どこもかしこも触られていない部分などないような気がするのに、キスだけをした記憶がないというのも変な話だ。だから何故かと疑問を口に出したのは、なにもおかしな事はない筈で。
けれど当のヴァッシュはひどく驚いたように目を丸くして、それから小さく、いいの?とウルフウッドに問うた。
「していいの?」
本当に?幾度も確認するヴァッシュの碧い目が、期待を込めてウルフウッドを見上げている。
こんなふうに目に見えて分かるほど喜ばれるとは思っていなかった。キスなんて口と口がくっつくだけだろう。ウルフウッドが持つ認識は所詮その程度なのだが、反応を見るにヴァッシュにとってはどうやら違うようだった。大したことない。分かっているのに、きらきらと瞳を輝かせるヴァッシュを目の前にするとなにやら大層なことをするような気持ちになってくる。自ら言い出したことなのだが、ウルフウッドは少しばかり尻込みしそうになっていた。
2027