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    fu__furu

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    fu__furu

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    8月に頒布予定の年の差ラブコメ降谷夢の冒頭です。
    ⚠️降谷20歳、夢主25歳
    ⚠️夢主の元彼含めモブがまあまあ出る。
    ⚠️ネームレス夢主

    【あらすじ】
    結婚を機に退職したものの婚約者に逃げられた夢主が、居酒屋で大学生の降谷と最悪な出会いをする。夢主がバイトを始めた塾で降谷と再会したことをきっかけに少しずつ距離が縮まり……?

    絶賛執筆中なので絵文字などもらえると励みになります!!

    Sabotage 1

     きっかけは金曜日の夜。
     彼の部屋で晩酌しながら、もう仕事なんて辞めたいとぼやいた私への彼の返答だった。
    「辛いなら無理して仕事続けなくていいよ。俺ももっと働くし」
    「何、珍しいこと言って」
     いつもなら「そんなこと言って、本気で辞める気はないんだろ」とか言って流すのに。持っていた缶ビールをローテーブルに置いて、キャンディ包みされたチーズへ手を伸ばすと、拗ねたような顔と目が合った。
    「だって最近のお前、ほんとに辛そうだし。それに俺だって、奥さんが仕事のせいで壊れたら嫌だよ」
    「えっ?」
     低めの声で聞き返した私に、彼は「そこはもっと可愛く聞き返すところじゃねえの」と笑った。だけど、私は突然の爆弾発言にかなり動揺していた。だって、確かに交際五年目の記念日は間近に迫っていたけれど、そんなのまだ先だと思っていたから。
    「ねぇ、本気?」
     冗談なら早くそう言ってほしい。なのに、彼は当たり前だろ、と答える。
    「俺だってずっと考えてたし。だからさ、結婚しよう」
     とてもおかしな流れのプロポーズだった。仕事で疲弊しきっていた私にとって、その言葉は救いの光のように思えた。
     将来の見通しがいつも少し甘いところはあるけれど、ここぞという時には優しくて頼れる彼と付き合っていてよかったと心の底から思ったのに。

     *
     
    「それがなんで? 私の最終出勤日に、やっぱり無職の君とは結婚できないってメッセージひとつで、荷物と共に姿をくらますわけ?」
     ああ、むしゃくしゃする!
     ジョッキのビールをぐいっと煽ると、中身はあっという間になくなった。ジョッキをテーブルに置いたトンという音はテーブル席の方から聞こえた笑い声にかき消されていく。楽しそうでいいなぁ、という心の中から湧き上がった感想は可愛らしい感情から来るものじゃない。ただの嫉妬だ。
    「お代わり!」
     勢いよくジョッキをカウンターへ差し出すと、顔馴染みのバイトの男の子が「今日、お姉さん飲み過ぎじゃない?」と、吊り目がちな目の間に皺を寄せた。
    「まだ四杯目ですぅ!」
     指を四本立てて見せる私に、まぁそうだけど、という同意の返事が返ってきたものの、紺色のバンダナの下に見える彼の眉間には皺が刻まれたまま。
    「でも、普段の倍近いペースですよね」
     諸伏くんは心配して言ってくれているのだと、頭ではわかっていた。それに、こんな話を酔っ払いの客から聞かされて、彼も迷惑しているだろうなということも。だが、背後のテーブル席から「旅行で休みたいっつったら、助教にそんな理由で研究室を休むつもりかって怒られてさ。こっちが学費払ってるのに休み取る時文句言われるとか、マジ理不尽すぎねぇ?」などという学生の愚痴が聞こえてきて、なけなしの理性はすぐに消えた。
    「そうかもね。でも、君にはわからないかもしれないけど、飲まなきゃやってらんないよ、こんなの! 付き合って五年目の彼氏からやっとプロポーズされて寿退職して。これから新しい生活が始まるって思ったその日のうちに婚約破棄だよ? しかも別れる理由は私が無職だからって。そもそも私に仕事を辞めていいって言い出したのは向こうだったのに! やっぱりビール飽きたからハイボール濃いめで」
    「お水もちゃんと飲んでくださいね」
    「はいはい」
     生返事をした私が手元にあった水を一口含むのを見届けた諸伏くんは、渋々といった様子でドリンクの準備に取り掛かり始めた。彼と入れ替わるように目の前に立った店主が「お待ちどおさん」と、私へ差し出した皿の上にはカラリと揚がった蛸の唐揚げ。
    「そういえば君、社員寮に住んでるって前言ってなかったっけ?」
    「あ、はい。そうです」
    「っていうことは、これから引っ越し?」
    「いや、実は寮の退去日も今日で。それなのに、転がり込む予定だった彼の部屋はもぬけの殻だったので、急遽ビジネスホテル取ったんですけど」
     出された揚げ物のひとかけを頬張ると、口いっぱいに旨みが広がって、多少のことなら許せるような気がしてくる。
    「え、荷物も持ち逃げされたの?」
    「彼の部屋に置いてたものは何もかも。まぁ元々家具のほとんどは寮備え付けのを使ってましたし、彼の部屋に持ち込んだものなんて、私の服の一部とちょっと奮発して買ったソファーぐらい……。そうですよ! あのソファーお気に入りだったのに! ソファーだけでも返せ!」
     夕方ごろから既読すらつかなくなった元彼へのメッセージにもう一件追加しようとしたタイミングで、カウンターへ薄い色の液体の入ったジョッキが置かれた。
    「ハイボールです」
    「ありがとう」
     私のお礼に会釈を返したバイトの彼は、テーブル席から聞こえた「お勘定」という声に呼ばれてカウンターを飛び出して行った。彼の背中をぼんやりと目で追いかけながら、ジョッキを一気に煽ると喉へきついアルコールが通り過ぎる感覚。こんな最低な気分にもかかわらず、お酒も蛸の唐揚げも最高に美味しくて生きてるんだなと実感する。
     もっとも、史上最悪な日っていうだけで死ぬつもりなんて毛頭ないけれど。
    「それで今日はなんとかなるとして、この先どうするつもり? 実家へ一旦帰るとか?」
    「いや、実家は絶対無理ですよ。ただでさえこの結婚大反対されてたので」
     苦く笑いながら答えると「なんで?」と質問が返ってくる。
    「あー。今まで話したことなかったかもしれないんですけど、婚約者だった彼、ミュージシャン志望だったんです。私と同い年だったんですけどね。もう働いているのが普通の年齢にもなってバイトを転々としながら夢を追いかけ続けている人だというのが、どうやら両親には心配要素だったらしくて」
    「よくその状況で君も仕事を辞めて一緒になろうと思えたね? 収入面で不安にならなかったの?」
     店主が呆れ顔をする理由はわかる。わかるけど!
    「だって、初めてだったんですよ! 仕事の愚痴を言う私に、彼が仕事辞めてもいいよって言ったの。本当にいいのかも何度も聞きました。そしたら、君が壊れてしまう方が俺は嫌だからって。それに私も仕事が忙しすぎて貯金はあったので、次の職を見つけるまでの一年……いや、少なくとも半年は何もしなくても困らない予定だったんです」
    「見通し甘くない?」
    「それはそうなんですけど。でも、実家は田舎なので、今出戻ったら結婚に失敗したって痛い目で見られるんですよ。それ見たことか、って言われるに決まってるので帰りたくないというか」
     実家がこの近くなら、せめて親にも認められた結婚なら一旦実家に帰って今後のことを考えたかった。でも、実際にはどちらでもないからこうしてお酒で紛らわせるしかないわけで。ジョッキをもう一度持ち上げようと手を伸ばす。
    「今の状況はみっともないと思わないんですか」
     そう告げた低い声は聞き覚えのない声だった。声の方へ顔を向けると、カウンターの一番端の席へ座っている金髪に褐色の肌の――ちょうどバイトの子と同い年ぐらいの男が鬱陶しそうに私のことを真っ直ぐと見ていた。
    「なに?」
     売られた喧嘩を買うように不機嫌な声で聞き返した私へ、彼はたじろぐこともなく口を再び開いた。
    「ただの純粋な疑問ですよ。自分の田舎で出戻りだと言われるのは恥ずかしいと思うのに、自分で決めたことも全部人のせいにして、この店で店員に泣き言を言いながら絡み酒してる今の状況は後で思い出して悔いたりしないのかなって」
    「んなっ?」
    「貴女が周りにどう思われたいかなんて他人の僕には関係ないので、そんなことはどうでもいいんですけど。愚痴を言いたいならご友人に聞いていただいた方がいいんじゃないですか。お互いのことを知っている間柄なら適切なアドバイスだって可能でしょうし」
    「それで言いたいことは全部?」
     落ち着け、とこっちは必死に感情を抑えているというのに、彼は涼やかな顔であともうひとつだけ、と続ける。
    「せめてもう少し静かにしてくれませんか。食事をしに来た店で聞きたくもない他人の身の上話を延々と聞かされる身にもなってくださいよ」
     彼の言っていることは、言い方はともかく正論だ。たぶん間違ったことは言っていないし、少なくとも今帰った方がお互いのため。
     だが、テーブルの上にはまだ食事がかなり残っていて、このまま帰るのも癪だった。
    「わかったわよ。じゃあ、日本酒の冷やでください。辛口の。銘柄はお任せで」
    「はぁ?」
    「お姉さん、まだ飲むの?」
     カウンターの男の不機嫌な声と、諸伏くんの声が重なった。いちいち突っかかるのはやめてほしい、と思いながらもこれ以上火の粉を散らすわけにもいかず、聞かなかったことにする。
    「大丈夫。諸伏くん、愚痴に散々付き合わせてごめんね。後は黙って飲むから」
    「いや、オレとしては話聞く代わりに飲むペース落としてほしいんだけど……」
     声の主は整った眉を八の字に曲げていたけれど、じっと見つめ返すと彼は諦めたように「わかりました」と言って背中を向けた。何をムキになっているのだろうと自分に呆れつつ、気を紛らわせるためにスマホを取り出す。どうでもいいネットニュースやSNSを眺めながら何杯目かのお酒を飲んでいる途中で、プッツリと意識が途絶えた。
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    fu__furu

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    ⚠️降谷20歳、夢主25歳
    ⚠️夢主の元彼含めモブがまあまあ出る。
    ⚠️ネームレス夢主

    【あらすじ】
    結婚を機に退職したものの婚約者に逃げられた夢主が、居酒屋で大学生の降谷と最悪な出会いをする。夢主がバイトを始めた塾で降谷と再会したことをきっかけに少しずつ距離が縮まり……?

    絶賛執筆中なので絵文字などもらえると励みになります!!
    Sabotage 1

     きっかけは金曜日の夜。
     彼の部屋で晩酌しながら、もう仕事なんて辞めたいとぼやいた私への彼の返答だった。
    「辛いなら無理して仕事続けなくていいよ。俺ももっと働くし」
    「何、珍しいこと言って」
     いつもなら「そんなこと言って、本気で辞める気はないんだろ」とか言って流すのに。持っていた缶ビールをローテーブルに置いて、キャンディ包みされたチーズへ手を伸ばすと、拗ねたような顔と目が合った。
    「だって最近のお前、ほんとに辛そうだし。それに俺だって、奥さんが仕事のせいで壊れたら嫌だよ」
    「えっ?」
     低めの声で聞き返した私に、彼は「そこはもっと可愛く聞き返すところじゃねえの」と笑った。だけど、私は突然の爆弾発言にかなり動揺していた。だって、確かに交際五年目の記念日は間近に迫っていたけれど、そんなのまだ先だと思っていたから。
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