例えば笑うと幼く見えたり マユミくんが本を出すことになった。なんでも、雑誌で連載していたコラムをまとめて出版するらしい。
そのコラムは僕も読んだことがある。マユミくんの好きな映画を中心として、マユミくんの好きなものが理路整然としたマユミくんらしい言葉で語られるとても好ましいものだった。アマミネくんと一緒に読んで、マユミくんってこういうのが好きなんだね、って話をしたりもしたっけ。
さぞかし素敵なものができるに違いないと他人事として楽しみにしていた僕は、マユミくんのお願いで一瞬にして当事者となってしまった。マユミくんは僕に著者近影を描いてくれるないかと頼んできたのだ。
なんで、僕に? その問いを受けたマユミくんは毅然とした男らしいカッコ良さでずいぶんと可愛らしい答えを返してきた。曰く、
「このコラムは俺がよいと思ったものや面白かった映画についてを書いたものだ」
「うん。僕も読んでるよ」
楽しそうで僕も幸せになると伝えた。そして、少しだけ妬けるとも。
「僕らにも、同じくらい話してくれればいいのに」
「む……俺としては、話が長くなるから自制しているんだが……」
それはさておき、とマユミくん。
「……俺は百々人や秀といるときが一番楽しいんだ」
「……うん?」
妬いたと冗談半分、本気半分で言った僕へのリップサービスだろうか。それにしても嬉しいことを言ってくれる、だなんて考えている僕にマユミくんは照れる素振りも見せずに言う。
「映画を見ている俺も、何かを好ましいと思う俺も、きっとお前たちの前が一番いい表情をしていると思うんだ」
幸せだから、と彼は言う。僕たちもだよって言う暇も与えずにマユミくんが口にした。
「だから、その表情を知っている百々人が描く俺が……百々人の描く著者近影が、俺が好きなものを語る本に一番ふさわしいだろう」
「……そっかぁ」
マユミくんが真顔だから代わりみたいに僕が照れてしまう。この人、本当にこういうところがあるよなぁ。
僕は二つ返事……いや、ぴぃちゃんを通して依頼を受ける。
僕たちだけが知る一番素敵なマユミくんを白日の下に晒すのは、もったいないけどなんだか誇らしかった。
後日、僕とアマミネくんは膝を突き合わせて会議をする。著者近影を頼まれた僕と、帯のコメントを頼まれたアマミネくん。僕らは僕たちだけが知っていた、マユミくんの話をしながらクリームソーダを飲み干した。