ないと困るだろ「レッカさん、とうとう体に機械いれるんですってね」
「……は?」
聞いてない。そう言えば組んだこともない後輩が意外そうに声をあげた。その声を聞いて、別にレッカが俺に了解を取る必要はないのだと想い至るがわざわざ言い出すことでもないだろう。
「……レッカはどこも機械化しない……だろ。アイツのこだわりっつーか、そもそもやる必要がない」
感覚がない機械の足で蹴り倒せば確かに威力はあがるだろうが、精度は落ちるだろうし扱いに慣れるまで時間がかかる。たかだか数週間でも戦線から離れるのを嫌がるイカレ野郎がそんなまどろっこしい真似をするとは思えない。
「それにレッカが最近した大きな怪我って指だろ? アイツは銃を使わないから機械化してまで保つ意味もないっていうか……」
「いや、日常生活でも指は動かせたほうがいいでしょう……」
「え……? だって薬指と小指だぞ?」
あんま使わないだろ。俺の言葉にドン引きした様子の後輩は、今すぐにでもこの場を離れたくなったんだろう。「まぁ、噂程度なんで」と言い訳のように呟いてその場を後にした。俺は真っ先にレッカの部屋に向かう。アイツの体はアイツのものだけど、なんだか無性に気にくわなかった。
「聞いてない」
「言ってないからな」
部屋まで押し掛けてみれば、アイツは機械化に当たっての手続きを進めているところだった。机の上には読むと考えただけでげんなりするような書類が散乱していて、こんな労力を払ってまで、嫌がっていた機械化をする意味がわからない。
「この前吹っ飛んだのって指だろ?」
「オマエ……逆にオレ様の指が吹っ飛んでんのを見てるくせに、よくそんな口が利けるよな……」
バカやろう、と俺と小突くレッカの左手にはあるべき指が二本ない。警告を無視して危険区域に入ったバカ野郎の命を守るためにレッカの指は吹っ飛んだ。
「……ま、カイの言いたいことはわかるぜ」
知ったようなことを言う。こういうときのレッカはだいたい全部をわかってる。
「機械だなんだってのはどーでもいいことで……オマエはオレ様がなんの相談もしなかったことに怒ってるんだよなぁ?」
「……悪いかよ」
そうだ。別に機械化でもなんでもしたらいい。ただ、バディである俺への相談もなしに決めるのは気にくわない。
「俺はバディだ。機械化をしたら変わることがいくつもあるだろ……相談される権利くらいある」
「こっちにゃ言う義理もねぇけどな」
そう言ってコイツは俺の目の前で書類にサインをした。指の欠けた左手を開いて、握って、開いて、笑う。
「それに、これはカイのためでもあるんだぜ?」
「俺の……?」
レッカが俺の左手を取った。その薬指に口づけて、ニッと笑う。
「オレ様の薬指がなかったら……エンゲージリングがはめられないだろ?」
「……は?」
「オマエがオレ様に惚れてんの、オマエは気づいてなくても天才のオレ様にはわかんだよ」
オマエは案外ロマンチックだから。そう言われて頬がカッと熱くなる。羞恥でも怒りでもなく、ただ混乱しただけでもこんなに頬に血が集まるなんて初めて知った。
「……俺がオマエを……好き……?」
「あーあ、だから相談しなかったのに」
その顔が見たくなかったんだよ、とレッカが笑う。呆然とする俺を見ながら、レッカは「ここはカイのために空けておいてやるよ」と指の欠けた左手をひらひらと振った。