Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    myn_hsb

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🌟 🍆
    POIPOI 16

    myn_hsb

    ☆quiet follow

    すれちがいへしさに

    ドライorウェット「今宵、寝所にお伺いしたいのですが……宜しいでしょうか」

     審神者がその日の職務を終え、執務室から夕餉の準備が済んだであろう大広間へと向かう前。互いを労いながら他愛の無い会話していた中で、彼女が部屋の障子戸に手を掛ける間にそっと耳打ちされた言葉である。
     その文言を恭しく紡いだのは件の本丸に所属し、今の今まで近侍として審神者の補佐役に徹していたへし切長谷部だった。二回りほど己より背丈の低い審神者に配慮してやや身を屈めた所為で、普段よりも一層距離が近くなる。落ち着き払った低音ながらも秘めやかな声に静かに首を傾ければ、薄く青を帯びた紫色の眼差しがその感情を隠しもせずに熱烈に瞬いていた。

    「えっ、と……な、何か相談事かな……?」
    「……貴女と寝所を共にしたいという意味ですよ」

     戸惑う審神者が動揺を悟られぬよう取り繕いながら返答する傍らで、長谷部はあくまでも普段と変わらぬ態度を貫いて熱烈さを隠すことのない言葉を口にする。微かに驚きに跳ねた鼓動を落ち着かせるようにゆっくりと息を吸い込めば、ふと嗅ぎ慣れた香の匂いが審神者の鼻腔を掠めた。この期に及んで逃げる理由も無ければ拒否する理由も見当たらず、寧ろ嬉しく思うまでの領域ではあるのだが、そんな素振りなど微塵も見せることなく不意打ちに言葉を詰まらせた。

    「っ……添い寝ってこと……?」
    「いいえ。それだけで済ませる気はありません」

     羞恥心からじわりと頬が朱に染まり、咄嗟の誤魔化しもきっぱり否定されてはいよいよ逃げ道を塞がれる。長谷部の白手袋に包まれた手が障子戸に掛けた審神者の手に添えられ、反射的に見上げれば確かな欲望を秘めた瞳が愛おしげに細められた。
     己の掌で包み込んだ、審神者の柔らかな手を丁寧に優しく撫でる。皮膚の薄い手の甲を骨に沿うようにして手触りの良い生地が滑っていくのは心地良いと同時にこそばゆい。ぞわぞわと背筋を走る感覚に肩を震わせながらも、審神者はされるがままに手を預けていた。障子戸から彼女の手を放すように誘導しながら長谷部は改めて口を開く。

    「それで、伺って良いと受け取っても?」

     表面上は穏やかなまま、己の要望が通り易いよう問い掛ける長谷部。有無を言わせぬ強い圧力を感じつつも、互いに恋い焦がれる相手ともなれば拒絶する気など毛頭起きず、審神者は視線を右往左往させながら小さく頷いてみせた。
     彼と恋仲になってそれなりの時間が経っているものの、それらしい行為も慎ましいもので抱擁や手を繋ぐことはまだしも、口付けさえ片手で数える程度だった。羞恥よりも期待に高鳴る鼓動を胸に秘めながら動揺を隠そうと、口を噤んでいる彼女の様子を間近で見つめる長谷部の表情には喜色が浮かぶ。

    「それでは、後ほど」

     許しを得たとばかりに殊更ゆっくりと手を離すと、最後に名残惜しげに指先を絡めてから柔肌から距離を置く。遠ざかる温度を名残惜しく思いつつ審神者は改めて障子戸に手を掛け、未だ煩い胸を落ち着かせるように大広間へと向かう足を早めたのだった。





     夕餉と湯浴みを済ませて寝室へと辿り着いた審神者は、当たり前のように敷かれていた布団を目にした瞬間、淡く滲む緊張を溜息に溶かして吐き出す。枕元の傍らに置かれた電気行燈が橙色の柔らかな光を放っており、室内を朧気ながら照らし出していた。
     やがて暫く経てば長谷部が寝室を訪れるだろう。夜闇が色濃く立ち込める外から遮断された空間で寝具と布団は一組ずつ。審神者は心臓の高鳴りに急かされるように静かに布団へ近付くと、隙間無く引っ付けて整えられたそれを見下ろし、深呼吸を繰り返してから正座で待機する。


     主従関係でありながらも、正式に恋仲になってそれなりに経過した今では二人きりを約束された場での厳格さは少しずつ薄まりつつあった。それでも公私混同は如何なものかという、真面目気質の二人は立場を忘れずに節度を保つように細心の注意を払っている。とはいえ、どちらからともなく口にはせずとも二人過ごす時間が楽しみで仕方ないという雰囲気は隠せず、自覚無く周囲を微笑ましく思わせていた。
     長谷部を待ち侘びる自分の心臓の鼓動と緊張に浅くなる呼吸が合わさり、落ち着けるよう胸元で強く拳を握り締めれば手汗で湿った掌が布越しに胸へ触れる。生娘ではない癖に何を今更と己を恥じる気持ちで一杯になりながら、これから起こるであろう展開に対する不安や期待、長谷部はどんな風に抱くのだろうという想像に昂揚してしまっていた。
     好いた相手と肌を重ねること自体久しく、いざ今になって初心のような心境に陥る。こうして一人きりで待っていると嬉しさよりも強い緊張や不安の方が勝り、この調子では本当に心臓が幾つ有っても足りはしないのではないかと思っていた矢先だった。

    (そうだ、長谷部ってどんな風に抱くんだろう……)

     脳裏に浮かんだのは己を組み敷く長谷部の姿。あの澄ました相好が情欲に溺れて形を変える瞬間を想像しようとしても、どうしても思い浮かばず断念する。
     普段から真摯な態度と忠誠を示す彼を思えば無体を働くような真似はしないだろうとは思えど、そんな長谷部が自分の上に覆い被さり欲を孕んだ目で見下ろしている光景など想像の域を出なかった。
     自身の身体つきが特別劣っているとは思っていない。が、それは特に秀でている訳でもないという曖昧な表現に留まるものだ。平々凡々とした印象を持たせるそれなりの胸の膨らみと、形だけは良い小さい尻。もう少し分かり易い凹凸がある方が良いのではと、女としての魅力に欠けるのではないかと後ろ向きな思考が過る。ならば、せめて彼が興奮できるような態度をして見せるくらいはするべきだろうか。
     小さな文机の上に置かれている通信端末を手にし、そのまま正座して画面を操作すれば刀剣男士を対象とした遊郭嬢達の愚痴から悩みや体験談、男の悦ばせ方に至るまで多種多様な内容が表示された。流石に長谷部本人に聞く勇気は無くとも、数多もの者から寄せられた並ぶそれらから目に留まった幾つかを流し見る傍ら適当な言葉を打ち込んで検索してみたりと、正に耳年増と言わんばかりの情報が手元に積み重なっていく。

    「えっと、へし切長谷部……す、少ない……確かにどの個体もわざわざ行かなそうだ……」

     思わず一人きりの部屋で突っ込みを入れてぼやいてしまう程、画面上に記載されているへし切長谷部の遊郭利用率は極めて低かった。無駄や非効率を厭う傾向故なのか、性欲を処理する目的だけで遊郭を利用するなど無駄以外の何物でもないという意識が強いのだろう。また、審神者への忠節を重んじる者が多い『彼』はそもそも欲を吐き出すという行為に意味を見出す必要性を感じていないのかもしれない。
     そう考えると行きずりの異性と一夜を明かすといった状況自体想像し難かった。とはいえ、利用率が極端に低いだけで、実際に赴いて利用したらしい一部の報告はきちんと挙がっている。

    「……た、淡白」

     肉体の触れ方や反応の確認と遊郭嬢への気遣いはあれど、終始事務的で淡々としているらしいこと。情事中の会話も殆ど交わされることはなく、行為を終えてからも口数少なく身支度を整えて出て行くという、ある意味において実に彼らしいものだった。
     審神者の知るへし切長谷部という刃物像は生真面目で融通の利かない部分もあるものの、どこまでも真摯な心根を持つ刀剣男士だ。審神者に抱く忠誠心と同等かに任務や役割への意識が強く、また効率を重視する面も持つが必要とあらば他者の意見に耳を傾ける柔軟さを備えている。
     戦の最中ともなれば刀の本懐を露わにして好戦的な言葉を口にする一方、審神者の前では穏やかな表情と声音で語り掛ける柔和さがあった。厳冬の名残が溶けたような優しげな眼差しに射抜かれ、一体何度心臓が高鳴ったことだろう。

    (……こんな時にも我儘だとか面倒だって思われたくないな)

     遊郭での振る舞いとはいえ、長谷部の行為事情を知った審神者は自分に与えられる彼の好意や優しさを失いたくないと考えてしまう。嫌がられることをしてはいけないと自戒しながらも、甘やかな触れ合いへの淡い期待は消せそうに無かった。意味も無く相手の名を呼び合い、汗の浮いた肌を重ねて互いの鼓動や熱を感じたい。そう考えている自分がいて、長谷部からの軽蔑に対する恐れに審神者は不安を膨らませずにはいられなかった。

     ――絶対に面倒だって思われないように、こっちも淡々と振る舞おう。淡白な感じらしいし、仕事みたいに効率良くすればきっと喜んでくれる筈だ。

     そう結論付けた審神者は文机に液晶の電源を落とした端末を置き、改めて襦袢を整えながら正座で待機する。やがて静かな足音が近付いてくる気配を感じ取り、審神者は徐々に早鐘を打つ胸元を掌で押さえ付けながら障子の向こうに意識を向けた。





     控え目に軽く二回戸を叩いて入室の許可を待つ長谷部の律儀な行動に緊張している面持ちのまま、どうぞ、と応答して引き戸が開かれるのを今か今かと待つ。数秒と経たず開かれた障子戸から入室してきた己の近侍にして恋仲の男は静かに戸を閉ざしてから数歩足を動かし、正座のまま向き直った審神者の顔を見つめたまま、正面に腰を下ろして膝をつくと恭しく畏まった態度で頭を垂れた。

    「失礼致します。約束通り、今晩はお傍に控えさせて頂きます」

     丁寧な口調で述べられる一言一句に緊張感が増していく。生真面目に頭を下げての丁寧な挨拶の後、長谷部は静かに顔を上げる。審神者が固くなった声音で返答すれば薄く口元に笑みを浮かべた。穏やかな微笑ではあるが、どこかぎこちなさを感じるのは長谷部も緊張しているからだろうか。

    「あの……もし、お加減でも優れないのでしたら、今夜は出直して参りますが……」

     長谷部の一言一句と僅かな視線の動きにすら過敏な程に心臓が脈打っていて、審神者はまともに相手の顔を見ることができずにいる。緊張が伝わってしまっていないだろうか、幻滅されたりしないだろうか、そんな不安ばかりが脳裏を駆け巡る。体調でも優れないのかと気遣わしげに向けられた長谷部の言葉に対して、審神者は首を横に振った。

    「だ、大丈夫……つ、続、けて」

     震える声を必死に絞り出しながら発したのは先の発言を促す言葉で、その言葉を耳に入れた長谷部は怪訝な表情を浮かべる。微かに上擦りかけた声音は緊張を隠せない審神者の心情を容易く知らせていたが、長谷部はそれを指摘せず静かに頷いてから腰を上げると審神者の隣へ静かに移動して居住まいを正した。

    「決して無理強いはしないとお約束します。ですので、もし嫌だと感じたらすぐに仰って下さい」

     そうっと探るように肩へ回された手を感じながら、耳元で聞こえる相手の息遣いを妙に意識して身体が強張る。自分の心臓の音が長谷部に聞こえているかもしれないと思えば、更に脈が早まるのを審神者は感じていた。こっちを向いて、と審神者が応えるより先に長谷部は返事を待つことなく頬へ片手を添え、僅かに顔を傾けさせて間近で視線が絡む。

    「ぁ……」

     微かに漏れた相手の息遣いや呼吸、睫毛の生え際すら容易に視認できる程の距離に審神者は思わず短く声を漏らした。長谷部は眉尻を下げて不安げな表情を浮かべつつ、普段よりもゆっくりとした動きで唇を重ね合わせる。それはまるで挨拶代わりに交わす優しい接吻のようで、どこか愛らしさすら感じられた。
     長谷部の唇が僅かに離れた刹那に互いの息遣いが漏れて、再び重なる唇から吐息を共有し合うような感覚に陥る。何度か軽く音を立てて吸い付かれ、弾力を楽しむように触れ合わせるだけの口付けを繰り返す長谷部の行為は明確な意図と情欲を感じさせた。

    「緊張していらっしゃるんですね……俺も同じですよ」

     長谷部の慈しみに満ちた声色と、優しく触れる手が微かに震えていることに相手も自分と同じなのだと気付けば強張っていた身体からゆっくりと力が抜ける。審神者から嫌じゃない、と訴えるよう徐々に口付けを返されるようになってくると、安堵した長谷部の掌が肩から背中、そして腰へと緩やかに降下していった。

    「あっ、あの、自分で脱ぐから、すぐっ、」
    「え……? そう急かずとも……」

     審神者の切羽詰まったような言葉に長谷部は驚きつつ、その場で立ち上がった相手が自ら腰帯に手を掛け始めたのを見て思わず視線を逸らした。布擦れの音がやけに生々しく響き、ちらりと視界の端で捉えた審神者の真白い肌がどうしようもなく煽情的に映る。羞恥心を押し殺して潔く襦袢の前部分を割り開いて見せ、露わになった下着の留め具を外す審神者の姿を長谷部は息を呑んで見つめていた。

    「そ、そっちも早く脱げば」

     長谷部の意識が釘付けになっていることは審神者にも十分に伝わっており、視線を逸らしたまま素っ気無く発した言葉に戸惑いながらも、長谷部は素直に寝間着の帯を緩めて取り払っていく。そうして互いの肌を隔てるものが全て無くなった時、相手の身体を視界に捉えた審神者は息を呑んだ。
     すらりとした長躯に程良く筋肉がつき、無駄や不健康な部分など見当たらない均整の取れた男の身体がそこに在る。衣服を纏っている時は華奢にも見える腕の節々もしっかりと男の骨格を示しており、手の甲から指にかけての筋も美しく浮き出ている。
     全体的に細くしなやかな体型も相俟って小動物じみた印象を持つ審神者に比べ、長谷部はその外見を裏切らずがっしりとした体格をしていた。とはいえ一部の薙刀や槍に見られるような過剰な筋骨は無く、靭やかな背筋と精悍な肩から二の腕への輪郭は雄々しくも美しいの一言に尽きる。
     彼のことなら何でも知っていると思っていたのに知らないことがまだ沢山ある、そんな事実を痛感した審神者は長谷部の肉体美を前に思わず見惚れる中、その視線に気付いた彼は気恥ずかしそうにはにかんだ。





     身体に帯びる倦怠感は薄く、体力の消費が少なかったからだろう。しかし、それでも胸の内はやけに重く沈んでいた。肉体が疲労を訴えるよりも精神的な疲労が上回り、仄かに湿り気を帯びた布団の上で審神者はぼんやりと天井を見つめていた。
     早く相手が悦くなれるよう、もう充分に潤んでいると言って次々に急かした所為で身体の準備が足りなかったかもしれない。じんじんと鈍い痛みの残る股座を庇うように審神者は横にしていた身体をゆっくり起こそうと試みる。しかし、腰に絡みついた腕の感触に気付いて動きを止めれば、やや遅れて聞き慣れた声が鼓膜に届いた。

    「何処へ行くんですか……まだ此処に居て下さい」

     思わず振り返ると、仄かに焦燥を滲ませる眼差しが審神者を見つめている。縋りつくような手に然程力は籠っておらず、振りほどこうと思えば容易く叶う程度のものだったが、審神者は何となく抵抗を躊躇ってしまう。そのまま相手の言葉を待つと長谷部はやや間を置いてから口を開いた。

    「……お願いです。どうか、此処に」

     普段はしゃんとした姿勢と冷然とした眼差しを湛えている刀が、傷付いた子供のような表情で弱々しく呟く。審神者が黙ったまま相手の手をそっと身体から引き剥がせば、長谷部は抵抗せずそれに従って絡めた腕を解いた。

    「シャワー浴びて着替えるから。部屋は戻っても戻らなくてもどっちでもいいよ」

     できるだけ穏やかな声色で告げて審神者は布団から抜け出す。行為が終わった後は面倒が無いよう、相手の手は借りずに自立した様子を見せなければ、と意識的に考えた末の行動だった。すっかり冷えた空気を吸った襦袢を適当に羽織って審神者は立ち上がる。下肢が軋むように痛んで思わず息を詰めたが、表には出さないよう取り繕いながら動いた。

    「お、お待ち下さい……! 何か、何か気に障る点が御座いましたか? 俺があまりに未熟な所為で不快な思いをさせてしまったなら、謹んで謝罪致します。ですから、どうか」

     後ろから追い縋るように声を掛ける長谷部は普段の冷静さが微塵も感じられず、一糸まとわぬ姿であることも構わずに必死の形相で審神者へ歩み寄る。思わず驚いて振り返った審神者の目に映ったのは、眉を下げて今にも泣き出しそうな不安げな表情で己を見つめる長谷部の姿だった。滅多に見ることのないその表情を前に思わず言葉を失った審神者だったが、己の襦袢の袖を掴んで縋りつく彼を振り払って良いものか迷いあぐねる。

    「か、風邪引くよ……布団に戻りなよ」
    「いいえ、戻るなら貴女も一緒に……初めて契った後なんです、朝まで傍に居させて下さい」

     切実な訴えに戸惑いながら審神者は必死に言葉を探した。おかしいな、と事前に仕入れていた知識とは全く異なる状況に混乱しながらも、それでも誠実に向き合おうと努める。長谷部にとって物分かりの良い女でいないと、長谷部の望む振る舞いをしなければ、と気を張った結果がこれである。その選択は果たして本当に正解だったのか分からなくなった。

    「主……いつもの貴女に戻って下さい。どうして急に余所余所しい態度を取られるのですか。俺の名を呼んで、貴女の手で触れて、俺だけに微笑みかけて……」

     主である自分の機嫌を取ろうとする緊張しきった臣下の姿勢と焦りや不安を滲ませた声を耳にした審神者は言葉を詰まらせる。普段から慇懃な態度で接してくる相手が、精一杯の意思表示を示してくる様を見るのは何とも辛いものがあった。
     へし切長谷部という刀の真っ直ぐな忠誠と純粋な愛情に応えなければ、とそればかりが先行して考えるばかりで自らを顧みる余裕が無く、自分の言動を振り返ってみればその不誠実さに背筋が冷えるような思いがして堪らず項垂れる。

    「ご、ごめん……ごめんね」

     掠れるような声でぽつりぽつりと零れた言葉と共に審神者は涙を零した。相手に申し訳ないと思う程に動揺してしまい、自身の未熟さを実感するばかりだった。相手の反応も己の心境も窺えずに自己満足で一人焦っていただけで、長谷部のことを思いやる余裕など無かったことに気付いた審神者は何度も謝罪を繰り返す。その様子を呆然と眺めていた長谷部だったが、審神者の目尻から流れ落ちる涙を見て我に返るなり狼狽し、懐紙を差し出そうと置かれた場所へと視線を彷徨わせた。 
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💜💜💜💜💜💜
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works