愛情表現?「犬好きの知り合いが言ってたんだけどさ」
『我は犬ではない』
「わかってるよ、むしろ犬とは違うって確認したいというか……」
最近、フェルのことで気になることがある。正確には最近ではなく、特に気にしていなかったフェルの行動が気になってしょうがないのだ。
深い意味はないと思いたいが、一度気になってしまったら他の行動も気になってしまった訳で。
話しを切り出したはいいものの、どう言葉にすべきか頭を悩ませているとフェルに言いたいことがあるなら早くしろと急かされた。
──ええい、こうなったら当たって砕けろだ!
「犬好きの知り合いがさ、顔を舐めたりスリスリしたり、あとは寝るときに寄り添ってくるのは愛情表現なんだって言ってたんだよ。それでその、フェルさんの行動がですね、当てはまるのかなぁ〜なって思ってみたり、みなかったり?」
恥ずかしいので少し茶化しながらも、今俺の心臓はばくばくだ。
俺の勘違いだったらどうしよう。そもそもフェルは犬じゃない。
ちらりと横目でフェルの様子を伺うと、予想外の言葉が返ってきた。
『お主はどうなのだ?』
「どうって?」
『お主は一度も嫌がる素振りを見せなかった。愛情表現だとわかって受け入れていたのであれば、それは何故だ』
「うっ……それは……」
まさかこんな事を聞かれるなんて想定外だ。
鮮緑の瞳にまっすぐ射抜かれる。
きっと本心を偽っても、フェルは誤魔化されてくれない。
「……嫌じゃない、から」
そう、嫌ではないのだ。フェルに擦り寄られるのも、暖かい毛皮に包まれて寝るのも、悪戯っぽく舐めてくるくせにその瞳に熱が込められているのも。
でもさ、俺だけ言葉にするってなんかフェアじゃないと思うんだ。
だから思い切ってフェルの首に抱きついて……キスしてやった。
「こ、これが人間の愛情表現だ! どうだ!!」
やばい、恥ずかしくてフェルの顔が見れない。あと今の俺、絶対顔真っ赤だから見られたくない。
顔を見られないようフェルの首元に顔を埋めると、ぶんぶんとフェルのしっぽが左右に揺れているのが見えた。
どうやらフェルも俺の愛情表現は嫌ではなかったらしい。
それからしばらく俺たちは互いの愛情表現を受け入れ、気づけばフェルにあらぬ場所まで舐めつくされてしまったのだった。