歩いていた女子高生の集団が足を止めてこちらを見る。
    「すげー。あーでも確かに二世って感じだわ。目元とか似てる」
    「ちょっとー、やめなよ-。あ、ごめんね? うちの彼氏ってばミーハーでさー」
     ずけずけと近寄ってきたのは大学生に見える男だった。俺よりも高い身長だけど鋭心先輩は越せないくらいの背をした男は遠慮無く鋭心先輩に近づいて、見上げるように、見定めるように『眉見の二世』を品定めする。
    「あれでしょ? いまアイドルやってんだよな」
    「え-? 眉見の息子なのに?」
    「ほんと、なんで?」
     遠巻きに見ていた女子高生までこちらにやってきてしまった。やだー、とか、マジ、とか、なんだかよくわからないけど騒いで、一人が男と同じように近づいてくる。
    「あの、今日の僕らはただ遊びにきてるだけなんです」
     普段みたいな温和な声だ。それでも、ずっと一緒にいる俺たちにはわかる、冷たい声だった。
     百々人先輩の声を聞いて、女子高生は「ごめんなさーい」と笑いながら謝って後ずさる。そのくせ遠巻きにスマホを構える友達を止めてくれることはなかった。男は一向に引かず、百々人先輩ではなく鋭心先輩を見た。
    「んだよ。感じわりーな」
     彼女と思わしい女が男の腕を取る。止めるつもりもなく絡まる腕が気持ち悪くて吐きそうだ。
    「二世が調子のってんな。どーせ親のコネで芸能界入ったくせに」
    「……は?」
     耳の裏側でどくどくと血液の音がする。なぜか、鋭心先輩の手が俺の胸を押している。
    「秀、やめろ」
     鋭心先輩に言われて、初めて俺が身を乗り出していることに気がついた。爪が食い込むほど拳を握りこんでいることに気がついた。一拍遅れて、俺自身が判断できないほどに冷たい声をだしていることに気がついた。
    「鋭心先輩、俺は、」
    「僕たちは楽しんでいただけで、あなたたちに迷惑はかけてませんよね?」
     百々人先輩が前に出た。その表情はわからないけれど怒っているのは伝わってくる。これは隠す気も無い敵意なんだろう。
    「……写真か動画かわからないけど、データは消してね? そういうの、法律で裁かれるんだよ」
     百々人先輩は淡々と女子高生に向けて警告をする。スマホを操作する気配のない女子高生に「おねがい」と呟いて、それを見届けないまま男の方を見た。
    「……用件はもうないですよね」
     男が動きかけて、そこで鋭心先輩は初めて前に出た。身長もあってからだつきのいい鋭心先輩が威圧すると迫力がある。男は舌打ちをして吐き捨てる。
    「たかだか二世がうぜーんだよ」
     男は背中を向けて歩き出す。俺が追いかけようとするまえに百々人先輩は俺を抱きしめるようにして動きを止めた。
    「アマミネくん落ち着いて。……マユミくん、大丈夫?」
    「……そうだ、鋭心先輩、大丈夫ですか?」
     鋭心先輩はなんだか不思議な顔をしていた。取り残された子供のような顔をしながら、呼吸はどこまでも穏やかだった。目には柔らかな感情が湛えられていて、平坦な心音が聞こえてきそうだ。
    「……ふたりに謝罪がある」
     真夏のプールみたいな温度で鋭心先輩は言う。一瞬だけひんやりするくせに、長く触れていたら溶け合ってしまうような声で晒すべき罪があると口にする。
    「……謝罪? マユミくん、さっきのはあの人達が悪いんだよ。だから、」
    「違う。俺はお前たちに謝らなければならないことがある」
     そう言って鋭心先輩はまっすぐに歩き出した。どこへ、と呟けば「うどんを食べないのか?」と聞き返されてしまう。
    「いや、先に話を聞きますよ。あっちにベンチがあるから……百々人先輩と鋭心先輩がいいなら、先に話しましょう?」
     そう言って俺は手を引く。雲が途切れてまばらに日が差していて、それがひどく憎たらしかった。

    ***

     俺たち三人は木陰のベンチに座った。人影のない、地味な場所だった。ぽつぽつと並んでいる木々は痩せていて、その中の一本が頼りない木陰を作って俺たちをうっすらと隠している。
    「……話って、なぁに?」
     百々人先輩がそっと鋭心先輩の手を取った。俺も反射的にもう片方の手をとる。俺たちに挟まれた鋭心先輩は一度深く息を吐いて、一度だけ「すまない」と言って口を開いた。
    「昔、ワガママを言ったことがある」
     誰に、とか。そういうのがなかった。物事を順序立てて丁寧に話す鋭心先輩らしくなくて、俺はちょっと不安になる。
     この人は、さっき確かに害されたのではないか。心臓がばくばくと鳴る。鋭心先輩は続ける。
    「小さい頃……と言ってもいつかは覚えていないんだが。俺は遊園地に行きたかったんだ」
     ふい、と鋭心先輩が遠くを見る。遠くにはジェットコースターがあって、いまにも悲鳴が聞こえてきそうな高さからまっすぐに落下して人々を楽しませている。
    「だが俺の親は『眉見』だ。当然、騒ぎになるからと断られた。……それでも、俺はどこかで諦めきれなかったんだろうな。あの雑誌を見たとき、思い出した」
     鋭心先輩が俺を見た。次に百々人先輩を見た。そうして、俺たちから視線を外して、足下を、過去を見つめる。
    「……今日、騒ぎになればいいと思った」
    「……え?」
    「どういう……こと?」
     これが鋭心先輩の謝りたいことだったのだろうか。さっきの騒ぎが、鋭心先輩の望んだことだったんだろうか。
    「まだ駆け出しの……俺たち程度の知名度しかないアイドルでも騒ぎになるのなら、『眉見』が遊園地にきたときの騒ぎはその比ではないだろう。だから、俺は……」
     淡々と、心地のよい声が聞こえる。揺るがないリズムで、ゆったりと罪を告白している。
    「……騒ぎになれば諦めがつくと思った。あの日の両親は正しかったのだと。俺のワガママは許されるものではなかったと」
     だからお前たちを利用する形になってしまったと、鋭心先輩は悲しそうに目を伏せて頭をさげた。
    「すまなかった。……俺は、どうしても諦めきれなかったんだ。あの日からずっと。……祖父母の誘いを断ってまで、俺は両親と遊園地に来たかった」
    「鋭心先輩……」
    「あやまらないで、マユミくん」
     俺は感情が迷子になってしまって、名前を呟くことしかできなかった。百々人先輩は優しい声をだしたけど、表情で胸を痛めていることがわかる。
    「……わからない」
     百々人先輩に背中を撫でられたまま鋭心先輩がぼんやりと呟く。
    「……俺は、傷つきたかったんだろうか」
    「鋭心先輩!」
     思わず大声が出た。強く肩を掴んでむりやりにこちらを向かせる。鋭心先輩の、秋に辿り着けない木々のような瞳の中に、泣きそうな俺が映っている。
    「鋭心先輩が傷つきに来たなんて嘘だ。だって、アンタ楽しそうだったじゃん。開演して早足で急ぐとき、ちょっと笑ってた。チュロス選んでるときだって、困ってたけど楽しそうだった。ジェットコースター乗った後も、高いところから落っこちたときも、アトラクション並んでるときだって、アンタ楽しそうだったじゃん!」
     そうだ。ちゃんと鋭心先輩は楽しそうだった。あの瞬間まで楽しそうだった。わかりにくく笑ってた。笑ってなくても楽しいってわかった。わかった気になってるだけだって、胸の奥から声が聞こえる。でも、もうそんなのどうだっていい。
    「傷つきに来たなんて言わないでください」
     おねがい。その言葉だけは口に出せたかどうか、俺にはわからない。
    「先輩を否定したいわけじゃないんです。それなのに……俺、だめだ。だってアンタ、楽しそうだったじゃん……」
     ぽす、と俺の頭に手を置いたのは百々人先輩だった。百々人先輩は片手で俺を撫でながら、空いた手で鋭心先輩を撫でている。
     しばらくそうしていたんだと思う。そこそこ大きな男と結構大きな男がそれなりに大きな男に頭を撫でられてるのが浮かれた遊園地に溶け込んで、きっと今の俺たちは滑稽だ。もう大丈夫だと意思表示をして百々人先輩の手から頭を離せば、鋭心先輩が観念したように言う。
    「……あの日、俺なりに調べていたんだ。俺だって、騒ぎになることくらいわかっていた」
     鋭心先輩が雑誌を取り出した。こんなに流行っているところじゃない、ってそっと呟く。
    「あまり盛況していない遊園地を調べていた。わかってたんだ……俺はただ、両親と飛行機のアトラクションに乗りたかった……」
     鋭心先輩は泣かなかった。俺は泣きそうだった。おなじ、遊園地に行ったことのない子供が、そっと鋭心先輩を抱きしめていた。

    ***

     打ち明けたらすっきりしたと言って、鋭心先輩はカレーを食べて肉うどんも食べた。まぁ俺もお腹がすいてたから肉うどんの他にホットドックも食べてたし、百々人先輩はジャンクなポテトを気にいって三人で一個だと買ったポテトを買い足していた。あとチュロスもまた食べた。
    「あと食べてないのはソフトクリームと……あ、見て、観覧車」
    「なかなか高さがあるな」
     少し離れたところに観覧者があった。真下に近い位置から見る観覧車は、なんだか別の乗り物に見える。
    「満腹でジェットコースター乗るのキツいし、乗っていきませんか?」
     俺の提案に同意した二人と一緒に観覧車に乗った。百々人先輩はスムーズに乗ったけど鋭心先輩は一瞬だけつっかえていて、新しい一面を見つけてしまう。
     ぐんぐんと観覧車は上っていく。下に飛行機のアトラクションが見えた。向かい合った百々人先輩はそれよりも遠くを見て、飴玉を差し出すように言う。
    「……有名になっても、また来ようね」
     大丈夫。そう囁きながら声をつむぐ。
    「僕らはマユミくんのお父さんたちよりも変装がうまいよ。だから平気。──それにね、もしも見つかったって、僕が守ってあげる」
     そう言って、百々人先輩は隣にいる鋭心先輩の頭をまた撫でた。もう平気だと鋭心先輩は苦笑するが、百々人先輩はにこにこするだけだ。
    「百々人先輩、『僕たち』ですよ。俺だって先輩を守ります」
    「ありがとう……ならば、今度こそ俺もお前たちを守ろう。…………ん? どうした?」
     守ると言いだしたくせに百々人先輩は鋭心先輩の言葉に照れてほんのりと赤くなっている。俺だってうっすらと頬が赤いのを自覚していて、なんというか鋭心先輩はたまにとんでもなく無防備でカッコいい。
    「っていうか、百々人先輩は甘いですよ」
     頬の熱さを振り切るように口にする。ふたりが俺を見ていて、その窓越しでは太陽が雲の切れ間から少しずつ顔を出していた。
    「俺たちは世界を変えるんです。それくらい有名なトップアイドルになってるんだから……遊園地くらい、貸し切っちゃえばいいんですよ」
     キョトンとした鋭心先輩はなんだかレアだ。先輩はふたりして同じ顔をしているもんだから、俺はなんだかちょっと愉快になる。
    「遊園地を貸し切って事務所の全員で来ましょうよ。もちろん呼びたい人は何人だって呼んでいい。鋭心先輩は家族を呼んで、好きなだけ遊ぶんです。ジェットコースターだって観覧車だって家族で乗って……飛行機のアトラクションだって、乗ればいい」
     鋭心先輩はまだ呆気にとられたような顔をしている。百々人先輩が、さっきとは違う笑顔を見せた。
    「……ふふ。いいね、それ」
    「でしょ? だから……昔の自分をあんな慰めかたしないでください。俺たちはもう、なんだってできるんだから」
     守りあって、支え合って、大切にできる。俺は少しだけ親友を思い出したけれど、それは感傷じゃなくて決意だ。俺だって親友と貸し切りの遊園地で遊びたい。百々人先輩は、誰を呼ぶんだろう。
    「……そうだな。なら、飛行機のアトラクションはそのときの楽しみに取っておくとしよう」
     観覧車が頂上に辿り着く。三人で言葉を消して、ただ遠くを見ていた。
     ふっと盗み見た鋭心先輩がふいにこちらを見る。鋭心先輩は短く俺たちの名前を呼んで「ありがとう」と呟いた。
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    85_yako_p

    DONEかなり捏造多めなタケ漣です。自分の知らない一面をなかなか信じたくないタケルの話。猫が死んでます。タケ漣とするか迷いましたが、タケ漣でしょう。(2024/10/12)
    野良猫の憂鬱 予感がした。それだけの単純であやふやな理由で俺はわざわざ上着を羽織って夜に踏み出した。目的地なんてあるはずもないのに、足は路地裏に向かっていた。
     歩けば歩くほど無意味に思える時間に「明日は朝から雨が降りそうだから、アイツを家に入れてやらないと」と理由をくっつければ、それはあっさりと馴染んでくれた。そうだ、俺はアイツを探しているんだ。訳のわからない予感なんかじゃなくて、でも愛とか同情でもなくて、この意味がわからない焦燥はアイツのためだ。
     明日が雨予報だってのは嘘じゃないけど、今夜は晴れていて月が綺麗だった。だからアイツがいたら一目でわかるはずだし、パッと探していなかったら今日は捕まらない。だから、と自分の中で線を引いてから路地裏を見ると、いつもチャンプが日向ぼっこをしているドラム缶の上にアイツがいた。片足をだらんと垂らして、片方の足はかかとをドラム缶のふちに乗せている。そうやって、何かを抱き抱えるように瞳を閉じている。
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