推しと桜に誓う春 蕾
ゆるゆると浮かび上がった意識。腕に載ったままの温かな重みと、すぅ、すぅという規則的な音とともにほんの少し肌にかかる温かな吐息。まだ少し重たい瞼を開くと窓の外から光が差し込み始める頃で、起きようと思っていた時間よりは少し早いらしい。
ほんの少し顔を下に向けると、気持ちよさそうに目を閉じている彼女の顔が目に入った。この部屋で一緒に寝るようになってから暫くしてベッドを少し大きいものに変えたのに、あまり変わらない距離感を愛おしく思いながら、起こさないように、でもほんの少し気づいてほしくて背中に手を回す。
「ヒロくん」
名前を呼ぶ声ははっきりしているけれど、オレの返事を聞くより前に脚を絡ませてきたから、この子がまだ寝ているのは経験上わかる。わかっているけれど、気づかないふりをして抱き寄せる。
こんなに好きだと思える子に出会えるとも、その子がオレと同じ気持ちでいてくれて、穏やかで幸せとしか言い表せないような日々を過ごせるなんて半年前の自分は考えもしなかった。
今の奇跡みたいな生活に不満なんてない。
このままずっと彼女の一番近くで過ごしていきたい。彼女と一緒に色々な景色を見てたくさんの思い出を作りたい。
就籍許可の審判が済み、戸籍も手に入れた今、オレは間違いなく彼女と同じ世界に生きている。彼女も同じように望んでくれるのであれば家族になって同じ苗字を名乗ることもできる。何十年も先で親友と再会した時、彼女と目一杯幸せになったオレを見せたい。そんな未来を願っている。でも――
秋、空き巣事件のせいで自宅に帰るのを怖がるようになった彼女が、ただいまと嬉しそうに玄関をくぐったあの日、胸の底に再び芽生えた警察官として働きたいという想い。
一度は蓋をした。だけど、警察官だった頃のオレの映像をかっこいいとキラキラした目で見つめる彼女を目の当たりにする度、交番の前を通りがかる度、つい考えてしまう。
オレはこの世界には過去がない男だ。試験を受けたところで採用されないだけかもしれない。夢を言っただけで全て杞憂に終わるかもしれない。
でも、もしも警察官として採用されたなら。今のように朝も夜も毎日家で過ごすことなんて無理だということは身をもって知っている。それに、まず公安部に配属されることはないとしても、他の多くの職業に比べれば死に近いのは確かだと思うとなかなか言い出せずにいた。
「ねぇ」
もしもオレが警察官を目指したいと言ったら、君はどう思う?
眠っている時にそう聞くのは卑怯だよな。苦笑いしながら、幸せな夢でも見ているのか口元が緩んだ彼女の額にそっと唇を押し当てて、朝食を作るため布団から抜け出した。
第1章
二月中旬。立春とは名ばかりで、まだまだ気温は低く鍋が美味しい季節。フー、フーと息を吹きかけて冷ました白菜ともやしを口に頬張ると、豆乳の優しい旨味が口に広がる。咀嚼を繰り返しながら次はお肉、と箸を伸ばした時、ヒロくんのぼんやりとした視線に気がつく。
ゴクンと口の中に残った物を飲み込んで「どうかした?」とヒロくんに聞くと、彼は我に返ったみたいにぶんぶんと首を振る。
「ううん、別に。相変わらず美味しそうに食べるなあって思っただけ」
「だってヒロくんの作るごはん美味しいんだもん」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
ニィっと口角を上げて笑ったヒロくんは、さっき取ろうとしていた豚肉を私の取り皿に載せてくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
オレもそろそろ肉食べようかな、と弾んだようなご機嫌な声で言うヒロくんを見ながら、まただ、と思った。
最近、ヒロくんが少し変だ。多分ここ一ヶ月くらい。何か言いたいことがあるのに我慢しているような、そんな感じ。些細な違和感の正体が気にならないはずはなかった。でも、さっきのようにはぐらかされた時、もう一押しする勇気も私にはなかった。
何か取り返しのつかないことになったら、と思うと怖いから。今の関係が幸せだから。
本人へ直接聞かずに、この胸のざわめきを消すには自分でその原因を突き止めるしかなくて……。と辺りを見回した時、目に入ってきたのはテーブルの上の卓上カレンダー。
そういえば最近ちゃんとお出かけしていない。
寒いからとか腰が痛いとか、私が色んな理由をつけてはヒロくんとお家でのんびり過ごす提案ばかりをしているからだけど。それに、ヒロくんと一緒なら近所のスーパーでのお買い物も楽しいし、付き合いが長くなってきたのだから毎週末張り切って出かける必要もない、と私は思う。
でも、もしかしたらヒロくんは違うのかもしれない。久しぶりに遠出をしたら、少しはヒロくんの気分も晴れるかもしれない。
タイミングがいいことに、次の週末は暖かいという予報を今朝見たから、久々にいつもと違う過ごし方を提案してみようか。
でも、どこがいいんだろう。そう思いながらもう一度部屋を見回すと、本棚の上に置かれたカメラが目に入った。
一ヶ月程前、通勤途中の乗換駅にあるカメラ屋さんの店頭に並んでいるのを見つけ、一目惚れしたトイカメラ。可愛いカメラが売っていたと話したら、どんなのか見たいと言ったヒロくんが翌日その駅まで迎えに来てくれて、一緒に思い出を残すのもいいねと言って買ってくれたものだ。ただ、買った後にカメラを持って出かけるような場所へ行っていないから未だに日の目を見ていない。
「梢ちゃん。箸止まっているけど、どうした?」
「ちょっと考えてて」
「何を?」
お茶碗を片手にコテンと首を傾げるヒロくんに、真っ直ぐ向き直る。
「ねぇ、ヒロくん。今度のお休み、カメラ持ってお出かけしない?」
私の隣に座るヒロくんがうーんと悩むような声を上げながら白米をパクりと一口。
「梢ちゃんは何を撮りたいの?」
「んー、どこがいいかなあ。ヒロくんはどこに立っても絵になるけど」
「待って。オレを撮るの?」
びっくりしたような声を上げて、人差し指を自分へ向けるヒロくんに笑ってしまったのは私だ。
「だってヒロくんとの想い出をたくさん残すために、普通のじゃなくて、ハーフフィルムカメラにしたんだもん」
口を尖らせて見せると、買ったのはオレだよと正しいことを言う。
確かにそうだけど、私が見つけたのに。
「それじゃあヒロくんは何撮りたいの?」
「梢ちゃん」
「ほら。私と同じこと言ってる」
照れ臭さを隠すために笑うと、ヒロくんに照れてるだろ、と指摘されてますます顔に熱がのぼっていく。
「でもさ。真面目なこと言うとあのカメラにフラッシュ付いてはいるけど、買ったフィルムはISO200だから、外の方がたぶん綺麗な写真撮れると思うんだ。でも、梢ちゃんは寒いの、苦手だろ?」
「今週末は三月下旬の暖かさって天気予報で言ってたから外でも平気だよ」
「そっか。……あ、いい場所思いついた」
「どこ?」
聞いた私に声で答える代わり、ヒロくんは卓上カレンダーとその隣に置いているペンを持ち上げる。サラサラと綺麗な字で書き込まれたのは――。
*
「千駄ヶ谷門だって。そんなに広いの?」
園内のマップを見て呟いた私の隣で、「千駄ヶ谷は新宿からたった一駅だよ」とヒロくんが笑ったように言った。
「十分広いよ!」
「うん、確かに。千葉のテーマパークより広いみたいだね」
「え、嘘でしょ?」
聞き返した私に、ヒロくんは得意げにきゅっと唇の端を持ち上げる。
「ほんとだよ。オレ調べたから。あのテーマパークはどっちも大体五十ヘクタールで、ここは五十八ヘクタールくらいだって。だから言っただろ? 今日はちゃんと歩きやすい靴を選びなよって。まあ、その靴なら大丈夫だろうけど」
元々お散歩デートと言っていたくらいだから、今日は寒さ対策と可愛さ重視のブーツの代わりに、秋にヒロくんとお揃いで買ったスニーカーを履いている。
「そういえば梢ちゃん、ここ来たことないんだ?」
「うん、初めて来た。植物が好きな子とか写真を趣味にしている子からたまに話は聞いてたけど。特に家から近くもないし」
「そっか、オレも初めて。じゃあ、行こっか」
「うん!」
ヒロくんの隣を歩き始めてすぐ、見えてきたのは晴れた青空が映えるだだっ広い広場。広場の遠くに見える木には葉がまだついていなくて、冬らしく寂しい雰囲気だ。
「今の時期だと梅とか咲いてるのかなあ」
冬らしい公園で、ただのんびりお散歩をしたり、寛いでるヒロくんを撮るのも楽しそうだけど、折角来たなら綺麗なものも撮ってみたい。そう思っていればヒロくんが悪戯っぽく笑った。
「今の時期でも写真映えするところはちゃんとあるはずだから、行こう」
初めて来たというのに、自信満々なヒロくんが私へ手を差し出す。
「ほんとかなあ」
天邪鬼な言葉を声にしながらその大きな手に指を絡ませると満足げなヒロくんは、広場の横の小道へゆっくり進んでいく。常緑樹が道の両端に植えられた小道は、冬でも日陰を作っている。
「この道、夏は涼しいのかな」
「確かに。でも梢ちゃんの苦手な虫が出そうだよね」
「それはやだ」
首をブンブンと振った私に、ハハっと笑ったヒロくんは迷わずにまっすぐ歩いていく。
「今、どっち方面に歩いてるの?」
「んー? 強いて言うなら代々木方面かな」
「建物見えないのによくわかるね」
「さっき地図見たばっかりだし。っていうか梢ちゃん、方向感覚ないから一人だとすぐ迷子になりそうだよね」
「なっ⁉︎」
「いいの、オレが一緒にいるから。絶対迷子になんてさせないよ」
歩いて行くと、日本庭園と書かれた看板が見えて、大きな池が見えてくる。
「わっ! 梅と、桜?」
カメラを持った人が集まっていたのは、ピンクの花を咲かせた二本の木。
「うん。早咲きの品種。本当は伊豆へ河津桜見に行くのもいいかなと思ったんだけど、それだと早起きするか泊まりになるし」
「こっちの方が近いしいいね」
「その言い方、オレとの遠出が嫌だったみたいに聞こえるけど」
むっと不満げに口を尖らせたヒロくんに「そんなこと言ってないもん」と言い返すと、くしゃりと顔を崩したヒロくんが「知ってる」と笑った。
*
「梢ちゃん」
「ん?」
振り返るとカシャッというシャッター音とファインダーを覗いていたヒロくんとパチリと目が合う。
「わっ、反則」
「反則じゃないよ。っていうか、このカメラの存在すっかり忘れてただろ」
「違っ! っていうか私が持ってたはずなのに」
「それはだいぶ前にお預かりしてたんだけどな。ほら、膨れっ面してる写真撮られたくないなら笑って」
「うん」
ヒロくんの前だとどうしたって不機嫌が持続することはなくて、この人には本当に敵わないって思う。それに、今日はヒロくんがいつもより楽しそう。
河津桜の咲いている日本庭園エリア以外は花が少ない。けれど、お日さまが照らしてくれている温かな陽だまりの中、隣を歩くヒロくんの足取りはとても軽いし、表情だっていつもより明るい気がする。
「ヒロくん、いつも無理させてた?」
「ん? なんでそんなこと聞くの?」
「いや、今日特別楽しそうに見えたから。私が寒いからって最近お出かけ渋ってたのほんとは嫌だったのかなって」
「そんなことないよ。いつもみたいに梢ちゃんとお家でのんびり過ごすのも大好きだし、そもそも半分はオレのせい、みたいなところもあるし。でも」
「でも?」
聞き返すとヒロくんが一瞬だけ開いた口を閉じて、照れくさそうに笑う。
「こうして久々に出かけるのもやっぱり楽しいなって思ってるのは事実かな」
その言葉が、さっき言いかけたこととは違う気がした。それでも食い下がれなかったのは彼が、あっ、フランス式庭園が見えてきたよ、と話を逸らしたからで。
「フランス式?」
「うん。って言ってもここの本当の見頃はバラの季節の五月頃と紅葉の十一月頃なんだけど。でも、冬は冬でほら」
「わっ、白樺?」
私の言葉にヒロくんがくしゃりと目を細めて笑う。
「残念。これはプラタナスだよ。確かに樹肌がかなり白いけど。実際見るとすごいな」
「葉っぱないけど、でも真っ直ぐ整然と植わっていて、しかも道も広いからなんか外国に来たみたい。あ、これがフランス式?」
「うん。左右対称で幾何学的な形がフランス式庭園の特徴。ほら。今の時期は咲いていないけどバラ園が真ん中にあって、その向こうにもプラタナス並木があるから、左右対称だろ? マップ見た方がわかりやすいかもだけど」
「へぇ。やっぱりヒロくんも物知りだね」
漫画の中のあむぴみたい、と思いながら言った私の言葉にヒロくんがムッとしたような顔を向ける。
「も、って何?」
「は、です!」
慌てて言い直すと、ヒロくんは「そんなムキにならなくていいよ」と今度はケラケラと可笑しそうに笑った。
それにしても、この並木はすごく綺麗だ。日本だけど日本じゃないみたいな。まだ冬で葉もなく寒々しい見た目なのに、こんな風に素敵に見えるのだから紅葉の季節はきっと素敵だろう。
「ねぇ、紅葉は何色になるの?」
その問いに返事がなくて、振り向くと並木の入り口でしゃがんでカメラのファインダーを覗くヒロくんがいた。
「あっ」
「やっと振り向いた」
少し離れたところから楽しそうなヒロくんの声が聞こえると、言いかけた言葉なんてすぐに消えてしまう。
「ずるい、私も撮りたい」
「いいよ、オレは」
「私が撮りたいんだもん!」
「じゃあ一枚だけ撮って」
「なんで一枚だけ?」
「ハーフフィルムだから今撮った写真と今梢ちゃんが撮る写真、二枚で一枚に現像できるから。どう? いいアイデアだと思わない?」
はい、と渡されたカメラを受け取りながら「そこまで考えてなかった」と呟いた私に、ヒロくんは「そうだろうなあと思ってた」と答える。
「オレは梢ちゃんのシャッター押した回数含めて今何枚目かずっと考えてたけどね」
得意げな顔をした彼が並木道へ歩き出した時、考えがふと浮かんでその腕を掴む。
「どうした?」
「いいこと思いついたんだけど」
「何?」
「向こうの道で撮らせて。左右対称なんでしょ?」
指差した方向を見て、意図を察してくれたのか「いいアイデア」と言って笑った。
写真をお互いの気分のおもむくまま撮り合って、広場で遊ぶ子どもたちを眺めながらお弁当を食べて、とのんびり過ごしているとだんだん肌寒くなってくる。軽く首をすくめた私に、手を重ねたヒロくんが「そろそろ帰る?」と言った言葉を皮切りに、出口へと歩き出す。
「今日、たくさん写真撮ったね」
「うん。でも今四十枚だから、三十六枚撮りのこのフィルムを使い切るにはもう少しお出かけしないとかな?」
「そっか! たくさん撮れるのにお得だ」
「その分、一枚ずつの画質は下がるけどね。でもまた近いうちに写真撮って、今度こそ現像しよう」
「うん! あ、この後行ってみたいところがあるんだけどいい?」
「ん? どこ?」
「景色のいいとこ」
「えっ、どこ?」
きょとんとした顔で首を傾げるヒロくんに、珍しく察しが悪いなあと思いながら、少し出し抜けたのが嬉しくて笑ってしまう。
「着いてきて!」
繋いだままのヒロくんの手を引いて、少し前を歩き出すと、背中から可愛いという笑ったような声が掛けられた。
*
勢いよく街中へ飛び出したものの、案の定というべきか私はいつもの方向音痴を発揮した。えーっと、なんて建物を見上げながら街中を歩く途中、察しのいいヒロくんはどこへ向かおうとしているのか気づきそうなのに結局最後まで道を教えてくれなくて、多分遠回りをしたけれどなんとかツインビルの前に着いたのは、日がかなり傾いた頃。
背の高い目的の建物を見上げると「梢ちゃんが行きたかったのってここ?」というとぼけたようなヒロくんの声。
「……ヒロくん、途中から目的地はわかってたでしょ?」
「いや? 梢ちゃんが教えてくれないからわかんなかった。オレ、エスパーじゃないし」
とぼけた顔でそう言った後、「嘘、ほんとは一生懸命な姿が可愛かったから黙ってただけ」と白状してくるのがヒロくんらしくて思わず笑ってしまう。
「梢ちゃんのお目当ては展望台?」
「そう!」
「ここは来たことあるの?」
「んーん。都庁に展望階があるのは知ってたし、この辺りに来たことは何度かあるんだけど、いつも結構並んでるから上るのは今日が初めて」
「そっか。オレもないなあ、この上から見たこと」
「今日は二人の初めて尽くしだね」
「うん、そうだね」
順番を待って展望台に上がると、目の前に広がるのは夜景だった。
「見て! 東京タワー!」
「梢ちゃん、本当に東京タワー好きだよな」
「だってフォルムが可愛いんだもん。あと色も」
「赤が好きなんだ?」
揶揄うような声のヒロくんが、繋いだままの右手をきゅっと握る。
「……ヒロくんだって好きって言ったじゃん」
「言ったよ。でも、可愛いなあって」
またこういうことを言う。恥ずかしくて目を逸らすように窓の向こうの景色を見ていると、黙ったままヒロくんの大きな手が私の手に触れる。それだけじゃ物足りない私が指を絡ませると、きゅっと握り返される。
その体温が温かくて幸せで、口元が緩む。
「ねぇ、梢ちゃん」
「ん?」
ヒロくんの方を見ると思いの外真剣な顔をしていて少したじろいだけれど、ここで動揺したらまた何でもないとはぐらかされてしまいそうだから、できるだけ平静を装って「なに?」と聞く。
「ここしばらくずっと考えてたんだけど」
「うん」
「オレ、やっぱりもう一度警察官を目指したいんだけど、梢ちゃんはどう思う?」
明確な意志を持った光を宿しているのに、そのアイスブルーの瞳がゆらりと不安げに揺れる。
「どうって、私はもちろん応援するよ」
「……本当に?」
私にずっと言いたかった話ってきっとこれだったんだ。それがわかっただけで、そして打ち明けてくれただけで私はこんなにも嬉しい。だって。
「うん。だって私が大好きなヒロくんは、誰よりも正義感が強くて優しくてかっこいい人だもん」
「ベタ褒めされると照れるな」
「事実だもん!」
「ありがとう」
安心したのかふにゃりと笑ったヒロくんがぎゅうっと人目もはばからずに抱きしめてくる。
「ちょっとヒロくん!」
あの時ヒロくんが話を切り出せなかった理由をもう少し考えてから返事をすればよかったとほんの少し後悔するのは、この時の私はまだ知らないことだ。