Sabotage 1
きっかけは金曜日の夜。
彼の部屋で晩酌しながら、もう仕事なんて辞めたいとぼやいた私への彼の返答だった。
「辛いなら無理して仕事続けなくていいよ。俺ももっと働くし」
「何、珍しいこと言って」
いつもなら「そんなこと言って、本気で辞める気はないんだろ」とか言って流すのに。持っていた缶ビールをローテーブルに置いて、キャンディ包みされたチーズへ手を伸ばすと、拗ねたような顔と目が合った。
「だって最近のお前、ほんとに辛そうだし。それに俺だって、奥さんが仕事のせいで壊れたら嫌だよ」
「えっ?」
低めの声で聞き返した私に、彼は「そこはもっと可愛く聞き返すところじゃねえの」と笑った。だけど、私は突然の爆弾発言にかなり動揺していた。だって、確かに交際五年目の記念日は間近に迫っていたけれど、そんなのまだ先だと思っていたから。
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