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    decayedLycoris

    @decayedLycoris

    ゴールデンカムイの二階堂推し。
    1日1作品挑戦中(20230312〜)

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    decayedLycoris

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    二階堂双子不穏夢小説。

    #ゴールデンカムイ
    Golden Kamuy
    #夢小説
    dreamNovel
    #二階堂浩平
    koheiNikaido
    #二階堂洋平
    yoheiNijido

    深淵 北海道の寒さなんて、もううんざりだ。
     いつものように、洋平と一緒に兵舎近くを見廻っていた。当たり障りのない兵舎周辺の警備とは別に、刺青人皮の情報も探りつつ。だけどそんなこと、寒すぎて真面目にできるかってんだよ。

    時刻は夕方。陽が落ちて、ぐんと冷え込む寒さに苛立ちを覚える。ちらつく雪を忌々しく思いながら、寒さで花の頭を少し赤くした洋平に声を掛ける。
    「寒くないか、洋平」
    「寒いに決まってんだろ、浩平」
     鼻、赤いぞって俺のことを指差して笑う洋平。
     ひひひ、と二人して笑った瞬間、肌を切るような冷たい風が俺たちの間を吹き抜けた。
    「うげぇ、寒ぃ!」
     首をすくめて洋平が声をあげる。あぁ、本当に寒い、馬鹿じゃねぇの。
    「少しさぼっちまおうぜ、洋平」
     辺りを見渡して、そう洋平に言った。
    「遅番の俺たち以外の隊員は早々に兵舎に戻ってんだ、別に咎める人間もいやしねぇよ。そうだろう? 洋平」
    「確かにな、馬鹿正直に従うこともねぇよな、浩平」
     そうして俺は垣根にもたれかかって、懐から煙草の箱を取り出した。寒さで箱を持つ手が震える。くそ、かじかんで指の感覚も何もあったもんじゃねぇ。
    「残り少ねぇから一本ずつだぞ、洋平」
    「じゃあもう半分ずつ吸おうぜ、浩平」
    「あぁ、それもそうだな」
     一本だけ取り出して、紙煙草を咥えた俺がマッチに火を灯す。それを洋平が両手で囲う。火をつけ、咥内から肺へと煙を送り込む。久しぶりの刺激、少しくらりとする感覚が心地良い。じぃ、と俺の一連の様子を見る洋平と目が合うと、自然とにやけてしまう。
    「なんだよ、洋平」
    「いや、嬉しそうに吸ってんなって思ってな、浩平」
     俺が吐き出した煙の向こうで、にやける洋平。
     二口目を吸い、ほらよ、と洋平に渡す。煙を吸い込んで、ふぅ、と吐き出す様子をみていると、洋平もやっぱり笑った。
    「やっぱりお前も笑ったな、洋平」
    「煙草がうまかっただけだ、浩平」
     そうして煙を吐き出す洋平の煙と俺の白い息が空に昇っていった。空を見上げたら、思い出したように寒さがやってきた。俺と同じように洋平も身震いする。
    「洋平、俺、遅番ってのは嫌いだ」
    「俺も嫌いだ、ただただ寒いだけだからな、浩平」
     うー、さみぃ。俺らだけの小言が暗闇に溶けて消える。あぁ、こんなところクソ喰らえだ。早く故郷の静岡に帰りたい。
     
     吸い終わった煙草を足で揉み消し、暫く経った頃。俺たちから少し先、暗い路地裏の方から争う声と鈍い音が聞こえてきた。
    「なんだろうな、浩平」
    「どうせ酔っ払いの喧嘩だろ、洋平」
     構うなよ、そう洋平に言って欠伸を噛み殺した。
     すぐ後、たたた、と路地裏から誰かが息を切らせて転がり出てきた。影の中、座り込む俺たちに気付かず走り去る姿は、月明かりに照らされて、こっちからはよく見えた。髪が乱れ、顔面蒼白な女。そいつが走り去り、完全に姿が見えなくなったころ、
    「何かあったな、浩平」
    「そのようだな、洋平」
     面白いものを見つけたな、そう言って俺たちはあの女が飛び出してきた路地裏へ様子を見に行った。
    「やっぱりな。死んでいるのか? 浩平」
    「どうだろうな…これは…あぁ、打ちどころが悪かったな。死んでるぜ、洋平」
     路地裏の奥、暗がりで何も見えないため、マッチを数本使って辺りを確認した。
     男が一人、仰向けに倒れていた。滑りやすい氷だ、足を取られて転がる材木に頭を打ちつけ死んだ、というところだろう。血と若干の脳漿が飛び散っていて、えらく派手に転んだもんだな……ふと、男の手に簪が握られていることに気がついた。大方、あの女のものだろう。まだ死後硬直していない男の手から、その簪を抜き取った。
    「…で、この死体どうする?浩平」
    「そうだな…警官に言うか、洋平」 
     
     消えかけのマッチの灯り、ちらと見えた洋平の顔は、にやりと笑っていた。そうして灯りが消え、わかるのは暗闇の中聞こえるお互いの声だけになった。
    「ところでよ、いいこと思いついたんだけどな、洋平」
    「なんだ、俺もいいこと言おうと思ってたんだ、浩平」
     お互いに何を言おうとしているかなんてわかりきっていて、俺たちはただ笑ってその場を後にした。
     
     結論から言うと、俺たちは警察に殺人だと告げにいった。
    『男同士の言い合いが聞こえ、駆けつけると走り去る男を見た。人相はわからず。関係者の洗い出しを至急手配されたし』と。
     
     何故か。正直事件解決なんてどうでもよかった。犯人はとうにわかっているし、それを知っているのは俺たち二人だけだからだ。あの夜逃げ出した女の顔は、月明かりの下ではっきりと覚えている。
     退屈してたんだ、ちょっとくらい、このくそだりぃ生活に刺激求めたっていいだろ。
    「なぁ洋平」
    「あぁ浩平」 
     
     手の中にある簪を二人で見て、この街のどこかにいるであろう女を待つことにした。
     
     
     ◇
     
     
    (…違う、私は、だって)
     
     頭を抱え、昨夜の恐ろしい出来事を頭の中から消し去ろうとする。店では常連さんが殺されたって話で持ちきりだった。何があったんだろうね、犯人は男らしいよ、とか。
     
     …違う、犯人は私だ。
     お使いから店に戻る途中に常連さんにばったり出会って
     夜道だから送るって
     それで、それで、まさかあんな…恐ろしいことをするなんて…
     
     髪の毛を掴まれ、怖くて暴れた拍子に相手が転ける音がした。
     あとはそのまま、後ろを見ずに走って逃げた。
     今思えばあの時、誰かに助けを求めたら、常連さんは死ななかったのでは? いや、でも…
    「…ちゃん、夢🌸ちゃん、大丈夫かい?」
     女将さんに呼ばれていることに気付かず、慌てて顔を上げる。
    「どうしたい、常連さんが亡くなって気落ちしているのかい?」
    「え、えぇ…まぁ…」
    「わからなくもないよ、夢🌸ちゃんをご贔屓にしてくれていたもんねぇ…あれ、それよりいつもの簪はどうしたんだい?」
     目ざとく気付かれて、どきりと心臓が跳ねる。
    「……あ、あの、落としちゃって…」
    「あら、本当かい? 誰かに拾われちゃったかねぇ、あれを見たらみんなが夢🌸ちゃんだって分かるくらい、似合っていたのにねぇ」
     そう言われ、さぁっと背中に冷たいものが伝い落ちる。
     かんざし、わたしのかんざし
     髪の毛を掴まれた時に、落としたと思っていたが、あれがもし、手に握られていたら…?
    (犯人は私だと証言しているようなものでは…?)
     それに気付いたとたん、叫びそうになった。何とか落ち着こうとしたが、駄目だ。恐怖で涙が零れ落ちる。
     ぎょっとした女将さんは、そのまま
    「夢🌸ちゃんは優しすぎるきらいがあるからね…今日は店も落ち着いているから、先にお上がりよ」
     そう言って、肩を優しく摩ってくれた。俯く私はその背中の手の温もりすら酷く煩わしく感じるほど、あの簪のことしか頭になかった。
     店を出るとき、陽はもうじき沈もうとしていた。後少し…夜を待とう。そうして…あの簪を探しに行こう。
     
     月明かりが心許ない夜、一人そっと奉公先を抜け出した。
     あぁ、こわい、さむい、いやだ
     震える足をなんとか動かして、昨日の…思い出したくもない場所に向かう
     
     薄暗い路地の奥は、昨日の常連さんが化けてでてきそうで、怖くてたまらなかった。
     簪、あれを見つけたら、もう走って逃げよう…
     ガス灯の明かりが届かない路地裏、吹き抜ける風に身震いする。
     懐から、蝋燭とマッチを取り出す。
     かじかむ指を必死に動かし、震える手で蝋燭に火を灯す。
     蝋燭の炎はこの寒空の下、風に揺られてなんとも頼りない。
     路地裏の中を照らそうにも、せいぜい自分の周りくらいで、ほぼ見えないに等しかった。
     
     ーおいで、おいでー
     
     誘うような幻聴が聞こえる
     暗がり、呼吸が早くなる
     
     ー引き返せー
     
     そんな声も聞こえてくるようで
     あぁこんなところ、早く、早く逃げてしまいたい
     
     一歩、意を決して足を踏み入れる。
     
     じゃり、じゃり…
     
     数歩歩いたところで、自分のすぐ近く。誰かが壁に寄り掛かって立っていることに気が付いた。
     刹那、持っていた蝋燭が風に吹き消される。
    「…ひぁ、」
     声を出しそうになって、慌てて手で口を押さえる。足が竦む。まさか、まさか本当に化けて…
     
     暗がりの中、ゆらり、その人影がこちらに向きを変える。
     一歩、二歩、近寄るその影から、一歩後退り…とん、と背中が何かにぶつかった。
    「……っ!」
     慌てて振り返ると、真後ろに立つのは一人の男。月明かりを背に受け、その顔は逆光で見えないけれど、ぎょろりと目だけはっきり浮かび上がる。
    「ひぃっ!」
     驚いた拍子に後退ると、またとん、と背中が何かにぶつかる。その正体は振り返らなくても分かる。あ、あぁ、と恐怖で体が強張る。前後を二人に挟まれた。
    「あんた、何しに来たんだ」
     ふいにそう尋ねる目の前の男は、帽子を目深に…あれは、軍帽?警察?しまった、犯人は私だとわかって…
    「あ、あの……みち、に…」
     この場から逃げ出すために、必死に嘘を絞り出す。
     いやだ、私は、悪くない…!
     じゃり、一歩相手がこちらに近寄る
    「まよって…」
     ふん、と前方から鼻で笑う声が聞こえた。
     慌てて顔を上げると、
    「嘘だね」
     月明かりが照らし、男のにたりと笑う顔が浮かび上がった。
     慌ててこの場から逃げ出そうとした瞬間、背後から白い腕が伸び、羽交い締めにされる。
     目の前には、相変わらず不気味な笑みを浮かべる男。
     必死に声をあげて逃げようとしたが、目の前の男に口を押さえこまれる。
    「んんっ!」
    「…黙れよ」
     すっと喉元に尖ったものを突きつけられる
     ぐ、と強く押し付けられ、鋭い痛みと、ぷつ、と肌が裂けた感覚がした
     殺される…!
     恐怖からきつく目を瞑ると、つつ、と喉元から頬をなぞり、
    「これ、探しに来たんだろ?」
     ちゃり、と目の前から金属音が聞こえてきた
     恐る恐る目を開けると、男は目の前で私の簪をちらつかせていた。
     探していたものが見つけ、ほっとしたと同時に恐ろしいことに気がつき、全身が硬直した。
     どうして、それを、探していると知って…
     その様子を見て、意地悪げに目の前の男と…後ろから押さえ込む男も同じように笑う。
    「…あの晩、俺らだけ見てたんだよ」
    「ちょっと奥で話聞かせてもらうぜ」
     背後の男が、頭上から私の顔を覗き込む。
     思わず目の前の男と顔を見比べる。
     同じ顔で笑う二人の男。
    「お、お化…んんっ!」
     背後、押さえ込む男に髪を鷲掴みにされる
    「…口が過ぎると殺すぞ」
    「おい、初っ端から殺すなよ、洋平」
     初っ端から、ということは、最後には…?
     夢🌸の顔から、さぁっと血の気が引く
     
     ずる、ずると路地裏の奥へ奥へと引き込まれる
     
     ーだから、引き返せといったのにー
     
     脳内にぐわんぐわんとこだまする声。もう駄目だ、殺されるんだ、事故でも、人を殺したから…
     
     そうして暗い路地、月が雲へと隠されたのを最後、男たちの笑い声と共に深淵へと、ずるり。

     後には女が落とした蝋燭。冷たい風に、ころ、ころと転がされていた。
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