アセンブル【フロイト】アーキバス本社/ヴェスパー部隊第二隊長室
「旧世代型が」
第二隊長室の応接デスクセットを占拠してると、スネイルが呟いた。呟いたというより、通話中に不意に出た悪態だ。内容は強化人間手術関連だろうと察する。
こいつが悪態をつくのはいつものことだ。だからノイズにはならない。
ACが強ければ旧世代型でもいいだろと思うが、プライド以外にも耐えられない物があって嫌悪してるようにも思える。興味ないから知らんが。
(まだ昼には遠い。掃除が終わるのは昼過ぎと言ってたな)
第一隊長室に清掃が入ることをすっかり忘れて出勤し、自室に戻るのが面倒でスネイルのとこに来た。
『帰れ』と言われて事情を説明したら、『フロイトが夜中まで隊長室にこもっているからです。夜間清掃だとあれだけ言ったでしょう』と小言を言われた。
そうはいっても、清掃中である事実は変わらない。だから場所を借りることにした。
スネイルの通話を聞きながら昨晩の続きをする。ライバル社の新作ACカタログをARグラス越しに眺め、サンプルを片っ端から端末に入れて簡易動作確認(ゲーム)する。
ふと、ACパーツの説明文が目に入る。革新、新世代、最先端。
「お前もそのうち旧世代になるな」
「は?」
怒りと嫌悪が混じった声がした。通話中だから聞いてないと思ったが、ちょうど終わったらしい。
スネイルは人間のままAC乗りでいることではなく、強化人間になることを選んだ。それは別に良いと思う。
「事実だろ?」
「……突然なんですか?」
第八世代強化人間手術を受けた中に〝ニューエイジ〟と呼ばれるやつがいる。スネイルはそれと同じ手術を受けている。
一から始まって今は九。第九世代手術の安全性がそろそろ数値化される頃合いだ。改善点があれば第十世代の開発が行われるだろう。
「パーツと同じで、強化人間もどんどん新しくなるということだ」
「それは当然です。技術ですので」
AR画面を眺めて操作する。端末にある過去の企業サンプルパーツと最新パーツを組み合わせて一機作る。
「――アセンしないか?」
「この間、武装を調整しただばかりです」
「いや、お前を」
「……っ、え?」
「思ったんだ。お前も追い続ければいい。新しい強さってのを。……あー、EN超過か」
サンプルだけで組んでオレのAIとオレとで遊ぶ。
しばらくの間テストしてなんとなくわかった。これ以上はリアルで試さないと判断しづらい。購入候補の目処はついたのでよしとする。
「フロイト」
「なんだ、スネイル。用件があるのか?」
オレの発言を無視して仕事に戻ったと思ってたが違ったらしい。スネイルは戸惑い混じりにオレを見ている。
「先ほど、アセンブルと言いました?」
「言った。興味あるのか? 組んでやろうか? お前の強化内容とかさ。全員一律同じになるより面白いと思う」
「つまり、各世代の良いところを取り入れてアップデートしろと言っているのですか?」
「ああ」
スネイルの戸惑いが興味に変わった。真面目に検討し始めている。
「フロイト。強化人間といっても私は人間です。機械ではありません。後遺症といった不確定要素についてはどう思いで?」
「失敗しなきゃいいだけだろ」
「確かに」
「……結構面白いことを言ってる自覚あるか?」
「ええ、我ながら」
「お前のそういうところは良い」
狂気と言われそうだが、こんなの強さの追求でしかない。企業理念やらうるさいやつだが、本能的な部分で強者であることをやめない。最高だ。
「よし。計画を立てるぞ。強化人間手術の資料をくれ」
「もう送りました」
「わかった」
ご親切に旧世代から最新までの資料が山のように届いた。
今まで世代については気にしてなかったが、考えてみれば十分対戦相手の参考になる。強化人間の世代による癖と本人の経験とで戦闘行動を分類できれば、今まで以上に相手を読んで戦うことができるだろう。
――さて、被検体(テストプレイヤー)は何人用意しようか?